インド「AUTOCAR」による新型スズキ・エルティガの試乗レポートを日本語で紹介します。


Ertiga

自動車の開発というのは大変な仕事だ。そしてときに、理想よりも小さい車が生まれてしまうことがある。それは開発者が妥協をしてしまった結果だ。旧型エルティガはそんな車の一例だ。

軽くてコンパクトな7人乗りミニバンとして開発された旧型エルティガは、マルチスズキ自身も小さすぎたと反省しているようだ。その結果、新型エルティガは室内がより広大になり(全長は130mm延長)、エンジンの排気量も増加(+88cc)している。

しかし果たして、こういった変化がどれだけエルティガの実際の走りや実用性を向上しているのだろうか。それを確認するため、今回はジャカルタ郊外で新型エルティガのテストを行った。

実際に新型エルティガの実物をじっくりと眺めてみると、従来よりも大型化し、鈍重感が増していることが実感された。結局、ミニバンで重要となるのは室内空間なのだが、おかげでデザイナーの仕事は大変になる。

デザインと実用性の戦いは昔からずっと続いている。この難しさを理解するためには、新型エルティガのエクステリアをじっくりと眺めてみればいい。とはいえ、スズキは新型エルティガを従来よりは魅力的な見た目に仕上げることに成功している。

新型エルティガにははっきりとしたボンネットが備わる。旧型エルティガはワンボックスに近いスタイリングだったのだが、新型にはSUVのような明確なノーズが存在する。プロポーションはトヨタ・イノーバ クリスタに近く、またボンネット自体のデザインも魅力的だ。

シャープな印象のヘッドランプは内部まで美しくデザインされており、ヘッドランプとフロントグリルの境界あたりは非常に複雑なのだが、実に上質にデザインされている。フォグランプ周りのコの字型の囲いは車の顎部分に迫力を加え、前後のドアハンドルを結ぶプレスラインはスポーティーな印象まで与えている。

リアに目を向けると、フローティングルーフやL字型のヘッドランプも魅力的に映る。それだけに、背の高さは気になるところだ。それに、このような見た目だと15インチホイールは小さすぎるように見えるし、全体的なプロポーションを台無しにしてしまっている。SUVにすればずっと良かっただろう。

ボディサイズ拡大に合わせ、新型エルティガには排気量を拡大した従来よりパワフルなエンジンが搭載されている。新たに搭載されるK15B型エンジンの排気量は従来の1.4Lエンジンから88cc増加しており、最高出力は93PSから106PSまで向上している。当然、最大トルクも向上している。

rear

ただし、エンジンの性格はあまり変わっていない。従来の1.4Lエンジンは非常に扱いやすく、低速域から滑らかに加速してくれたのだが、新型の1.5Lエンジンもまったく同じ性格だ。それに、パフォーマンスに関してはわずかながら向上しているように感じられた。

この結果、低速域でも高いギアで走り続けられるようになった。特に渋滞の多いジャカルタ中心部などでは扱いやすいだろう。とはいえ、当然ながらフル積載時にはより頻繁なシフトダウンが要求されるのだが、それでもどの速度域でも扱いやすいことは変わらない。

パワーやトルクの出方は非常にリニアだ。パワーの出方は非常に滑らかで、トルクに関しては4,400rpmのピークまで徐々に増していく。エンジンは6,200rpmまでしか回すことができないのだが、4,500rpmを超える程度で十分なパフォーマンスを発揮することができる。急いでいるときにも不満は感じないだろう。

ただ、新しいK15B型エンジンは特別静粛性が高いわけではなく、特に4,000rpmを超えるような高負荷域ではうるさい。そして5,000rpmを超えるとなおやかましくなる。それに例えば、ホンダ・シティ(日本名: グレイス)の1.5Lユニットと比べると、滑らかさや楽しさは劣る。少なくとも、遮音はもう少し徹底するべきだろう。

