Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのリチャード・ハモンドが英「Top Gear」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、ジャガー Eタイプのレビューです。


E-Type

僕は愛車の整理を行った。新しく家にやってきた車もあるし、売ってしまった車もあるし、朽ち果ててしまった車もある。そんな愛車たちの中には、あまりに美しく、つい雨の中でも庭に出て、ガレージのドア越しに見つめたくなってしまうような車がある。

その車こそ、1962年式の水色のジャガー Eタイプだ。僕が所有しているのは3.8Lの直列6気筒エンジンを搭載するシリーズ1だ。のちに登場したV12モデルは重くて複雑で、バランスや安定性が崩れてしまっていた。それに、最終型モデルはアメリカ人の要求に応じた結果、巨大なバンパーやバルジが追加されて美しいラインが損なわれてしまっている。

僕は昔からずっとEタイプを崇拝している。子供の頃、アレグロ エステートの納車のために両親とシャーリーの中古車ディーラーに行ったとき、ショールームに飾られていたEタイプを見かけた。当時8歳だった僕は興奮して、車に乗せて欲しいと頼み込んだ。僕のしつこさに負けたのか、店員さんは僕を運転席に乗せてくれた。

この車に乗りたいなら、ちゃんと成功して、それから助手席に女の子を乗せられるようにならないとね。魅力的な女性に相応しい、色男のための車なんだ。
店員さんはそう僕に言った。まだ子供だった僕は、「女の子」と聞くだけでも恥ずかしく、つい赤面してしまった。

恥ずかしさを隠すため、僕はなにか大人ぶったことを話そうと思った。僕はEタイプの横に書かれていた値段を見て、お金の話をすれば大人も感心するだろうと考えた。僕はショールームに展示されていた別の、Eタイプよりもずっと新しい車を指差してこう言った。
あれを買えるだけの金があるなら、この車だって買えるはずなのに、どうしてわざわざあんな車を買う奴がいるんだろう。

しかし、店員さんは苦笑いしながら、あの車の値段ではEタイプのエンジンすらも買えないと説明してくれた。確か僕が指差していたのはヒルマン・インプかタルボ・ホライズンだったと思う。僕は恥ずかしさで死にそうになってしまった。

僕のEタイプへの愛情はいまだ変わらずあるのだが、今まで購入しようと思ったことはなかった。もちろん、Eタイプの美しさは疑いようもなく色褪せてなどいない。それに、パフォーマンスに問題があるわけでもない。しかし、Eタイプは僕にとってずっと、色男のための車だった。美人を乗せるための車だった。そして、僕にはそんな資格などないと思っていた。

しかしあるとき、何かが変わった。どこかで誰かが、おそらくはファッション誌か何かだと思うが、もはやEタイプは色男のための車などではないと決めてしまった。なかなか妙な話だ。Eタイプという車の社会的地位が根本的に、しかもいつの間にやら変わってしまっていた。

昔、Top Gearで、最新の高級車を買うより、ローバー P5に乗ったほうがクールだという話をしたことがある。ところが今や、P5を運転しているのはナイロンのベルトを身に着けた中年男か、必死に周りの気を引こうとしている若いオタクばかりだ。

昔のアウディ・クワトロも同じだ。実績のある非常に優秀な車なのだが、今クワトロを運転しているのは、クワトロの登場当時にはクワトロが欲しくても買えなかったような中年ばかりだ。

とはいえ、Eタイプは普通の車とは一線を画しており、魅惑的で伝説的な車を求める真の車好きが今でもこぞって欲しがっている。

僕がEタイプを買って最初に運転したのはヘレフォードシャーで、6気筒の音が、排気音が鳴り響くのを聴いて、僕はついつい笑顔になった。ガレージで眺めてみると、その地を這うような美しさは圧倒的で、感動で気絶しそうになってしまった。周りの新しい車たちが醜く軟弱に見えてしまった。

僕はレザーシートに包まれ、栄誉ある3.8Lエンジンを始動させて街へと繰り出した。ファミリーカーに乗る子供たちはEタイプを見ると笑顔になった。その時、僕は理解した。変わったのは車なんかではない。我々人間なのだということを。