Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、ミニ 1499 GT のレビューです。


MINI 1499 GT

いかしたストライプを身に纏い、大きなブラックのホイールを履いてドアミラーにJPSのユニオンジャックが描かれたミニ 1499 GT が職場にやって来て、私は大喜びした。見た目以外、普通のミニと何が違うのかすらまるで知らなかった。それでも、醜い中年の中に残った少年の心をくすぐる何かがあった。

言うまでもなく、これはかつての 1275 GT の復刻モデルなのだが、1275 GT 自体は当時それほど評価が高かったわけではない。シングルキャブレターであったことが不評だったのだが、当時の私はそもそもシングルキャブレターが何かということすら知らなかった。ただ私はその見た目を気に入っていた。そしてなにより、トリノの地下水路を走る姿を気に入っていた。

もちろん、クーパーのほうが良い車だったのだろうが、こちらにはサイドにストライプがなかった。1275 GT にはストライプがあり、それこそが重要だった。

今でも、馬鹿げたカントリーマンを例外として、私はミニのことが好きだ。実際のところまったく小さくなどないし(ホイールベースは昔のランドローバー・ディスカバリーより長い)、見た目も少しわざとらしい感じがする。けれど、走りは楽しいし、居心地も良い。それはベーシックなグレードだろうが全部入りのグレードだろうが変わらない。郊外では楽しめるし、経済的だし、実用的で扱いやすい。

唯一の問題点はクルージング速度だ。どんな車にも、最も落ち着いて運転できる速度というものが存在する。ポルシェ・911の場合、どういうわけかわずか80km/hなのだが、ミニの場合、何も考えずに運転していると180km/hも出てしまい、免許を失いかねない。つまり、運転中は常に集中していなければならない。

しかし、1499 GT なら、言われずとも集中したくなる。なぜならこの車には、かつて私が車に今以上に愛を感じていた頃に私が大切にしていたものがちゃんとあるからだ。上述したストライプだけでなく、この車には巨大なラリー風のフロントシートや強化されたサスペンション、そしてジョン・クーパーのシャツのボタン風ステアリングが装備される。

1499 GT にはベースグレードの MINI ONE と同じ1.5Lターボが搭載される。最高出力は102PSとフードプロセッサーと大して変わらないし、巨大なボディに小さなエンジンが載っているので、一生かかっても速度が出せず、最高速度など知りようもない。0-100km/h加速は10秒以上かかる。これは1928年当時なら相当に速いのだが、今の時代の基準だと凡庸だ。

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それでもこの車は魅力的だ。なぜなら、この車にはラリー風シートやグリップの優れたダンロップ SPORTMAXX RT2、そしていかにも速そうなストライプが付いている。しかし、せいぜい100km/hくらいしか出せず、癇癪持ちの17歳だろうが保険料は安く抑えられる。

ただし、この車には問題もある。そもそもまったく使い物にならない。どう説明したらいいかは分からないのだが、「最悪」という表現が適切かもしれない。

たくさんある中でも1つ目の問題点は強化されたサスペンションだ。このサスペンションのおかげで、弱々しいエンジンが生み出すことすらできないようなスピードでもコーナーを曲がることができる。その代償として、信じられないほど乗り心地が悪い。街中での乗り心地はとてつもなく酷く、歩いたほうがましなくらいだ。

それに、まともに動いてすらくれない。相当エンジンを回さないと前に進んでくれない。尋常でないほどギア比が高いことが関係しているのだが、おかげで高速道路の坂では別の問題が生じる。

スクランブルエッグを調理するくらいの勢いでシフトレバーを操作しない限り、マイケル・マッキンタイアが言うところの「負け犬車線」を走らなければならなくなる。しかも、この車線ですらトラックに迷惑をかけてしまう。

活き活きしていて楽しく、走りに魂が感じられるなら、車のパワーが不足していることはあまり気にしない。しかし、ミニには楽しさもない。この車はクロスカントリーランに出場する太った子供のようにだらしない。用具を揃え、真っ当なトレーニングシューズを履いているのだが、そんなものは無意味でしかない。結局は最下位になるのだから。

こんな車を欲しがる読者などいないだろうから、まだ読んでくれている読者などもういないだろうが、念のためナビについても記そう。17,000ポンド近い価格の車なので、当然ナビくらい標準装備だろうと思うのだが、実際は違う。この車には携帯を置くためのクリップしか存在しない。

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確かに、若者は皆、移動をするときも誰かと連絡を取るためにも、常に携帯を使っている。しかし、私はまともなナビが欲しい。なぜなら、携帯をナビ代わりに使っているとUberの運転手と間違われてしまい、信号待ちで誰かがリアシートに乗ってきてホーンチャーチまで行ってくれと頼まれてしまうからだ。

問題は他にもある。巨大なフロントシートだ。確かに座り心地は良いのだが、代わりにリアのレッグルームのほとんどが犠牲になってしまっている。もし後席に座る誰かが吐きそうになっても(この車は祭りに行く若者のための車なので、こういう事態もよく起こるだろう)、すぐに車から降りて車外で吐くことはできない。

1499 GT は特別仕様の限定車だ。わずか1,499台しか製造されない。それはひょっとしたら、ミニ自身もあまり売れないと気付いているからなのかもしれない。そもそも、その少ない台数すら完売するのかも怪しい。限定車が完売しないという恥をかきたくないなら、1970年代のように労働者にストライキをしてもらえばいいだろう。

それに、この車の代わりとなる車はたくさんある。普通の MINI ONE なら虚飾にまみれてなどいないし、髪が抜けるほど乗り心地が悪いわけでも、馬鹿みたいに巨大なシートを装備しているわけでもない。

それに、フォルクスワーゲン・up! GTIという車もある。実用性はミニほど高くないのだが、価格は13,755ポンドとミニより3,000ポンド以上安い。

フォード・フィエスタ STラインもある。エンジンの排気量はわずか1Lなのだが、最高出力は140PSなので、緩やかな坂をちゃんと登ることができる。あるいは左翼的な選択肢としてシトロエン・C3エアクロスもある。この車は想像よりもずっと、ずっと良い車だ。

結局、小さくて見た目がスポーティーな車はたくさん存在する。しかし、その選択肢の中にミニ 1499 GT はない。