Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
今回紹介するのは、ランボルギーニ・ウルスのレビューです。

いつから、どういう理由があって世界中の富豪たちが4WDのモンスターばかり欲しがるようになったのだろうか。それは分からないのだが、いずれにしてもそんな流れを受けてこれから1年半のうちにアストンマーティン、フェラーリ、ロールス・ロイスから既存のベントレー、ポルシェ、マセラティのリヴァイアサンと競合するモデルが登場することになっている。
言うまでもなく、ランボルギーニもその流れにしっかり乗っており、そうして誕生したSUVが今回の主題となっているウルスという車だ。しかし「ウルス」という名称はまるで泌尿器科系の医学用語のようだ。
他のラッパーおよびサッカー選手御用達ブランドとは違い、ランボルギーニにはSUV製造の経験がある。1970年代、理由は誰にも分からないのだが、カダフィ大佐が軍向けにイタリア製のピックアップトラックを欲しがっているという噂が流れた。
ところがその噂はまったくの間違いで、それどころかどこの軍もイタリア製のピックアップトラックなど欲しがらなかった。なのでランボルギーニはカウンタックのV12エンジンを搭載した室内激狭のSUVを作り、世界にその実力を示そうとした。
私は以前にこのSUVに乗ったことがあるのだが、この車はとてつもなく楽しいと同時に、とてつもなく恐ろしい車だった。ローレンジ用のレバーはあまりにも硬く、2人がかりで(ひとりはダッシュボードに腰掛けて両手でレバーを引っ張り、もうひとりは後部座席に座って足でレバーを押し込む)操作しなければならなかった。そしてようやくレバーが動くと、ダッシュボードの男はそのまま窓を突き破って車外へと飛んでいった。
オックスフォード・ストリートまで走ると燃料がなくなってしまった。なのでガソリンスタンドに行き、147ポンド分のガソリンを入れた。当時の私の月給を超える額だった。
しかし言うまでもなく、時代は変わった。カダフィは死に、彼の軍はトヨタのピックアップで砂漠を走り回り、ランボルギーニも好き勝手できなくなった。今やランボルギーニはフォルクスワーゲン帝国の小さな歯車にすぎない。
それでも、ランボルギーニは面白い自動車メーカーのままだ。最近のフェラーリは傲慢になり、上客すら敵対視するようになり、メディアに正式なテストを許すこともなくなった。ようやくメディアに車を貸してくれたかと思ったら、その広報車は不自然なほどに速い。

ランボルギーニの経営陣はフェラーリよりよっぽど人柄が良く、はっきり言うと車自体もフェラーリより魅力的だ。ウラカン ペルフォルマンテは間違いなく公道最高のスーパーカーだし(フェラーリ・488など朝食として食べ尽くしてしまう)、アヴェンタドールはいまだに注目を集めることのできる車だ。
しかし、欠陥に関してはどうなったのだろうか。はっきり言ってしまうが、今やランボルギーニという名前を背負っていようとも、ランボルギーニに欠陥はない。ウルスのプラットフォームはアウディ・Q7と共通だし、エンジンとトランスミッションはポルシェ・カイエンと共通で、リアサスペンションはベントレー・ベンテイガと共通で、ダッシュボードのディスプレイはアウディ・A8と共通で、パワーウインドウスイッチは(おそらくメーカーの広報部は隠したがっているだろうが)フォルクスワーゲン・ゴルフと共通だ。
ウルスが本物のランボルギーニのような音を響かせるなら、このような生い立ちにも納得できるのだが、しかし実際は違う。特にロードモードは選ぶべきではない。W.O. ベントレーとフェルディナント・ポルシェの間に生まれた子供としか思えない。トラックモードにしたときだけ、スリリングな咆哮を聴くことができる。
音こそが私がランボルギーニに求めているものだ。片手に斧、片手にチェーンソーを持って暴れまわる男のような狂気を求めている。ザ・チューブスのフィー・ウェイビルにワイパーを付けたような車を求めている。
太陽が燦々と輝く中、凍った湖の上でトラクションコントロールを切り、狂人モードにして走らせれば、花火大会のような派手な走りを見せてくれる。しかし、それ以外の状況では…。
見た目にも問題がある。シャープなエッジが多数あり、ランボルギーニらしい魅力的なデザインだと思う人もいるかもしれない。それに、他のSUV(特にベンテイガ)と比べれば車高も低いしデザインも滑らかだ。しかし、よくよく見てみると、この車にはまるで狂気が存在しない。
室内にはイタリア的な魅力的な雰囲気もあるし、品質はドイツ車だ。室内空間も十分に存在する。運転席はシートを後ろまで下げきらなくても快適に座れるし、仮に下げきったとしても後部座席には180cm超の大人が座ることができる。しかも、そのさらに後ろには狩猟用の荷物もしっかり入る広大な荷室がある。
それに、4WDだし、地上高を上げることもできるので、オフロードを走らせることもできる。ちゃんとしたタイヤを履かせれば、スキー場の斜面だって登れる。なぜそんなことが言えるのかといえば、実際に試してみたからだ。

