Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2004年に書かれたジャガー XJ6 LWB のレビューです。


XJ

はっきりさせてしまおう。タブロイド紙が「英国産業連盟のディグビー・ジョーンズがショーファードリブンに乗って登場した」と報じたとしても、その車はピンクの電飾が付いたハマーのストレッチリムジンなどではない。ここで言う「ショーファードリブン」とは、ただのグレーのセダンだ。

当然、そんなセダンを「リムジン」と称することによって、読者に「ディグビー・ジョーンズは金を浪費している」という印象を与えることができる。しかし、それは事実とは程遠い。

私は公式の場にショーファードリブンで行くことを嫌っている。約束の時間に遅れてしまうのが嫌だからだ。私は人を待たせてしまうことを避けたい。それに、私は基本的にけちなので、予定外の時間外料金がかかるのも嫌だ。

しかし、先週の木曜日には、私の本、ビデオ、番組、ライブイベントを宣伝するため、ロンドン中のラジオ局を回らなければならなかった。その日、ハートFMのスタジオからキャピタルのスタジオに行くのに20分、そこからRadio 2のスタジオに行くまで15分しかなかった。つまり、駐車場を探している時間などなかった。なので、私は「ショーファードリブンリムジン」を使った。車種はただのレンジローバーだった。

ショーファードリブンを使っていたのはなにも私だけではなかった。ラジオ局では、自分の本やビデオや豊胸を宣伝するバーバラ・ウィンザーやロニー・オサリバンやジョーダンに会った。

毎年この時期になると、ロンドンを走る車の20%には作家やスポーツ選手が乗っており、聞いたこともないようなラジオ局に向かっていく。そして彼らはそこで自分の凄さを語ってまた別の局へと向かう。

そして、ショーファードリブンに乗って移動するディグビー・ジョーンズや国会議員もいるし、そんな彼らを追いかけるタブロイド紙の記者も同じようなグレーのセダンに乗っている。それどころか、テレビ局員が乗る車も、広告マンが乗る車も、映画のプレミアで使われる車も、すべてがグレーの大型セダンだ。ショーファードリブンを運行する企業は客を失う心配などないし、客がタクシーを見つけられずに雨の中佇むこともない。需要と供給の均衡が見事にとれている。

しかし、そこには命の危険が潜んでいる。インターホンが鳴るまで、そのショーファードリブンを運転する人間がどんな人かは分からない。ちゃんと朝刊を用意し、寡黙に、そして丁寧に運転してくれるドライバーもいる。お喋りなドライバーもいる。車内で煙草を吸うことを許してくれるドライバーもいる。しかし、中には斧で人を殺すことを趣味としている精神異常者もいる。ルームミラーで客の顔を覗きながら、「こいつの耳はどんな味なんだろう」と考えているのが手に取るように分かるはずだ。

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さらに困ったことに、ドライバーの半数は道すらまともに知らない。先日使ったショーファードリブンのドライバーは1960年代からずっと自動車通行禁止なはずのレスター・スクウェアを通り抜けようとした。それに、名前にZやYが含まれている人の多くは赤信号の意味やラウンドアバウトの構造すらも理解していない。それを指摘しようとしても、彼らが使っているのはイウォーク語にしか聞こえない言葉だし、ドライバーは私が行くラジオ局以上にマイナーなラジオを聴いているため、そもそも声が届かない。

しかし、何より最悪なのは、シカ並みの運転能力しか持たない殺人狂が「高級車」の意味を理解していないという点だ。普通のトヨタ車で良かったなら、近所のタクシー会社に電話をしていた。私は「ショーファードリブンリムジン」にカムリ以上のものを求めている。

ドライバーの出身国である中央アジアではラジオが金のカラシニコフと同等の贅沢品なのかもしれないが、ここイギリスでは興味のない音楽は雑音にしかならない。だから、頼むから、コヴェントリー・ストリートを走るときには、そのブズーキの音を消してほしい。

毎度のごとく私の本、ビデオ、ライブイベントを宣伝するためにラジオ局に向かったときのことだ。そのとき私を迎えに来たのは6L 12気筒エンジンを搭載するロングホイールベースのアウディ・A8だった。リアシートにはたくさんのボタンが付いており、とても面白かった。

フォルクスワーゲン・フェートンも同じくらい魅力的だが、こういった車の中で最上位に君臨するのはメルセデス・ベンツ Sクラスだ。Sクラスは広いし、静かだし、洗練されているし、快適だし、乗降性が良いので、周りにいるパパラッチに下着を撮られることもない。

パパラッチが下着を激写しやすい車といえば、昔のジャガー XJ だ。リアシートが非常に窮屈なため乗り降りがかなり難しく、人間としての尊厳を保ったまま乗り降りするのは不可能だ。おそらくはこれが理由なのだろうが、私のテレビ人生、メディア人生15年の中で、XJのショーファードリブンが私を迎えに来たという経験はない。

けれど、時代は変わった。昨年、Top Gear の視聴者が選ぶコストパフォーマンスの高い車第1位に旧型XJが選出された。そして最新の調査では、新型XJがあらゆるレクサス、あらゆるメルセデス、あらゆるBMWを抑えて2位に選ばれた。信頼性やアフターサービスではホンダに負けたものの、相手がホンダなら仕方ないだろう。

しかも、新しいXJはリアシートがかなり広くなったし、ロングホイールベースモデルに至っては足元の空間だけでパーティーを開催することができるほどに広い。あまりにも広いので、ニコラス・ソームズを乗せることすら可能だろう。

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当然、旧型XJにもロングホイールベースモデルはあったのだが、元々完成していたデザインがぶち壊しになっていた。しかし、新型XJのストレッチモデルは一見したところ標準モデルと何ら変わらないように見える。

価格についても検討してみよう。標準のV8モデルは60,000ポンドで、メルセデス・ベンツ S500のロングホイールベースとほとんど変わらない。しかし、完全装備のスーパーチャージャー付きモデルを選んだとしてもわずか71,000ポンドだ。同等スペックのメルセデスと比べた場合、今世紀最高のお買い得品のようにさえ感じられる。

メルセデスもジャガーもエアサスペンションを採用しているため、鉄製のスプリングを採用しているモデルと比べるとしなやかさに欠ける。ただ、その違いは集中しなければ気付かないし、正直なところ、このような車のリアシートに座るときには酔っ払っていて違いなど分からないだろう。

ただし、XJには問題点もある。XJにはお堅い雰囲気が漂っており、豪華俳優陣が集う映画のプレミア会場にいるXJは、世界中のリーダーたちの集合写真の中にいるジャック・シラクのようだ。ほとんどの人はノーネクタイでラフなジャケットを着ているのに、彼だけはダブルのスーツを着てピカピカに磨かれた革靴を履いている。

それ以上に問題なのがシート地だ。試乗車のシート地はチープな白いレザーだった。この車が設計された地であるところのバーミンガムではこれでもいいのかもしれない。しかし、それ以外の場所ではこんなシートなど受け入れられない。

しかし、ジャガーでXfmのスタジオに行ったおかげで、私の本やビデオやライブイベントの宣伝に箔が付いたような気はする。ロンドンで営業しているドライバーは、仕事に使う車をジャガーに変えるべきなのかもしれない。

必ずしも新型XJに変えなければいけないわけではないのだが、XJに変えない理由もないだろう。