英国「Auto Express」によるマツダのSKYACTIV-X プロトタイプ車の試乗記事を日本語で紹介します。


SKYACTIC-X

マツダは他とは一味違う自動車メーカーだ。ほとんどのメーカーがパフォーマンスと効率性を両立するためにターボチャージャーを採用している中、マツダは同等の効率性をもっと別の先進技術を使って実現しようとしている。今回はそんな新技術を試した。

マツダは新しいSKYACTIV-Xエンジンが、今後導入される厳しい排出ガス規制にも対応する高効率エンジンになると考えている。

まず、技術的な部分を見てみることにしよう。SKYACTIV-Xはガソリンエンジンであり、従来のガソリンエンジンにディーゼルの魅力が加わっている。マツダはこの技術をSPCCI(火花点火制御圧縮着火)と呼んでいる。響きはあまり恰好良くないのだが、しかし技術的には非常に優れている。

ディーゼルエンジンにはスパークプラグが存在しない。シリンダー内部では燃料と空気の混合気が燃焼するのだが、ディーゼルエンジンの場合、その着火を混合気を圧縮することによって生じる熱によって行う。これを圧縮着火というのだが、この方式とガソリンエンジンは相容れないものであった。

SKYACTIV-Xエンジンは燃焼開始時にスパークプラグ(火花点火)を用いて圧縮着火のプロセスを即時的に開始することで、エンジンの制御をより自在に可能とし、そして従来の圧縮着火方式よりも信頼性を高めている。また、状況に応じて従来のガソリンエンジンのような着火も行う。

実際のエンジンは2.0L 4気筒のスーパーチャージャー付きユニットであり、スーパーチャージャーはパフォーマンスを向上するためというよりは、エンジンに空気を供給するために装備されている。スーパーチャージャーにより、初期のレスポンスが向上し、空気の混合をリニアにすることができる(結果、空気・燃料混合比を普通のガソリンエンジンより高くすることができる)。これにより、効率性も向上する。エンジンスペックは190PS/23.5kgf·mを目標に開発が進められており、現時点ではまだその数字に届いていないのだが、新技術は破綻なく実現できているそうだ。

火花点火により圧縮着火を制御することでエンジンの制御可能な因子が増え、ディーゼルエンジンのような低回転域トルクや応答性を実現している。現行の120PS 2.0L SKYACTIV-Gエンジンを搭載するマツダ3(日本名: アクセラ)と比べると、SKYACTIV-Gではついついシフトダウンしたくなってしまった。一方、SKYACTIV-Xエンジン搭載車ではあまりシフトダウンする必要がなく、それでいて、従来のガソリンエンジン同様、高回転域までよく回るフィーリングもあった。

スーパーチャージャーによって供給される空気はシリンダーに入る際に渦を形成し、結果、燃料と空気がしっかりと(マツダいわく均一に)混合される。スパークプラグがこの均一な混合気に点火すると、シリンダー中央部に小さな火の玉が発生し、その直後に残りの混合気(シリンダー周辺部に存在する圧縮された混合気)が爆発する。このため、少ない燃料の燃焼で強力なパフォーマンスを生み出すことができる。具体的には、効率性が20~30%程度向上している。

驚くべきことに、かなり幅広い速度域・負荷域でSPCCI燃焼を実現することができる。試乗中、SPCCI燃焼への移行はときに感じ取ることもできたのだが、今回の試乗車は完成車とは程遠いもので、このような綻びは市販車に実装されるまでには解消されるそうだ。

このプロトタイプ車には現行のマツダ3からシャシもいくらか変更されている。構造に補強が加えられ、フロントのサスペンションジオメトリーが変更され、タイヤのサイドウォールは10%ソフトになり、ダンパーも改良されている。これらの改良により、操作性を向上しつつ、同時に静粛性や快適性を(マツダらしい敏捷性を犠牲にせずに)向上しているそうだ。また、長距離移動での快適性をさらに向上するため、シートの設計も変更されている。

新しいエンジンやシャシを採用するプロトタイプ車にマツダ3が選ばれたことにはちゃんと理由がある。このプロトタイプは新SKYACTIVシャシとSKYACTIV-Xエンジンを採用する次期型マツダ3の方向性を示している。次期型のデザインはきっと(実用性のためにいくらか譲歩する部分はあるだろうが)既に発表されている「魁」コンセプトに近いものとなることだろう。