Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、メルセデス・ベンツ A200 のレビューです。


A Class

ドイツ人にはユーモアのセンスがないとよく言われている。しかしそれは間違っている。なぜなら、メルセデスはフォルクスワーゲン・ゴルフと同じサイズの1.3Lハッチバックを滑稽な価格で売り出したからだ。なにより面白いのは、この価格でも欲しいと思う人がいそうなところだ。

私はずっと、贅沢で美しいインテリアが大きな車にしか採用されない理由が分からなかった。ソフトなレザーや分厚いカーペットを求める人が、必ずしも5mのレッグルームを持つリアシートやジョーン・コリンズの帽子すべてが入るほどの荷室を求めているのだろうか。どうして大型高級車と同等に豪華な小型車が出てこないのだろうか。

ルノーはかつて、5 モナコ(日本名: 5 バカラ)という車を出したことがある。この車には必要十分以上の排気量のエンジンが搭載されていたのだが、それはスピードではなく静粛性を追い求めた結果だ。そして、驚くほど上質なレザーで覆われたふかふかのシートが付いていた。

私は販売も大成功するだろうと思ったのだが、実際のところ、イギリスではほとんど売れなかった。結局、どれだけ表面を贅沢に飾ろうとも、その中身は安物でしかなかった。壊れやすくて錆びやすく、暑い日にはエンジンが始動しなかった。

幸い、モナコの失敗はメルセデスの新型Aクラスの登場には何の影響もなかった。新型Aクラスの考え方はモナコとまったく同じだ。実際、A200 AMG Line に乗り込むと、すぐに欲しくなってしまった。

interior

試乗車の装備内容はさほど充実していなかったのだが、室内の居心地は素晴らしかった。ダッシュボードには重厚な金属のような素材が使われており、5つのエアコン吹出口はロッキード SR-71ブラックバードのエンジンのようだった。しかも、冷たい空気を出すときは青く光り、温かい空気を出すときは赤く光る。

科学的に存在が確認されているあらゆる色を選ぶことができるオプションまで存在するし、それでもお気に入りの色が見つからないなら、オートに設定すれば走行中は色が自動的に変化する。それはまるでオーロラのようで、私はとても気に入った。

車内には2つのスクリーンがあった。ひとつはナビやオーディオなどに使うもので、もうひとつはメーター用なのだが、これも気分に応じて変更することができる。私は運転中の85%をこのスクリーンを眺めて過ごし、残りの15%は進行方向を見ていた。

不思議な話だ。注意力が散漫になるという理由のもと、運転中に電話をしたり同乗者と戯れたりすることは禁止されている。にもかかわらず、ピンク・フロイドのライブ照明のようなダッシュボードを前に運転することは許されている。

ここで補足しておくが、Aクラスはそれほど小さな車ではない。たとえば、初代Aクラスと比べると圧倒的に巨大だ。新型はホンダ・シビックとほとんど同じ大きさだ。メルセデスの中ではかなり小さいのだが、5人家族には十分な大きさだ。

rear

だからこそ、1.3Lという排気量に驚いた。オースチンなら1.3Lでも十分なのだが、1.3トン以上の車に1.3Lという排気量は物足りないようにも思えるし、正直なことを言ってしまうと、実際1.3Lでは物足りない。

確かにターボは付いているし、100km/hまで8秒で加速することもできるのだが、聞こえてくる音はどうしても安っぽい。それに、7速DCTはどのギアを選ぶべきなのかいまいち分かっていないようだ。なので、加速はうるさいし、ギクシャクすることもある。けれど、スピードメーターを緑色に変更しようとするのに夢中なのでそんな欠点など気付かない。

走りはどうだろうか。標準車のリアサスペンションはトーションビームで、メルセデスの原理主義者は大暴れしてこれを拒絶している。しかし、私にはその理由が理解できない。試乗車には上級のマルチリンクサスペンションが備わっていたし、これが良いものであるということは知っていたのだが、オーロラに照らされているときに、リアの衝撃吸収性になど気を配っていられない。

真面目な話、最近の車らしく足は硬い。特に、この車を購入するような人はハンドリングなんかよりもライティングを重視しているはずなので、もっとソフトにしたほうが良かっただろう。

結局、車として考えるとあまり優秀ではない。エンジンもトランスミッションも乗り心地も価格もすべて欠点だらけだ。けれど、それでもこの車が欲しいと思う人の気持ちも分かる。これは車などではなく、いわばデザイナーズマンションだ。