Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、アルピナ・B5のレビューです。


Alpina B5

皆さんが私くらいの年齢になる頃、そういえば昔、どこかの車オタクが「フォード・カプリのエンジンは”未完成”だった」なんてことを話していたなあ、と思い出すことだろう。

この理屈は非常に単純だ。自動車は大量生産され、部品は仕事帰りにビールを飲むことと、週末に十分な賃金をもらうことだけを楽しみに働く人間によって製造されていた。そのため、どのエンジンも設計者が考えていたものの劣化コピーでしかなかった。

エンジンを正しく製造するのはかなり難しかった。100個以上のまったく同一のピストンを注文しても、正しく製造されたピストンは8個しかなかった、なんて時代もあった。ピストンに限らず、ロッドも、バルブも、エンジンを構成するあらゆる部品がこんな有様だった。

エンジンをまともに作ろうとすれば何千時間もの時間と何千ポンドものコストがかかってしまう。それに、まともに作ったところで、正直なところ誰もエンジンの違いになど気付かない。けれど、真の車好きなら、エンジンをかけるたびにその息吹を感じ取ることができる。

精巧な腕時計のようなものだ。いくら精巧であろうとカシオ製のクォーツ腕時計よりも正確に時間を伝えてくれるわけではない。しかし、だからといってカシオの腕時計が欲しいだろうか。

そしてこれがつい先日運転したアルピナ・B5の話に繋がっていく。元となっているのは普通のBMW 5シリーズであり、5シリーズを作っているのはパブに行くことなど決して考えないロボットだ。ロボットは1日中求められた仕事を完璧にこなすだけだ。

強迫性障害レベルの忍耐力と法医学レベルの注意力をもってすれば、人間もロボットと同じように仕事をすることができる。けれど結局はすべてを台無しにしてしまう。自分でiPhoneの設定を変えるようなものだ。

BMWは営利企業であり、当然ながら収益を気にしている。しかし、5シリーズに乗っていると利益のために作られた車とは到底思えない。なぜなら、現行5シリーズは今の自動車世界において完璧にほど近い車だからだ。

私は以前、5シリーズツーリングこそが現時点において世界最高の車であると明言した。にもかかわらず、アルピナはわずか100人程度の従業員の手で5シリーズをさらに良いものにできると考えたようだ。結果、どうなったのかは後で説明しよう。

問題は他にもある。1960年代から1970年代のBMWは非常にスポーティーだったのだが、そこにはチューニング会社が手を加える余地もあった。アルピナはそれを得意としていた。あまりに得意だったので、BMWがその品質を保証するまでになった。ところが、やがてBMWがMというモデルを作るようになった。M5に乗って「これよりもっと速い車が欲しい」と言うような人間になど会ったことがない。

要するに、アルピナはBMWよりも作りが良いわけでもなければ、BMWと比べて特別速いわけでもない。では、アルピナに何の意味があるのだろうか。もうすぐ新型M5も登場することになっている。価格はアルピナとほとんど変わらないし、完成度はほぼ間違いなく高いだろう。では、果たして89,000ポンド(たくさん装備が欲しいならそれ以上)も支払ってB5を購入する意味がどこにあるのだろうか。

いい質問だ。試乗車にはスタイリッシュなホイールや控えめなリアスポイラーが装備されていた。しかし、見た目はごく平凡な5シリーズとさして変わらない。インテリアに関しても同様だ。アルピナのレザーはBMWに使われている牛革よりも良いものらしいのだが、私には何の違いも分からなかった。ただ、それはまるで青文字盤の腕時計のようだ。

interior

この車の真の価値を理解するためには、サスペンション設定のメニューを深掘りする必要がある。アルピナにはBMWにはない専用のセッティングがある。それがコンフォートプラスモードだ。これこそがB5のすべてだ。B5はBMWと同じくらいに速く、そして同時にBMWより快適になるように設計されている。私くらいの年齢層の顧客にはさぞかし魅力的に映ることだろう。

エンジンは7シリーズと共通の4.4L V8エンジンで、アルピナが設計した2基のターボチャージャーが装着されている。結果、608PSという驚異的なスペックを実現している。この出力は改良されたトランスミッションを介して四輪に伝わる。4WDシステムもアルピナがチューニングしており、駆動力の90%は後輪へと伝わる。

4WDシステムがこの車のもうひとつの特徴だ。決してサーキット用に設計されているわけではない。ニュルブルクリンクでテストされたわけではない。この4WDシステムは公道用に設計されている。330km/hを出せる600馬力の車を公道で走らせるなら、4WDのほうが良いだろうとアルピナは考えた。それはまったくもって正しい。

フロントのキャンバーを変更し、ウィッシュボーンの設計まで刷新されている。おそらくはそれゆえに、四輪操舵であるにもかかわらず、同乗者を酔わせることはなかった。さまざまな四輪操舵の車に乗ってきたが、同乗者を酔わせなかったのはこれが初めてだ。

しかし、この車が快適なだけの車だと勘違いしてほしくはない。この車はとてつもなく力強い。スポーツプラスモードでアクセルを踏み込めば、ヘッドアップディスプレイ内のデジタルスピードメーターすら速度変化に追いつくことができない。息つく暇すら与えられず、ドライバーは常に捕まる危険性に晒され続ける。

それに、直線だけの車でもない。専用のサスペンションジオメトリーとステアリングのおかげで、ワインディングロードではベルベットの容器にスムージーを注ぐがごとく滑らかな走りを見せてくれる。これは私の知る限り史上最良の5シリーズだ。

では問題点はあるのだろうか。流れの遅い都市部の道で超集中すれば、エコプロモードのスロットルレスポンスがやや鈍いことに気付くかもしれない。また、変速がややギクシャクすることもある。ただし、もしこれが欠陥だとしたら、BMWの3年保証もちゃんと利く。

決してB5が新型M5より速くなるだろうなどとは思っていないのだが、かといって新型M5より遅くなるだろうとも思っていない。それに、この車には髪の毛が逆立つような音がある。確かに、その一部は人工的に作られたものだ。しかし、それはアイアンマンも同じだ。アイアンマンは人工的であろうと皆に愛されている。

何より気に入ったのはこの車の成り立ちだ。ドイツ人のチームが細部にわたって検討し、あらゆる部品に手を加えて車をより良いものにしようと努力を重ねた。この車に乗るとそれがしっかりと感じられる。

B5は精巧な機械式腕時計のような車だ。車の真の価値を理解できる人にしかその魅力は理解できない。それ以外の人間にとってはM5で十分だ。

ただ、ステーションワゴンが欲しいなら話は別だ。M5にはステーションワゴンが存在しない。一方、アルピナはステーションワゴンも設定している。

それに、最高速度は320km/hを超えるので、B5ツーリングは世界最速のステーションワゴンだ。なので、私くらいの年齢の人はかなり惹かれるはずだ。


The Jeremy Clarkson Review: 2018 Alpina B5