ただし、ウルスにはマニュアルのデフロックやローレンジギアはない。走行中の路面の種類(雪、砂、泥など)を車に伝えれば、最適な走行モードを自動的に設定してくれる。残念ながら、走破性の面ではレンジローバーに大きく後れを取っているだろう。しかし、黄色いランボルギーニで狩猟場を訪れるというギャップは非常に面白い。来シーズンには多くの人がこれを実行するはずだ。
公道では、普通の通勤モードだと非常に静かでかなり快適だ。アクセルを踏み込むと、ターボチャージャー(ランボルギーニとしては初だ)がちょっと躊躇ったのち、ATがギアの検討をはじめる。走りは非常に穏やかなのだが、それはランボルギーニに求められているものではない。
1日この車に乗って、少し悲しい気分になってしまった。ウルスにはテレビゲームのようなバカバカしさとドイツ人の技術の融合を期待していたので、運転することを楽しみにしていた。しかし、実際は非常に”普通”なSUVだった。確かにトラックモードにして電子制御を切れば狂気が表に出てくる。しかし、そんなことをわざわざするような人はいないだろう。
決して誤解してほしくないのだが、ウルスは非常に速い。それに、竹馬を履いているとはまるで思えないほど俊敏にコーナーを抜けることができる。しかしやはり、こんなことをわざわざするような人はいないだろう。ランボルギーニは普通に運転する人しか乗らないし、普通に運転すると、普通の車としか思えない。そして普通の車が欲しいなら、8万ポンド節約してレンジローバーを購入したほうがいい。それか、アストンマーティンを待ったほうがいい。
フェラーリのSUVを待ってもいいのだが、きっと大金を積まなければ予約することすら許されないだろうし、仮に予約ができたとしても、本当に手に入れられるのかも不確かだ。
ウルスは非常に優秀な車だ。静かで快適で、速くて信頼性も高い。それに、こんなことを言うのはおかしいかもしれないが、コストパフォーマンスは高い。しかし、逆にだからこそ、ランボルギーニらしくないのかもしれない。私が求めていたのはランボルギーニだ。
The Jeremy Clarkson Review: 2018 Lamborghini Urus
今回紹介するのは、ランボルギーニ・ウルスのレビューです。

いつから、どういう理由があって世界中の富豪たちが4WDのモンスターばかり欲しがるようになったのだろうか。それは分からないのだが、いずれにしてもそんな流れを受けてこれから1年半のうちにアストンマーティン、フェラーリ、ロールス・ロイスから既存のベントレー、ポルシェ、マセラティのリヴァイアサンと競合するモデルが登場することになっている。
言うまでもなく、ランボルギーニもその流れにしっかり乗っており、そうして誕生したSUVが今回の主題となっているウルスという車だ。しかし「ウルス」という名称はまるで泌尿器科系の医学用語のようだ。
他のラッパーおよびサッカー選手御用達ブランドとは違い、ランボルギーニにはSUV製造の経験がある。1970年代、理由は誰にも分からないのだが、カダフィ大佐が軍向けにイタリア製のピックアップトラックを欲しがっているという噂が流れた。
ところがその噂はまったくの間違いで、それどころかどこの軍もイタリア製のピックアップトラックなど欲しがらなかった。なのでランボルギーニはカウンタックのV12エンジンを搭載した室内激狭のSUVを作り、世界にその実力を示そうとした。
私は以前にこのSUVに乗ったことがあるのだが、この車はとてつもなく楽しいと同時に、とてつもなく恐ろしい車だった。ローレンジ用のレバーはあまりにも硬く、2人がかりで(ひとりはダッシュボードに腰掛けて両手でレバーを引っ張り、もうひとりは後部座席に座って足でレバーを押し込む)操作しなければならなかった。そしてようやくレバーが動くと、ダッシュボードの男はそのまま窓を突き破って車外へと飛んでいった。
オックスフォード・ストリートまで走ると燃料がなくなってしまった。なのでガソリンスタンドに行き、147ポンド分のガソリンを入れた。当時の私の月給を超える額だった。
しかし言うまでもなく、時代は変わった。カダフィは死に、彼の軍はトヨタのピックアップで砂漠を走り回り、ランボルギーニも好き勝手できなくなった。今やランボルギーニはフォルクスワーゲン帝国の小さな歯車にすぎない。
それでも、ランボルギーニは面白い自動車メーカーのままだ。最近のフェラーリは傲慢になり、上客すら敵対視するようになり、メディアに正式なテストを許すこともなくなった。ようやくメディアに車を貸してくれたかと思ったら、その広報車は不自然なほどに速い。

