英国「Evo」によるBMW M2とアウディ RS3サルーンの比較試乗レポートを日本語で紹介します。


RS3 and M2

霧が大地を覆い、目の前の道路は消えたり現れたりを繰り返す。視界が開けると、地形に応じて上下し、曲がりくねる道路が目前に一望できる。目を凝らして見ると、急なアップダウンやタイトなコーナーがたくさんあることに気付く。しかも、水に濡れた路面にはところどころ落ち葉や泥が散らばっている。これが秋のエクスムーアだ。この場所こそ、4WDの聖地だ。

イギリス国内でアウディ・RS3サルーンを試す場所として、エクスムーアに勝る場所など存在しないだろう。アウディお馴染みの4WDシステムを搭載するRS3サルーンは、アウディいわくS3サルーン以上の楽しさをもたらしてくれるそうだ。S3サルーンも全天候対応のグリップ性能を有しているのだが、楽しさの面ではさほどでもなかった。

S3との最大の違いは大幅に改良された2.5Lの5気筒ターボエンジンだ。これはTT RSやRS3スポーツバックと共通で、アルミ構造を採用したことで従来の5気筒エンジンより26kgも軽量化されている。ノーズが大幅に軽くなったことで、旧型RS3からも大きく変わっていることだろう。しかも、最高出力は33PS向上して400PSとなっている。最大トルクも47.4kgf·mから48.9kgf·mまで向上し、電気モーターのように幅広い1,700rpmから5,850rpmまでの回転域でこのトルクが発揮される。

RS3サルーンのスペックを見てしまうと、BMW M2は見劣りしてしまうかもしれない。M2も一部改良を受けたのだが、あくまで見た目の変更が中心であり、新設計のLEDヘッドランプが装備されてダッシュボードも改良されている。

直列6気筒の3Lツインパワーターボエンジンは従来から変わっておらず、370PSという数字はアウディに劣るのだが、51.0kgf·mという圧倒的なトルクをわずか1,450rpmから発揮する。このパフォーマンスすべてが7速DCT(6速MTも設定されるが、7速Sトロニックしか設定されないアウディと比較するには適さないだろう)およびLSDを介して後輪に伝わる。

設計はアウディより古いのだが、M2にも強みはある。トレッドが広く、ホイールアーチも膨らんでおり、まるで小さなマッスルカーのように見える。おかげで、普通の2シリーズと見間違えることは決してない。

着座位置はアウディよりずっと低く、シートは調節幅が広く、サポート性も高い。お馴染みの3スポークMステアリングも目を引くし、新しくなったダッシュボードはドライバー側をしっかりと向いている。

一方、RS3はずっと落ち着いており、特にグレーの試乗車は抑えが効いていた。19インチアルミホイールをはじめ、RS専用のパーツも装備されているのだが、基本的には安価なS3とそっくりだ。その穏やかさは内装にも続いており、スポーティーさよりも洗練性が重視されている。赤く囲まれたエアコン吹出口やバーチャルコックピットなど、目を引く部分もあるのだが、本格的なスポーツクーペのような雰囲気のM2と比べると、RS3には普通の高級セダンのような雰囲気がある。

rear

実際に運転してみても、その印象は変わらない。RS3はステアリングが軽く、足回りも穏やかなので、日常的に使うのにはもってこいだろう。ダンパーは硬めなのだが、決して破綻することはない。

5気筒エンジンもさほど攻撃的ではない。よく回るし、1,000ポンドのスポーツエグゾーストからは派手な爆音が響くのだが、普通に運転している限りでは穏やかで扱いやすい。DCTはエンジンのトルクを最大限活用して頻繁にシフトアップし、穏やかな印象をさらに増強した。

BMWのDCTはギアをホールドする傾向にあり、変速もアウディほど滑らかではなく、ときにぎくしゃくするようなこともあった。直列6気筒エンジンも騒々しく、常にBGMとして深いバリトンが響き続ける。また路面にも影響を受けやすく、背中には常に舗装の状況が伝わってくる。アウディ同様、ダンパーは硬いものの破綻することはなく、舗装の悪い道でもサスペンションがしっかりと衝撃の角を取ってくれる。

定速巡航中であっても、BMWはそのポテンシャルを見せつけようとしてくる。アウディは駐車するのも楽なほどステアリングが軽いのだが、BMWはずっと肉厚で、路面の情報が常に伝わってくる。M2はあくまで、運転を楽しむためだけの車だ。

アウディは長距離の移動を楽にこなせるのだが、一方で走りを楽しもうとしたときはどうなるだろうか。霧が晴れたので試してみたのだが、RS3は怖いほどに速かった。2速だろうが3速だろうが4速だろうが、アクセルを踏み込めばバズーカのように飛び出す。

ハルデックス製の機構を採用している4WDシステムのおかげで、どんな状況でも5気筒エンジンのパフォーマンスがしっかりと路面に伝わる。ウェット路面で0-100km/h加速を試してみたところ、なんと3.7秒を記録した。セダンがウェット路面でこれだけの数字を記録してしまった。

