英国「Top Gear」によるアルファ ロメオ・ジュリア ヴェローチェの試乗レポートを日本語で紹介します。
今回の試乗車はヴェローチェにしか設定されないミサノブルーというボディーカラーを纏っていた。ヴェローチェは簡単に言えばジュリアの中で2番目にスポーティーなモデルで、環境性能の高いディーゼルと最強モデルのクアドリフォリオの間に位置する。
価格はオプション抜きで38,260ポンドで、4気筒ガソリンターボエンジンは最高出力280PSを発揮する。エンジンの排気量は2.0Lで、4Cよりはやや大きい。
競合する車が何かと言われると、なかなか難しいところだ。アウディ・S4やBMW 340i、メルセデスAMG C43(いずれも6気筒エンジンを搭載する)とも近いのだが、ヴェローチェは価格もスペックもこの3台よりは下だし、一方でこれら3車種の4気筒モデルはスペック的にヴェローチェより下になってしまう。
しかし、こういった立ち位置もジュリアの魅力の一つだ。ドイツ車に飽きた人、あるいは横並びのスペックや似通ったデザインの車を避けたい人には魅力的に映るだろう。
この車には、458スペチアーレから影響を受けているクアドリフォリオからの影響が見て取れる。スターターボタンはステアリングに配置され、任意の走行モード(ダイナミックなエンジンチューニングと快適性重視のダンピングを組み合わせることもできる)を選択でき、メタルのパドルシフト(1,950ポンドのパフォーマンスパッケージに含まれる)も装備される。
ただし、ヴェローチェにはレースモードが設定されず、エンジン始動時にはクアドリフォリオのツインターボV6ほどの攻撃性を見せることもない。中庸のノーマルモードにしたときの走りはかなり静かで落ち着いている。
8速ATは自動変速時にはあまりに滑らかでシームレスなので、まるで変速という概念が存在しない電気自動車を運転しているかのような気分になる。サスペンションはソフトで完成度が高く、ナンバープレートが偏った位置に装着された派手な色のセダンとは思えないほどに快適性は高い。
快適性が高いと楽しさが犠牲になっているではないかと心配になるのだが、車重は競合車より100kg以上軽く、ホットハッチ並みのわずか1,429kgで、活力があるのでついつい飛ばしたくなる。ステアリングは非常にクイックで、フロントエンドがかなりシャープに切り込んでいくのだが、それでいて走りは非常に自然だ。フロントの元気の良さにはすぐに慣れるし、むしろその活力を積極的に使っていきたくなる。
フロントのグリップは申し分なく、コーナーでもかなり飛ばすことができる。ただ、エンジンは低回転域のトルクに溢れているのだが、クアドリフォリオほど面白いわけではない。ヴェローチェはあまりに落ち着いているので後輪がグリップを失うことはそうそうないし、そもそもスタビリティコントロールを緩めることもできない。
ただ運転を楽しみたいだけなら、ただ興奮したいだけなら、ヴェローチェという車は合わないだろう。しかし、日常的に使う車として購入し、かつ俊敏で楽しいシャシを求めるなら、ヴェローチェこそぴったりだろう。
ヴェローチェの乗り心地は非常に良い。アウディのS Lineに慣れた人であれば路面の状況が伝わってこないことをむしろ不満に思うかもしれないが、ほとんどの人は舗装の悪い道を見事にいなして走るヴェローチェの乗り心地を気に入るはずだ。この乗り心地は競合車とは一線を画している。
そしてヴェローチェは速い。0-100km/h加速は公称値5.7秒で、実際に運転してみてもそれくらいは簡単に実現できそうだと感じる。ラグもほとんどなく、常に力強いので、ターボであることもあまり感じさせない。
ただし、エンジンはあまり回せない。最高出力は5,250rpmで発揮され、レブリミッターは6,000rpm手前でかかってしまう。ただ、わざわざ高回転域まで回したいと思わせるような性格でもない。
そういう意味ではイタリア車らしくないのかもしれないが、実際、この車はこれまでのイタリアンスポーツセダンとは違う。見た目にはアルファの4ドアセダンに相応しい魅力があるのだが、これまでのアルファ製セダンとは違い、この車が競合車に勝てる部分は見た目ばかりではない。
ただ、日常的に使うためには改善を要する部分も存在し、特にエルゴノミクスには課題が残る。パワーシートや方向指示器は操作の中断をなかなか受け付けてくれない。おそらくアルファは重要なパーツにばかり予算を注ぎ込んでしまったのだろう。ステアリングやダッシュボードのレイアウトは良い意味でシンプルで、運転操作に適した配置となっている。
510PSのクアドリフォリオと比べると、ヴェローチェは驚くほど静かで快適で、初めて乗るとかなり大人しい車のように感じる。その性能は快適性に包み隠されている。
ヴェローチェはクアドリフォリオを購入する予算が無い人のための車というよりは、クアドリフォリオでは野蛮すぎると考える人のための高性能車だ。つまり、より万能なスポーツセダンであり、クアドリフォリオとはまた別の魅力を有している。