ランボルギーニの経営陣はフェラーリよりよっぽど人柄が良く、はっきり言うと車自体もフェラーリより魅力的だ。ウラカン ペルフォルマンテは間違いなく公道最高のスーパーカーだし(フェラーリ・488など朝食として食べ尽くしてしまう)、アヴェンタドールはいまだに注目を集めることのできる車だ。
しかし、欠陥に関してはどうなったのだろうか。はっきり言ってしまうが、今やランボルギーニという名前を背負っていようとも、ランボルギーニに欠陥はない。ウルスのプラットフォームはアウディ・Q7と共通だし、エンジンとトランスミッションはポルシェ・カイエンと共通で、リアサスペンションはベントレー・ベンテイガと共通で、ダッシュボードのディスプレイはアウディ・A8と共通で、パワーウインドウスイッチは(おそらくメーカーの広報部は隠したがっているだろうが)フォルクスワーゲン・ゴルフと共通だ。
ウルスが本物のランボルギーニのような音を響かせるなら、このような生い立ちにも納得できるのだが、しかし実際は違う。特にロードモードは選ぶべきではない。W.O. ベントレーとフェルディナント・ポルシェの間に生まれた子供としか思えない。トラックモードにしたときだけ、スリリングな咆哮を聴くことができる。
音こそが私がランボルギーニに求めているものだ。片手に斧、片手にチェーンソーを持って暴れまわる男のような狂気を求めている。ザ・チューブスのフィー・ウェイビルにワイパーを付けたような車を求めている。
太陽が燦々と輝く中、凍った湖の上でトラクションコントロールを切り、狂人モードにして走らせれば、花火大会のような派手な走りを見せてくれる。しかし、それ以外の状況では…。
見た目にも問題がある。シャープなエッジが多数あり、ランボルギーニらしい魅力的なデザインだと思う人もいるかもしれない。それに、他のSUV(特にベンテイガ)と比べれば車高も低いしデザインも滑らかだ。しかし、よくよく見てみると、この車にはまるで狂気が存在しない。
室内にはイタリア的な魅力的な雰囲気もあるし、品質はドイツ車だ。室内空間も十分に存在する。運転席はシートを後ろまで下げきらなくても快適に座れるし、仮に下げきったとしても後部座席には180cm超の大人が座ることができる。しかも、そのさらに後ろには狩猟用の荷物もしっかり入る広大な荷室がある。
それに、4WDだし、地上高を上げることもできるので、オフロードを走らせることもできる。ちゃんとしたタイヤを履かせれば、スキー場の斜面だって登れる。なぜそんなことが言えるのかといえば、実際に試してみたからだ。

ただし、ウルスにはマニュアルのデフロックやローレンジギアはない。走行中の路面の種類(雪、砂、泥など)を車に伝えれば、最適な走行モードを自動的に設定してくれる。残念ながら、走破性の面ではレンジローバーに大きく後れを取っているだろう。しかし、黄色いランボルギーニで狩猟場を訪れるというギャップは非常に面白い。来シーズンには多くの人がこれを実行するはずだ。
公道では、普通の通勤モードだと非常に静かでかなり快適だ。アクセルを踏み込むと、ターボチャージャー(ランボルギーニとしては初だ)がちょっと躊躇ったのち、ATがギアの検討をはじめる。走りは非常に穏やかなのだが、それはランボルギーニに求められているものではない。
1日この車に乗って、少し悲しい気分になってしまった。ウルスにはテレビゲームのようなバカバカしさとドイツ人の技術の融合を期待していたので、運転することを楽しみにしていた。しかし、実際は非常に”普通”なSUVだった。確かにトラックモードにして電子制御を切れば狂気が表に出てくる。しかし、そんなことをわざわざするような人はいないだろう。
決して誤解してほしくないのだが、ウルスは非常に速い。それに、竹馬を履いているとはまるで思えないほど俊敏にコーナーを抜けることができる。しかしやはり、こんなことをわざわざするような人はいないだろう。ランボルギーニは普通に運転する人しか乗らないし、普通に運転すると、普通の車としか思えない。そして普通の車が欲しいなら、8万ポンド節約してレンジローバーを購入したほうがいい。それか、アストンマーティンを待ったほうがいい。
フェラーリのSUVを待ってもいいのだが、きっと大金を積まなければ予約することすら許されないだろうし、仮に予約ができたとしても、本当に手に入れられるのかも不確かだ。
ウルスは非常に優秀な車だ。静かで快適で、速くて信頼性も高い。それに、こんなことを言うのはおかしいかもしれないが、コストパフォーマンスは高い。しかし、逆にだからこそ、ランボルギーニらしくないのかもしれない。私が求めていたのはランボルギーニだ。
The Jeremy Clarkson Review: 2018 Lamborghini Urus
スーパーカーメーカーが時代の流れに乗ってSUVを作り出しても、その車はそのメーカーのスーパーカーとは異なるという事ですね。広い視野で見ればブームに乗った没個性的な車になるというのが分かりました。