英国「Top Gear」による新型 トヨタ・スープラの試乗レポートを日本語で紹介します。
我々は16年間、スープラの復活を待ち望んでいた。5代目(その原点を2000GTと見るなら6代目と言えるかもしれないが)となる新型スープラは、再び世に馬力戦争を引き起こすことになるのかもしれない。あくまで可能性の話だが。
スープラはBMWと共同でZ4とともに開発されているので、トヨタらしい野性味が抑えられ、ドイツ車的な穏やかな車になってしまったのではないかという危惧もあった。基本構造やエンジン、トランスミッション、そしてインテリアの大半をBMWと共有しているのに、果たしてトヨタは旧来のスープラのような狂気を新型モデルに芽吹かせることはできたのだろうか。
新型Z4は既に公式に発表されているのだが、スープラに関しては2019年初頭までその完全な姿を拝むことはできない。なので、今はまだカモフラージュが施されている。とはいえ、今回のプロトタイプはほとんど完成版なので、量販版とほぼ同じ走行性能を有し、ラッピングの内側には完成版と変わらぬデザインが隠れている。
我々はマドリードに行き、Gazoo Racingの主任であり、新型スープラの生みの親でもある多田哲哉氏と会った。多田氏はGT86(日本名: 86)の生みの親でもあり、近年の自動車業界における英雄のひとりとも言えるだろう。
発売前の試乗会といえば、試乗時間が非常に限られており、座学でプレゼンを聞く時間がほとんどで退屈な場合が多いのだが、今回は違った。今回は公道とサーキットの両方で長時間の試乗が許され、カモフラージュを穴が空くほど(もちろん実際に穴を開けることは許されないが)眺める余裕もあった。
スペックについてはそれなりに教えてもらったものの、まだ明らかにされていない部分もあり、それは公式発表までのお預けとなっている。しかし、多田氏自身も言っていたのだが、スープラは数字ではなく感情に訴えるタイプの車だ。
多田氏は以下のように語った。
「もともとトヨタはスペックや利益率を求めていましたし、それは今でも重要ではあるのですが、我々はそれ以上にその車でしか得られない価値というものを重視するようになりました。こういった『数字も重要だが、それ以上にフィーリングを大切にする』という考え方は豊田章男が社長に就任してから始まりました。」
基本構造はBMW Z4と共通なのだが、多田氏によると、2台をしっかり差別化するため、開発プロセスはかなり初期のころからBMWとトヨタがそれぞれ別個に進めていったらしい。
現時点でエンジンスペックは明かされていないのだが、搭載されるのはBMW製の3.0L 直列6気筒シングルターボエンジンで、最高出力は300PSを超えるそうだ(具体的な数字はまだ発表されていない)。トランスミッションはBMW製の8速ATで、当然後輪駆動だ。
LFAとは違い、(コスト削減のために)シャシにもボディにもカーボンファイバーは使われていないのだが、捩り剛性はレクサス・LFAよりも高く、重心はフロアのかなり低いGT86よりもさらに低い。
具体的な数字は明かされていないのだが、多田氏はスポーツカーを作る上で重要なホイールベースやトレッドの黄金比についても語った。エンジンをフロントアクスル後方に配置してフロントミッドシップとすることで50:50という完璧な前後重量配分を実現し、ブレーキには4ポッドのブレンボが使われ、リアにはアクティブディファレンシャルが装備され、パッシブダンパーとアクティブダンパー(地上高は7mm低くなる)を選択することもできるそうだ。
ニュルブルクリンクやスウェーデンの凍結湖でのテストも行われてはいるのだが、開発の90%は公道で行われている。トヨタは基本的にスープラを公道で走らせるための車だと考えているようだ。
ベンチマークとなったのは開発当初からポルシェ・ケイマンだそうだ。多田氏もミッドシップレイアウトにはそれにしかない強みがあると認めているのだが、サーキットでの性能は「ほぼ同等」だそうで、また多田氏は718の音について「あまり良くはないし、特にGTSの音に魅力は少ない」と語っている。
では、どうして新型スープラはミッドシップにならなかったのだろうか。実のところ、ミッドシップにするという計画は存在したそうだ。多田氏は計画段階でBMWにミッドシップ化を申し入れ、BMWもそれに賛成してくれたらしい。ところが、豊田章男社長のところにその計画を報告したところ、跳ね除けられてしまったそうだ。
エクステリアデザインに関しては、現時点で評価するのは難しいのだが、2014年のFT-1コンセプトや2018年のGRスープラ レーシングコンセプトのデザインを考慮すれば、期待は自ずと高まる。近くで眺めてみると、リアフェンダー周辺部は大きく膨らんでおり、ルーフはダブルバブル型で、リアスポイラーはダックテール型、そしてリアにはシンプルながらも迫力のある2本のテールパイプが見て取れる。
エクステリアデザインはBMWよりもずっと野性的なのだが、インテリアに目を向けるとBMWとの共通性もよく見えてくる。室内のあちこちが薄布で覆われてカモフラージュはされていたのだが、だいたいのインテリアは丸わかりだった。
メーター類はスープラ独自のものなのだが、操作系やセンタースクリーン、ステアリングなど、あちこちにBMWとの共通部品が見受けられ、明らかにミュンヘンの血が感じられた。しかし、正直なところ、GT86のインテリアの質感を考えると、むしろBMWと共通で良かったとすら思える。
