Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、アウディ RS4アバントのレビューです。


RS4 Avant

1990年代初頭ごろ、何百万人もの人々が毎週のように私の出演するテレビ番組を視聴していた。番組中、私はフォード・エスコートについて「適当に車作りをしている会社が作った退屈な手抜き車」と形容した。その結果、エスコートはイギリスのベストセラー車となった。

その後、トヨタ・カローラを「冷蔵庫のように無個性な白物家電のような車」と表現した。結果、カローラは世界のベストセラー車となった。

続いて、私はルノー A610のレビューを行った。私は感激し、「価格も安いし、見た目も良いし、個性的だし、速いし、最高の車だ」と絶賛した。そして、ルノーが叩き出した販売台数は…(ドラムロール)…6台だ。

今でもまったく変わっていない。2年前、私はアルファ ロメオ・ジュリア クワトロフォルマッジに試乗し、キリストの再臨であると、車輪の付いた稲妻であると評した。あらゆるスポーツセダンを蹴散らすことのできる車だ。しかし、公道で走っている姿を見たことは一度としてない。

こういった車が欲しい人はたくさんいるはずだ。フェラーリのエンジンを搭載し、フェラーリの技術者が設計し、優美な音を奏で、500馬力という力を持つ。このような車を購入することを夢見る人はたくさんいるはずなのだが、いざ買えるだけのお金が貯まると、他の車を選んでしまう。だいたいはアウディか何かだ。

つい先月、最新の速いアウディが家にやって来た。新型 RS4 アバントだ。この見た目の優秀さに関しては認めざるをえないが、しかし果たして、どうしてアルファの代わりにこんな車を選ぶ人がいるのだろうか。トスカーナに旅行に行こうと計画していた人が、トイレが壊れたときに優秀な配管工に直してもらえそうだからというだけの理由で行き先をドルトムントに変えるようなものだ。

確かにアルファ ロメオの信頼性はかなり低かった。たとえばGTV 6はありとあらゆる部品が欠陥品だった。しかし、1980年代のアルファの信頼性で判断するのは、戦時中にドイツ軍の車両を作っていたからフォルクスワーゲンを買わないと言うようなものだ。今はもう時代が変わっている。アルファにもう一度チャンスを与えるべきだ。…しかし果たしてそれでいいのだろうか。

アウディ RS4は完璧な車ではなかった。2006年に登場したモデルは勇ましいV8エンジンと男らしいホイールアーチを持つ魅力的な車だった。しかし、次に登場したモデルはいまいちぱっとしなかった。脂肪が付き、魔力が失われてしまった。

rear

アウディはこの問題を自覚し、対処を始めた。クリニックに通い、ランニングを始めた。ボディから15kg、アクスルから12kg、ステアリングシステムから3.5kg、4WDシステムから12.5kg、リアディファレンシャルから1kgの脂肪が削ぎ落とされた。

エンジンに関しても31kgもの軽量化を果たしているのだが、これを達成するために2気筒が失われ、代わりにターボチャージャーが追加された。ついに自然吸気V8エンジンは失われ、それとともに勇ましい音も消えてしまった。その代わりに登場したのは、より軽量でよりホッキョクグマに優しいV6エンジンだ。

果たしてこれは喜ぶべき変更だろうか。言うまでもなく、そんなはずはない。ただし、アル・ゴアなら私と意見を違えるだろう。ただ、いずれにしてもこのエンジンの実力は高い。特に中回転域でのパフォーマンスは髪が抜け落ちるほどに強力だ。それに、軽量化された結果、つい声を出して笑い出してしまうほどに速くなった。

最高速度を250km/hから280km/hにするためには1,450ポンドを支払う必要があるのだが、その意味が分からない。それに、スポーツエグゾーストシステムを装備するためには1,200ポンドが必要で、ステアリングをアップグレードするためには950ポンド必要だ。要するにアウディはこう言っているだろう。
我々が作り上げたのは微妙な車ですが、追加でお金を払えばほぼ完璧な車にすることができます。

しかし、「ほぼ完璧」という表現ではRS4のコーナリング性能を語り尽くすことはできない。ステアリングはフィーリングが死んでいると批判されているのだが、この文句を言っていた自動車評論家は電子制御がどの車輪にどれだけの駆動力を配分しているのかが体感できるとも言っていた。彼は間違いなく超人だ。

私はステアリングにまったく問題を感じなかった。どのドライブモードでも非常に優秀だった。なにより、私がこれまでに乗ってきた速いアウディの中では初めて、ブレーキの鳴きが気にならなかった。

しかも、今回試乗したのは5ドアのステーションワゴンだ。つまり、私の愛犬もジェット戦闘機級のGフォースを体感できた。そして結果、具合が悪くなった。

ただし、荷室はそれほど広くない。自分のゴルフになんとか載った焚火台2つをこの車に載せてみたのだが、それだけで荷室が一杯になってしまった。しかも、アウディでは天井を少し裂いてしまった。

interior

室内は非常に作りが良く、しっかり考えられている。たとえば、メーターディスプレイ全体をナビ表示にすることもできる。ただ、こういう車に乗っていると、ボタンやダイヤルをさんざんいじって、それでも自分の思い通りにならずに苛立つことになる。

快適性に関しては、「そこのけ」レーシングモードではまったくもって存在しない。このセッティングだと驚くほど車が跳ねてしまう。しかし、一般人が使用するモードでの乗り心地は悪くない。ただ、後部座席は例外だ。リアシートはあまりにも揺れるので、送ったメールが怪文書になってしまう。

しかし、上述した問題点はどれも言いがかりのようなものだ。この車には欠点がほとんど無い。V8の消滅によってRS4の精神が失われてしまったものだと思っていたのだが、V6はむしろV8よりも優秀だった。それに、4WDシステムはドリフトもできるし、ヴァル=ディゼールに行くこともできる。非常に万能な車だ。

新型RS4は間違いなく現行M3より優秀なのだが、では果たしてアルファと比較したらどうだろうか。

結論を言うと、間違いなくアルファのほうが魅力的だ。クアトロフォルマッジのほうがよっぽどのカリスマだ。アルファは家にやって来た新しい仔犬のような存在になれる。世話をすることが楽しく、寒い夜には家に入れて暖炉で温めてやりたくなる。夜中にオイルをおもらししてしまったとしても、しょうがないなと許せてしまう。この車には魂がある。

しかし、車に魂を求める人など存在しないので、結局は誰もがアウディを購入する。それを後悔する人もいない。なぜなら、アウディも十分に優秀だからだ。いや、十分どころかかなり優秀だ。