新型エルティガが最も輝くのは、渋滞の中ではなく流れの良い道路だろう。新型には「HEARTECT」プラットフォームが採用されており、驚くべきことに、その走りは全長4.4mの7人乗りミニバンというよりは大きめのハッチバックのようだった。

車線変更時などではステアリング操作で車の大きさを実感するのだが、ハンドリングに関しては操作が軽くて非常に扱いやすく、ついミニバンに乗っているということを忘れてしまうこともあった。ステアリングはバレーノと同じくらい軽く、クラッチフィールも普通のスズキ製ハッチバックと似たようなもので、ブレーキの効きはリニアで制動力も適切だった。

ただし、特に長めのコーナーや車線変更を繰り返すような場面ではボディサイズの大きさゆえのロールが気になった。それでも、基本的にハンドリングは優秀で穏やかだ。コーナーを多少スピードを出して抜けようとしても、怖さを感じることはない。それに、5速MTは操作するのが楽しい。新型エルティガはハッチバックと同じくらい運転しやすいミニバンだ。

ただ、サスペンションはやや硬めで、大きめの段差を乗り越えると衝撃ははっきりと伝わってくる。とはいえ、基本的に乗り心地も穏やかで十分に快適だ。

そして、目的地であるジャカルタ郊外の開けた場所に到着した。そこからエルティガを眺めても、見た目に関してネガティブな印象は抱かなかった。撮影班がニコンのカメラで撮影を始めたのだが、日光が眩しかったので私は室内を詳しく眺め、ミニバンとしての実力を確かめてみることにした。

interior

2列目シートを最低限のレッグルームを確保できる範囲でできるだけ前方にスライドさせ、3列目に乗り込んでみた。乗り込み自体はそれほど難しくなかった。ただ当然、頭を下げて乗り込む必要はある。そして実際に3列目シートに座ってみると、驚くほど広大な空間が広がっていた。

旧型モデルと比較してもかなり広かった。ヘッドルームは身長180cmを超える人には、特に荒れた路面を走っている時には狭く感じられるかもしれないし、着座位置はやや低めなのだが、ニールームは十分にあるし、大人でも長距離移動に耐えることができる。

言うまでもなく、2列目シートのほうがずっとまともだ。着座位置も適切だし、サポート性も良好で、リクライニングも可能だ。それに、3列目を気にせずに後ろまでスライドさせればかなり広大なレッグルームを確保できる。ほとんどリムジンのようだ。

後部座席用には送風機があるだけで、エアコン自体は前席用しかないのだが、送風機があるだけでも車内の冷え方は大違いだ。また、2列目シートは6:4分割可倒式となっている。ただ、残念なことにリアにはセンターアームレストやカップホルダー、USBポートなどは装備されない。ただ、リアには12Vのソケットが用意されている。

当然、前席にはさらに多くの装備が用意されている。USBも12Vソケットもあるし、冷却機能の付いたカップホルダーまで備わっている。ディザイア同様、ウッドパネルやウッドステアリングも設定され、計器類の見た目も精細だ。フォルクスワーゲン・パサートのようなエアコン吹出口を結ぶラインも気に入った。ただし、プラスチックの質感はディザイアほど高くはなく、シートのファブリック地の質感もかなり安っぽかった。

ドライビングポジションに関してはかなり良好だった。ハッチバックと比べれば着座位置はやや高めなのだが、おかげで視界は良好だし、シートの座り心地も良い。荷室容量は3列目使用時で153L確保されている。容量自体はそれほど多くないのだが、床下にも収納スペースが用意されている。

新型エルティガはボディサイズが拡大されたことで快適性も向上し、排気量が増したことでパフォーマンスも向上しているし、装備も充実している。7人が快適に移動できるし、運転もしやすいので、ミニバンとして魅力的であることは確かだろう。

今回の試乗車は5速MTだったのだが、今後4速ATも登場予定で、ディーゼルモデルも追加設定される予定だそうだ。質感に関しては旧型エルティガからそれほど進歩していないのだが、大家族にとって理想的な車に仕上がっている。