Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、ダチア・ダスターのレビューです。


Duster

中古で買いたくないものはたくさんある。下着、ノートパソコン、マットレス、歯ブラシ、綿棒、などなど…。

しかし、車はどうだろうか。アルバニア人たちが掃除用具を駆使して前オーナーの形跡など完全に消されているはずだと思っている人もいるだろうが、私はそうは思えない。

何年か前、状態の良い中古車を何台か用意して、CSI的な科学調査を行った。紫外線ライトや綿棒を使った鑑識作業の結果、残念な結果が得られてしまった。どの車も唾液で覆われ、うち2台はリアシートから大量の精液が検出された。運転席の足元から多量の糞便が検出された車も1台あったし、車内で斬首が行われたのではないかと推定されるほどの量の血液が検出された車もあった。しかも、その車からは嘔吐物まで検出された。

中古車を購入するとき、こういうことに考慮する必要がある。見た目は新車のように綺麗でも、その裏側はそうではないかもしれない。なにせ、誰もが、フィリップ王子だろうと、ジョアンナ・ラムレイだろうと、鼻をほじることはある。そして、出てきた鼻くそは指先で丸めたあと、強力なダイソンでも届かないような椅子の隙間に放り投げてしまう。

要するに、仕事に向かう手段として中古車を購入するのは、尻を拭く手段として使い古しのトイレットペーパーを使うのと大差ない。あまりにも不快だ。

これが今回試乗した新型車の話に繋がる。2代目ダチア・ダスターだ。まずこの車を簡単に説明してしまおう。巨大な荷室と5人の大人が問題なく座れる居住空間を持つ、ミドルサイズの堅牢なオフロードカーだ。にもかかわらず、価格は10,000ポンドを切る。価格は競合車と比べるとおよそ3分の1だ。

この車のコストパフォーマンスの高さは、マクドナルドのハッピーセットの比ではない。それに、私の記事を載せているサンデー・タイムズ紙の比でもない。それらを圧倒的に上回っている。3年保証と穢れなきインテリア、そして新車の匂いが1万ポンド未満で得られてしまう。となると、ベトナムの搾取工場で、幼児奴隷の手によって、使い古しのCDケースを原料に作られているのではないか、と疑いたくもなる。

rear

しかし、そんなことはない。ダスターはいまだルーマニアに住み続けている数少ない人達によって、ダチアの親会社であるルノーがもう必要としなくなった古い機器や部品を使って製造されている。つまり、ダスターの中身は実質的に昔のクリオ(日本名: ルーテシア)だ。そこには何の問題もない。昔のクリオは良い車だったし、当時としては安全性も高かった。

ただ、エンジンには少し問題がある。試乗車に搭載されていた1.6L 4気筒ガソリンエンジンはターボチャージャーが生まれる前の時代のものだ。そのため、最高出力は115PSで、最大トルクは15.9kgf·mだ。数字的に特別不足を感じるほどではないのだが、現実はそう甘くない。

高速で6速にすると、まったく加速してくれない。下り坂に差し掛かると加速はするのだが、それはあくまで重力によるものだ。右足をどのように動かそうと何も変わらない。この問題を回避するためには4速までシフトダウンする必要があるのだが、そうするとグレイトフル・テッド級の騒音が耳をつんざく。

街中ではさらなる問題が降り掛かってくる。試乗車は4WDだったのだが、高価なローレンジギアなど装備されず、代わりに1速と2速がローレンジっぽいセッティングになっていた。おかげで、6km/hで走るためにも3速までシフトアップしなければならない。

ダスターを運転しはじめてすぐに2速発進すべきだと理解し、さらに目を充血させながらレッドゾーンまで回したあと、ようやく3速に入れてまともに運転することができるようになった。同様に4速も普通だ。ところが、5速も無意味なので次は6速に入れなければならない。

ダスターを滑らかに運転させられる人間など存在しない。穏やかに運転できる人も、それどころか人間としての尊厳を保ったまま運転できる人も存在しない。しかも、この車には電灯や洗濯機程度の個性しか存在しない。ダスターを「愛車」と呼ぶような人間はどこにも存在しないだろう。

どれだけ悪戦苦闘しようと、この車は速く動いてくれない。0-100km/h加速は12.9秒で、これは人間の時間に換算するとおよそ1年だ。最高速度は169km/hで、ダチアの初老でアデノイドのファンに言わせると、これで十分らしい。これについてわざわざ言い争うつもりはない。1956年級の値段の車の最高速度が1956年レベルだったとしても、それを非難しようとは思わない。

interior

この車を見た人は、センスの悪いゴールドのボディカラーや恐ろしく安っぽい内装について散々馬鹿にしていた。けれど、私が「この車は4WDで3年保証まで付いて、1万ポンドしないんですよ」と言うと、全員が黙ってしまった。

ただ困ったことに、この記事を書くために家に帰って老眼鏡でカタログを再確認してみると、1万ポンドを切るのは2WDの最廉価グレードだけだった。今回試乗した4WDの「Comfort」というグレードは15,195ポンドだった。しかも、おぞましいゴールドのボディカラーは495ポンドのオプションで、ナビに西ヨーロッパの地図を追加するためには90ポンドかかる。つまり、90ポンドをケチるとラトビアの道しか案内してくれないのだろうか。

ダスターは痛ましいほど遅く、恐ろしいほど運転しづらく、16,000ポンドよりずっと安く買える中古のルノーにある魅力も存在しない。あまりにも馬鹿げている。

日産もセアトもスズキもキアもこの車と同じくらいの価格の車を売っているし、そのいずれもダスターよりは安全で、あらゆる面でダスターより優れている。

東欧の地図と5速MTしか付いていない2WDの最廉価グレードなら、友人に「9,995ポンドで新車が買えたんだぞ」と自慢することはできる。

しかし、そんな車を買うくらいなら、乾いた他人の鼻水まみれの中古のレンジローバーイヴォークかBMW X3かアウディ・Q5に乗って仕事に行ったほうがずっとましだ。