米国「Car and Driver」によるトヨタ・カローラハッチバック(2019年モデル)の試乗レポートを日本語で紹介します。


Corolla Hatchback

かつて、トヨタはハッチバックという名称を使わなかった。1976年に登場したカローラ初のハッチバックモデルは「リフトバック」と呼ばれていた。しかし、それはもう40年以上前の話であり、当時のトヨタはまだ若かった。今やトヨタは成熟し、婉曲的な名称を使うのをやめた。そして登場したのが、新型カローラハッチバックだ。

ハッチバックの地上高を上げ、タイヤを大きくして飾りを付ければ簡単にクロスオーバーSUVが出来上がるのだが、少なくとも新型カローラに関してはトヨタはそんな誘惑に負けなかった(ちなみにフォードは新型フォーカスでこの誘惑に負けている)。カローラハッチバックはフォルクスワーゲン・ゴルフと同じくらい純粋な「ハッチバック」だ。特別スポーティーではないし、特別上質なわけでもないのだが、見た目はかなり魅力的だ。

最近のトヨタ車はどれも歯を剥き出したような巨大なフロントグリルを装備しているのだが、新型カローラハッチバックもその例外ではない。しかし、この種のフロントグリルを装備するトヨタ車の中で、カローラの見た目はかなり良い方だ。グリルが上下に分かれており、やや無愛想な感じの個性的なフロントエンドとなっている。

テールのデザインはフロント以上に良い。お尻はなかなかセクシーで、LEDテールランプがアクセントとなっている。ボディサイドの造形も良く、尻上がりのプロポーションは熱意を感じさせる。

その内側には最近のトヨタ車のほとんどに用いられている新プラットフォーム、TNGA (Toyota New Global Architecture) が採用されている。TNGAはプリウスからアバロンからRAV4に至るまで、幅広いタイプの車に使うことのできる柔軟性の高いプラットフォームであり、カローラにはフロントにストラット式サスペンションが、リアにマルチリンク式サスペンションが採用される。

ホイールベースは2,640mmで、フォルクスワーゲン・ゴルフよりも5mm長く、全長は4,315mmでゴルフよりも60mm長い。ちなみに、先代モデルとなるカローラiM(オーリス)と比較するとホイールベースは40mm長くなっている。

トヨタは新型カローラハッチバックに搭載される新設計の2.0L 直列4気筒エンジンのことを「ダイナミックフォースエンジン」と呼称している。最高出力は170PSなので名前負けしてしまっている感もあるのだが、最近では珍しいノンターボのエンジンだ。このエンジンはツインカム16バルブで、可変バルブタイミング機構やトヨタのD4-Sシステムなど、最新技術を十分に備えた直噴エンジンだ。圧縮比は13.0:1と高いのだが、レギュラーガソリン指定となっている。

rear

カローラiMの1.8Lエンジンと比べると最高出力は31PSも向上しており、ゴルフの1.8Lターボエンジン(172PS)との差はわずか2PSだ。ただし、ゴルフはターボエンジンなのでトルクでは数字以上の差がある。ちなみにカローラの最大トルクは20.9kgf·m/4,800rpmで、ゴルフの最大トルクは27.5kgf·m/1,600rpmだ。自然吸気にこだわるトヨタの姿勢は素晴らしいとは思うのだが、一方でパフォーマンスだけを見るとやはりターボエンジンに軍配が上がる。

カローラハッチバックにはATとMTの両方が設定される。マニュアルは6段で、4速がほぼ直結ギアの1.025:1となっており、5速と6速はオーバードライブとなっている。シフトダウン時・シフトアップ時のいずれでもエンジンの回転数を制御するレブマッチング機能も備わり、どのギアであっても滑らかな変速が可能となっている。試乗時間はそれほど長くなかったものの、この機能の恩恵はしっかりと確認できた。

ATは独創的なCVTが採用されている。1速のみ3.377:1の本物のギアが存在し、それ以降は2.236:1~0.447:1のCVTが稼働する。CVTにも10段の仮想ギアが存在し、パドルシフトによって変速が可能だ。実際に運転してみても、まったく違和感を感じなかった。

価格競争の激しいセグメントに属する車なので、インテリアにお金がかけられているとは言い難い。しかし、逆に無駄なコストがかけられなかったおかげか、インテリアは抑えの効いたクリーンなデザインになっている。

最上級グレードの「XSE」には速度計部分に7.0インチのデジタルスクリーンが配置され、その横にタコメーターや燃料計、水温計が並んでいる。一方、「SE」は計器部のスクリーンが4.2インチとなる。全車にEntune対応の8.0インチタッチスクリーンが装備される。トヨタ車にもようやくApple CarPlayが対応するようになったのだが、Android Autoはまだ対応していない。

ベースグレードの「SE」であってもフロントシートの形状はしっかりしており、手動で6ウェイの調整もできる。上級グレードの「XSE」はレザーシートとなり、前席シートヒーターや運転席8ウェイパワーシートも装備される。リアシートは全車6:4分割可倒式となる。

前席の居住空間はこのクラスとしては広めなのだが、リアシートはそれほど広くない。ボディサイズの割にリアシートが広かった旧型カローラセダンと比べると、新型カローラハッチバックのリアシートはややタイトで、広さはゴルフと同じくらいだ。

interior

トヨタもようやく電動パワーステアリングの扱い方が分かってきたようで、新型カローラハッチバックのステアリングは応答性が良くクイックになっている。乗り心地も良く走りは落ち着いており、ステアリングからは十分な情報が伝わってくるし、(かろうじて)楽しめるくらいのパフォーマンスも備えている。

旧型カローラiMのCVTモデルは0-100km/h加速で9.1秒を記録した。新型カローラハッチバックはそれよりも0.5秒程度は速いだろうし、6速MT車であればなおさら速いだろう。EPA燃費はまだ分かっていないが、カローラiMのシティ11.5km/L、ハイウェイ14.9km/Lという数字は超えてくることだろう。

新型カローラにはまだまだ可能性がある。TNGAは拡張性の高いプラットフォームであり、4WDシステムや2.0Lエンジンのターボ版を搭載する余地もあるはずだ。もちろん、これはただの妄想でしかないのだが、夢を見ることは決して悪いことではない。

新型カローラハッチバックには魅力的なデザインと良好な乗り心地、そしてトヨタならではの信頼性の高さがある。価格は2万ポンド前後が適切だろう。もしそれでも売れないなら、また「リフトバック」という名前が復活するかもしれない。


2019 Toyota Corolla Hatchback