実際に運転してみると、まだ新型Z4を運転していないのではっきりしたことは言えないのだが、少なくともエンジンは非常にBMW的な性格だった。ただ、このエンジンとトランスミッションの組み合わせは非常に魅力的で、応答性も良いし、どの回転域でも活気があり、どんなに酷使しようとも滑らかさや落ち着きを失うことはない。
最初にスープラを運転したのはマドリード郊外の美しいワインディングロードだった。今回は比較用にGT86も用意されており、こちらの走りも改めて魅力的だと感じた。ただ、スープラと比べてしまうと、GT86のエンジンは無気力に感じられた。滑らかなトランスミッションのおかげもあって、スープラのほうがずっとトルキーで滑らかに感じられ、あらゆる面で洗練度が高かった。
スープラでタイトコーナーを攻めてみると、滑りやすいGT86と比べると安定感が高く、より落ち着いて運転することができた。グリップ力が高く、またエンジンの性能もGT86より高いので、現実世界ではGT86より速く走ることができるし、だからといって楽しさを失ってしまったわけでもない。フロントは地面に吸い付き、正確な走りを見せるのだが、同時にわずかなロールもあるので、ハンドル操作に対する応答に生命の息吹も感じる。
ステアリングはフィールに富んでいるわけではないのだが、荷重に応じて重さはしっかり増していくので、タイヤの限界を知る助けにはなってくれる。ブレーキは強力で効き方もリニアだし、着座位置が低く、トランスミッショントンネルに覆われるような感じがするので、運転に集中できる環境にある。この車は基礎がかなりしっかり作られており、あえて本気を出さなくとも運転を楽しむことができる。
続いて、我々はハラマ・サーキットでのテストを行った。サーキットで運転したのは公道で試乗したものとまったく同じ個体で、同じミシュランのPilot Super Sportを履いていた。
サーキット走行前の説明で、多田氏は「この車は運転が下手な人のための車ではない」ということを話していた。ただ、2周してみて、私は多田氏のようには思わなかった。決してシャープさが足りないというわけではないのだが、運転に慣れない人でも運転しやすく、グリップにも余裕があるし、グリップが尽きそうになってもそれを簡単に察知することができる。
サーキット向けに開発された車と比べればやはり不安定さは目立つのだが、それはある意味で楽しさにもなるし、ちょっとしたスリップやアクセル全開にしたときのエンジン音は非常に心地良かった。
サーキットでも公道でも楽しみたいなら、300~350馬力くらいがちょうどいいと思う。これくらいあればタイヤの限界を多少超えることはできるし、かといって、ちょっとアクセルの操作ミスをしても致命的になるわけではない。
全開加速時にも高速コーナーでもピッチングやロールが気になるようなことはなかったのだが、排気音に関しては少し物足りなさを感じた。ただ、全体的に見れば、バランスは見事だし、トヨタはスポーツカー作りに成功したと言えるだろう。
多田氏は豊田章男社長が最初にスープラを運転したときのエピソードを話してくれた。豊田社長はスープラから降りると、多田氏に「車との対話が少ないのが問題だ」と話したそうだ。それを受け、多田氏率いるチームは豊田社長が満足するまで人と車との一体感を突き詰めていった。
そうして生み出した一体感は、ひょっとしたらチューニングによって台無しになってしまうかもしれないのだが、トヨタはチューニングに関して肯定的だ。多田氏は早期からスープラのスペックを各種チューナーに公開することを検討しているそうだ。
多田氏によると、最もよく訊かれるのは「新型スープラに2JZを積んでもいいのか」という質問だそうだ。多田氏はその質問に「どうぞ、是非やってみてください」と答えているそうなのだが、トヨタ自身が積極的にアフターマーケットの改造に関与していくような計画はないらしい。トヨタが関与してしまうと、どうしても自由度が下がってチューニングメーカーの独自性を削いでしまうと考えているそうだ。
多田氏いわく、装備を削ぎ落としたサーキット向けモデルの計画も存在するらしく、車名はスープラGRMNになるかもしれない。多田氏は以下のように語った。
「いつになるかは分かりませんが、どこかでサーキット向けの軽量版スープラを出したいとは思っています。既にレース仕様のスープラは作っているので、100kg軽量化すれば車が大きく変貌することは実証済みですし、あえて馬力を増やす必要性はないと思っています。ただ、公道を走行できる車にするかどうかはまだ定まっていません。当然、公道を走れるようにするためにはそれなりの制約が出てきてしまいますから。」
他にも、BMW製の2.0L 直列4気筒ターボエンジンを搭載した250~300馬力程度のモデルの登場も噂されているし、マニュアルトランスミッション追加の噂もある。
最後にまとめることにしよう。新型スープラは真っ当なスポーツカーに仕上がっている。マツダ・MX-5(日本名: ロードスター)や新しいアルピーヌ・A110、そしてGT86で感じたフィーリングをスープラでも感じることができた。GT86と比べると、スープラはより上級なモデルなのだが、それでも純粋さが失われているわけではない。
近年のトヨタはただ販売台数を追い求めるのではなく、消費者に寄り添うことを学び、そして車の楽しさを重視するようになってきている。もちろん、価格設定にもよるのだが(おそらく5万ポンド程度になるのではないかと予想している)、非常に魅力的な車に仕上がっていると感じたし、これからさらに情報が明らかになっていくことが楽しみだ。
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