Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、レンジローバーヴェラールのレビューです。


RR Velar

かつて、ランドローバーのラインアップが非常にシンプルだったことをご存知だろうか。羊を飼っていたり、マシンガンで人を撃ったりするような泥まみれの生活を送っている人はディフェンダーを購入した。公爵はレンジローバーを購入し、ケネス・ノイのような殺人鬼はディスカバリーを購入した。

ところがあるとき、ランドローバーは大変なことに気付いた。人々は泥まみれの生活を送るよりもIT関係の仕事をすることを好んでおり、王室外に公爵は24人しかおらず、殺人鬼の大半は獄中にいる。結果、ランドローバーは手を広げていくことにした。

ランドローバーは手を広げ続け、ついにはどのモデルがどういう車なのかすらよく分からないような状況となった。いわゆる本物のレンジローバーは私の知っている人全員が乗っている。レンジローバーは非常に優秀な車だ。駐車場に入れられない車が欲しい人のために、ロングホイールベース版も設定されている。

本物のレンジローバーの下にはレンジローバースポーツがあり、さらにその下にはイヴォークや、そして奇妙なイヴォークコンバーチブルがある。イヴォークコンバーチブルに関しては私も存在意義が分からない。おそらく走行中にクレー射撃をするための車なのだろう。

レンジローバー以外にも目を向けるとさらに複雑になってくる。ディスカバリーは子供嫌いのための車だ。この車の後部座席は私が乗った中でも最も窮屈だった。他に、後部座席をまったく必要としない人のためのディスカバリーコマーシャルや、誰に向いた車だかは知らないが、普通のディスカバリーよりも小さいディスカバリースポーツも設定される。

3万ポンドから16万ポンドまでの価格帯をカバーする4WD車を可能な限りたくさん作ろうとしても、普通ならこれくらいで限界だろう。ところが、ランドローバーはまた別の車を生み出した。

rear

そうして誕生したのがレンジローバーヴェラール (Velar) だ。私のような人間はつい「ベロア」と読んでしまいそうな間抜けな名前だ。ベロアは上質な布地なのだが、しかしその響きは安布のようだ。それに、「イヴォークとスポーツの中間の車が欲しい」と言うのは、自分の靴のサイズが12.25インチだと言うようなものだ。

私は呆れてヴェラールの存在など無視しようとしたのだが、そんな折、実車を見かけた。私はロンドンのエンバンクメントあたりを歩いていた。そこではビロードのフェラーリもライムグリーンのランボルギーニも目立たない。ところが、レンジローバーヴェラールを見た私はつい見蕩れて立ち止まってしまった。そのデザインはフォード・エスコート Mk 2 に匹敵する。

エスコートは昔たくさん走っており、コカコーラのボトルくらい当たり前の存在だったので、慣れによって誰も関心など寄せなかった。しかし、イーゼルを前にベレー帽をかぶって改めてじっくりと眺めてみると、あらゆる部分が見事に調和していることが分かる。

ヴェラールも同様だ。確かにごく普通の5ドアSUVなのだが、ラインを、ディテールを、プロポーションをじっくり眺めてみてほしい。そうすれば、歴史上の車の中で5本の指に入るデザインであると分かるはずだ。

あまりに美しかったので、ゴルフGTIの次の車として欲しくなってしまい、その考えが消えなくなってしまった。なのでランドローバーに試乗車を貸してくれるよう頼んだ。ランドローバーはコヴェントリーの会社なので共産主義的な考えを持っており、試乗車はウェールズ畜産新聞に貸したあとに届いたのだが、試乗車のボディカラーは私の好きなバイロンブルーだった。その見た目は実に魅力的だった。

インテリアデザインはなお良かった。シートはホッキョクグマにも優しい何らかのリサイクル素材でできているらしい。素晴らしいことじゃないか。しかし、私が気にするのは素材の見た目や触り心地だ。ヴェラールのシートはつい頬ずりしたくなるほどのものだった。もっとも、実行する前に先週まで豚飼いが乗っていたことを思い出してやめたが。

interior

私は車内のあらゆる部分を触ってみた。どこも非常に美しく、つい触りたくなってしまった。2画面のディスプレイも、ダイヤルも、エアコン吹出口も。そして視線を上に向けると、ルーフはすべてがガラスで、やはり手で触れてみたくなった。ヴェラールから普通の車に乗り換えるのは、ボーイング 787からハンドレページ ハリファックスに乗り換えるようなものだ。ヴェラール以上のインテリアなど私は知らない。

私はすっかりヴェラールが気に入り、ランドローバーのコンフィギュレーターを見てみた。最初は3Lのスーパーチャージャー付きガソリンエンジンを選択した。もちろん、ガソリンなどナンセンスであり、ディーゼルのほうがよっぽど経済的だ。ただ、かつてディーゼルを素晴らしいものであると布教していた政府は、今ではディーゼルは悪であると騒ぎ、ディーゼル車に乗る人間に対し、テリーザ・メイに全財産を渡せと恐喝するようになった。

エンジンの次はホイール選びだ。試乗車は21インチホイールを履いており、階段でスケートボードに乗るくらい快適だった。驚くべきことにこれ以上大径のホイールも選べるし、あるいは18インチも選べる。私は急いでいるときに十分なグリップを確保したかったので、20インチを選んだ。

インテリアに関しては、アンビエントライトの色を自分で選べるシステムやプライバシーガラス、そしてスエード布のステアリングを選択した。もちろん、追加の電源ソケットも装備した。機械部分ではアクティブリアデフロックも装備した。私は週末農民なのでこれは必要だろう。

今や誰でもスマートフォンやiPadを所有しているので、リアシートエンターテインメントシステムなど装備しなかった。当然、ルーフに自転車を載せたり、テールゲート部分にカヌーを載せたりするための装備も付けなかった。実のところ、私はほとんどのオプションを装備しなかったのだが、価格は8万ポンド近くなってしまった。もう一度書こう。80,000ポンドだ。

ヴェラールにこれだけ支払うなんて狂気の沙汰としか思えない。ただ厳密に言えば、現在は既に小改良が行われているので、私がコンフィギュレーターで作ったモデルを買うことはもうできない。

しかし今や、使いやすいというだけの理由で、誰もが何百ポンドも払ってiPhoneを購入している。絵の具の集合体に何百万ポンドと支払う人もいる。これがランドローバーの目論見だ。一度惚れ込んでしまったら、もはや価格など関係なくなってしまう。