しかも、ラグのほとんどないターボエンジンをどんどん回していくと、高価なスポーツエグゾーストのおかげもあって、大音量が響きはじめる。グループBクワトロほどの怒号ではないし、R8 V10ほどの音量でもないのだが、それでも美しい音色だ。

高速域だとM2がRS3についていくのは大変だ。トラクションは予想よりは良く、M2に装着されるミシュランはM4の標準装着タイヤ以上に安心感があるのだが(ちなみにM2の0-100km/h加速は4.9秒だ)、それでも十分注意して運転しなければならない。

RS3 interior

トラクションコントロールをオンにしていてもテールは完全にはついてこないし、雨の中では路面の変化に戸惑ってしまうこともある。それに、アウディほど滑らかではないDCTのせいで変速がもたつき、トルクによって後輪が暴れ気味になってしまうこともある。そういう意味ではMT車のほうがずっと扱いやすい。

しかし、集中して運転すればM2も決して遅い車ではない。6気筒エンジンはアウディの5気筒ほど活発に回るわけではないのだが、それが生み出す金属質な低音を聞くと、ついついレッドゾーンまで回したくなる。それに、51kgf·mというトルクのおかげで、しっかり地に足がついている状態からの加速は圧倒的だ。

それでも、エクスムーアの道路で驚異的な速さを見せるRS3についていくのはM2には難しい。今回のRS3にはオプションのアルミホイール(695ポンド)が装備されており、面白いことに前輪のほうがタイヤの幅が太かった(標準車は四輪すべて235/35R19なのだが、試乗車は前輪のみ255/30R19だった)。また、RS3サルーンのリアトレッドはRS3スポーツバック(標準のA3+14mm)よりさらに14mm拡大している。

おかげでかなり安定しており、安心して運転することができる。ただ気楽にコーナーに入り、アクセルを踏み、そして4WDの力で次のストレートに向かっていくだけだ。ボディもしっかり制御されており、酷い段差を乗り越えてもなお毅然としている。

けれど、このRS3には足りないものもある。ステアリングはクイックで正確だし、4,695ポンドのカーボンセラミックブレーキの制動力も強力で、思った通りのラインをトレースすることができるのだが、運転自体はそれほど楽しくない。

そもそも、ステアフィールがあまりないし、シャシはグリップ性能こそ高いものの、そこには一体感が欠けている。多少ブレーキ操作やスロットル操作を適当にしたところで、RS3の走りはほとんど変わらない。

エンジンが軽量化されているので、旧型RS3よりはターンイン性能が向上しているのだが、それでも前輪にかかる荷重は大きい。飛ばせばトルクベクタリングシステムがタイヤにブレーキをかけてラインをキープしようとしている様子も伝わってくる。走行モードを変えればステアリングの重さやスロットルレスポンスなども変更できるのだが、どれだけいじったところで(かなり優秀ではあるが)個性は感じられない。

M2 interior

こういった欠点はBMWには存在しない。運転する際にはずっと集中しなければならないのだが、その反面、車との一体感を、楽しさを得ることができる。兄貴分のM4と比べると、M2はずっとシンプルで分かりやすい。

M2はダンパーの調整などできないし(アダプティブダンパーはオプション設定すらされない)、特別な走行モードもなく、ごく普通のBMWと同じ、コンフォート、スポーツ、スポーツ+の3種類のモードしか用意されていない。ちなみに、運転を楽しみたいなら、スロットルが最もシャープで、スタビリティコントロールの介入が最も穏やかなスポーツ+モードを選ぶべきだろう。

M2のステアリングはややフィードバックに欠けるのだが、ウェット路面であっても十分なフロントグリップがあり、アンダーステアが起こることはほとんどない。しっかり操作すれば驚異的なトラクションが得られるし、スロットルを強く踏み込めばリアを暴れさせることもできる。

ただし、ホイールベースが短いM2は限界を超えるとかなり危なっかしくなるので、常に運転操作に集中しなければならず、狙った通りに走らせるためにはクイックで正確な操作が必要となる。とはいえ、ドライ路面ではずっと安心して運転できるし、RS3にも問題なくついていくことができる。

M2も欠点がないわけではない。ブレーキペダルは調整が難しく、操作するのが苛立たしいし、DCTのフィールもあまり良くはない(アウディのSトロニックほど優秀なわけでもなければ、M2のMT車ほど楽しいわけでもない)。

そろそろ結論を出すことにしよう。アウディの完成度はかなり高いし、天候や路面状態が不安定な状況で乗るならこちらのほうが適切だろう。A地点からB地点までストレスなく、そして速く移動する手段としてはかなり実力は高い。それにエンジンはかなり魅力的だ。けれど、車との一体感はなかなか掴みづらい。

一方、BMWはまさしくスポーツカーだ。欠点や苛立たしい部分もあるし、アウディほど日常的に使える車ではないのだが、RS3では決して得られない楽しさや歓びが存在する。