英国「CAR Magazine」によるNIO EP9の試乗レポートを日本語で紹介します。


EP9

2017年5月17日、NIO EP9がニュルブルクリンク・ノルトシュライフェの最速記録、6分45秒9を記録した。その2日後、記録を樹立したEP9が今回の試乗会場であるベッドフォード・オートドロームにやってきた。EP9にはカーボンファイバー剥き出しのバケットシートが備わり、位置の調節すらできない。

NIOはあまり有名なメーカーではないのだが、中国資本のNIOには世界に4つの拠点(中国、ドイツ、アメリカ、イギリス)がある。EP9を開発したのはイギリスの事業所で、NextEV NIOというフォーミュラEチームも結成している。

まずは元レーシングドライバーのトミー氏の運転に同乗した。助手席の目の前にはユーストン駅にあるような横長の長方形のディスプレイが配置されていた。運転席側にはさらに3つのディスプレイがあった。窓の上にある6つのライトは高電圧システムの作動状況を示している。

この車が実現した数字は信じがたいものばかりだ。0-100km/h加速はわずか2.9秒でこなし、0-200km/h加速は7.1秒、そして最高速度は315km/hを記録する。最高出力は実に1MW(1,360PS)にのぼり、最大トルクは151.0kgf·mを発揮する。

ピットに戻って助手席から運転席に乗り替えるのはかなり大変だったのだが、室内の狭さなどほとんど気にならない。意識にのぼるのはありとあらゆる聞き慣れない音だ。ドライブシャフトの音、トランスミッションのうなり、四方のホイールハウスから聞こえてくるタイヤノイズ、高調なモーターの音…。

interior

EP9の動きは非常に単純だ。オンかオフか。前進か後退か。ギアを選択する必要などなく、走行モードを変えることもできないし、トルクベクタリングや四輪操舵システムのような飾った技術も存在しない。

ペダルは非常に繊細で、スロットルを踏み込む前にちゃんとどこでブレーキを踏むべきかを考えておく必要がある。アクセルを踏み込むと圧倒的なトルクが直接乗員に降りかかり、シートに押し付けられる。アルコン製のディスクブレーキは操作する際に力を入れる必要があるのだが、制動力自体は非常に高い。

2周目になっても、おそらくはNIOの半分の性能も発揮できなかったように思う。コーナーはタイムワープでもしているかのようにすぐに近付いてくるし、ステアリングの操作が肉体的負荷となって私を襲った。ディスプレイによると、最大制動Gは3.3Gで、最大横Gは2.5Gだったらしい。まるで自分がヒーローにでもなったかのように感じた。

320/705R19という異常なサイズのエイボン製タイヤはチューインガムのごとく路面に吸い付いた。グリップはこの世のものとは思えないレベルだったのだが、同様に乗り心地もこの世のものとは思えず、骨は常に揺すられ続けた。地上高やボディの挙動は油圧システムにより常時調整されている。ダウンフォースもしっかり確保されており、驚異的なスタビリティを実現している。

NIO EP9はハードコアな電動レーシングカーであり、公道を合法的に走ることはできない。まるで別世界からやってきた訪問者のような車だ。視界は前方が「可」レベルで、後方視界などまるで存在しない。

rear

コースを5周するとモニターに表示されていた航続距離が475kmから269kmまで減ってしまっており、バッテリーは100%から55%まで減っていた。ただ、充電はわずか45分で完了するそうだ。ただし、充電の際にはセルを外さなければならない。重さはセル1つで317kgもあるので、充電のためには屈強な男2人と運搬用の支え、そして専門知識を持った技術者が必要だ。

EP9の価格は税抜123万ポンドで、スペアバッテリーや専用のツールキット、専用充電器を別途購入しなければならないし、さらに整備のための人員を雇う必要もある。既にNIOの株主が自分用にEP9を購入しており、それ以外にも10台以上が販売されたそうだ。今後、公道走行可能なモデルも登場予定で、最大250台の生産を予定しているそうだ。

NIOはあくまでブランド認知度向上のためにEP9を開発したそうだ。今後、NIOは電気自動車の開発よりも自動運転技術に重きを置いていく可能性もあるようだ。NIOの株主にはビットオートやテンセント、レノボなどが名を連ねている。中国向けSUVのES8を発売する予定もある。

テンセントには8億3000万人ものユーザーが存在し、95%もの時間をオンラインで過ごしているそうだ。EP9という車の存在はそんな人達に向けた良い広報材料となることだろう。