英国「AUTOCAR」によるフォード・フィエスタSTの同乗試乗レポートを日本語で紹介します。


Fiesta ST

フォード・フィエスタSTはドライバーズカーとしてこれ以上ないほどに優秀な車だった。そんなフィエスタSTにも新型が登場しようとしている。新型フィエスタSTには従来の4気筒エンジンに代わり3気筒エンジンが搭載される。我々は世界最高峰のホットハッチであったフィエスタSTから1気筒失われることで、車自体も劣化してしまうのではないかと危惧した。

欧州フォードのパフォーマンスカー部門で主管を務めるレオ・ロークス氏に新型モデルについての解説をしてもらった。サスペンション、シャシ、パワートレイン、ステアリングなど、さまざまな部分が新しくなっているそうだ。そして、10分ほどの解説ののち、ようやく気になっていた3気筒エンジンの話になった。

正直なところ、新型フィエスタSTで大きく変わった部分はこの3気筒エンジンくらいしかないだろうと思っていた。しかし、発表時のインパクトを狙ったのか、新型フィエスタSTに関しては多くのことが隠されていたようだ。情報を伏せていたのは、登場まで時間がかかったフォーカスRSを売りたかったことも関係しているかもしれない。

情報を伏せていた理由はどうあれ、新型フィエスタSTは操作性に関わる部分も改善されている(元々改善など不要なほどに完成度は高かったのだが)ということが明らかになった。見た目が変わり、気筒数が減少しただけの、単なる新型モデルというわけではなさそうだ。

リアサスペンションは新設計のトーションビーム式サスペンション(ゲージ鋼を使っており、フォード製品史上もっとも高剛性だ)で、ダブルバルブダンパーを組み合わせ、スプリングも力を分散できる特殊なものを採用している。

ロークス氏はこのスプリングについて以下のように語っている。
リアサスペンションに横方向の力が加わると、スプリングがその力に拮抗し、結果的にリアタイヤの挙動が安定します。実際に運転してみると違いが分かるほどにステアリングが正確になり、同時にリアマウントブッシュをよりソフトにすることができるので、乗り心地も改善しています。

彼の言うことが事実なら、非常に素晴らしい技術と言えるだろう。それに、非常に合理的だ。

フロア下にはブレースがいくつか追加されており、これによってシャシ剛性は約15%向上しているそうだ。

ステアリングのギア比はフォードの前輪駆動車としては最もクイックな12:1で、ロック・トゥ・ロックはわずか2回転だ。ギア比は固定で、ロークス氏いわく、応答性はリニアだそうだ。フォードは旧型フォーカスSTにも採用された可変ギアレシオステアリングも検討したそうなのだが、ギア比を可変にするとドライバーが疲れやすくなってしまうと判断されたそうだ。

ロークス氏は以下にように語っている。
あまり気付かないかもしれませんが、ギア比を固定したステアリングのほうがずっと自然で直感的に操作できますし、より楽に操作できるんです。

rear

新型フィエスタSTのフロントトレッドは新型フィエスタの標準車と比べると10mm、旧型モデルと比べると48mm拡大している。フロントハブは初めて専用設計となっており、その結果、ロールセンターを低くしすぎずに車高を低くすることに成功している。

新型フィエスタSTにはクワイフ製のヘリカルLSDも装備される。LSDは標準装備ではなく、機械式LSDを装備するホットハッチが増えている中で、新型フィエスタSTは独特の立ち位置にあるようにも思える。

そして肝心のエンジンだが、気筒数は4気筒から3気筒に削減されたものの、排気量は100ccしか減少していない。最高出力および最大トルク(オーバーブースト時で200PS/32.6kgf·m)は旧型と同一で、エンジンの重さはわずかに減少している。

新型フィエスタSTの0-100km/h加速は旧型のST200よりも0.2秒速い。これはLSDやローンチコントロールシステムが装備されたことや、グリップ性能の高いミシュラン Pilot Super Sportを履いている(当初はPilot Sport 4を履く予定であったが、フォードの開発陣が求めるグリップ性能を満たさなかったそうだ)ことが関係しているだろう。

新エンジンの採用により大きく改善したのは燃費性能や環境性能だ。二酸化炭素排出量は138g/kmから114g/kmに大きく減少している。フィエスタSTには自動車用3気筒エンジンとしては初の気筒休止システムが備わり、低負荷時には2気筒のみを使用して走行することが可能となっている。

解説はこのあたりで終わりにして、そろそろ実力を試すことにしよう。今回はベルギーの北端、オランダとの国境付近にあるロンメルのテストコースを何周かした。このコースはホットハッチの実力を試すのにはぴったりの設計となっている。

今回運転してくれたのはフォード・パフォーマンスの技術者であるデイヴィッド・プット氏だ。彼は見事にコーナーを攻めながら饒舌な解説を披露してくれた。彼はアクセルとブレーキを繊細に操作して荷重を前後に移動させ、意のままに車を操った。ときにスライドさせたりもしていたのだが、いとも簡単に安定した。

彼とは2年ちょっと前にもこの場所で会っており、その時は4WDのフォーカスRSのプロトタイプ車を運転していた。今回の走りからは、旧型フィエスタにあった楽しくも安定した操作性はしっかり継承されているであろうことが伝わってきた。

interior

それに、助手席に座っていて気付いたのだが、乗り心地は旧型モデルから大幅に改善しているようだ。乗り味に関してはあえてこういうセッティングになっているそうだ。

プット氏は以下のように語った。
旧型STは硬めのセッティングで、そのセッティングも気に入ってはいたのですが、新型はよりしなやかで角の取れた乗り味にしようと考えました。我々はスポーティーさをできるだけ損なわずにしなやかさを求めました。ときにソフトすぎると感じることもあったのですが、結果的には満足のいく出来になったと考えています。特に公道ではメリットがはっきり感じられます。

新型フィエスタSTは競合車よりもずっとバランスが良いのだが、その手法も興味深い。競合車とは違い、フィエスタSTの足回りはフロントよりもリアのほうが硬いセッティングになっている。これに関し、プット氏は以下のように語っている。

我々は競合車を調べ尽くし、どれもリアよりフロントのほうが硬いセッティングになっていることに気付きました。しかし、これによりややアンダーステア気味になってしまいます。おそらく、各社オーバーステアを恐れているのでしょう。しかし、我々はオーバーステアを恐れず、リアを硬くしています。これはフォーカスRSも同じです。どうあれオーバーステアというものは出てくるものですから、だったら制御できる範囲で出してしまったほうが良いと考えました。はっきり言ってしまうと、オーバーステアを抑えすぎれば退屈な車になってしまいます。

フィエスタSTは決して退屈な車ではない。プット氏がコースの最終コーナーを出てアクセルを踏み込むと、エンジンが3気筒の歌声を響かせた。その音は非常に滑らかだった。フライホイールが重くなったので、高回転域から回転数を落ち着けるのには少し時間がかかるようになったらしいが、それでも十分に滑らからしい。

このエンジンは初代フォーカスSTの5気筒エンジンを彷彿とさせる。それに、フィエスタSTのエンジンはそれよりもさらに元気が良さそうだ。

邪推をしても仕方がないので、これ以上走りについて推測を続けるつもりはない。本当の実力は5月になって自分で運転できるようになってからはっきりさせれば良いだろう。旧型STを気に入っていただけにかかる期待は大きいが、今回の同乗試乗を経て、その期待が裏切られることはなさそうだと感じた。


気筒休止システム

Engine

1.5L EcoBoost 3気筒エンジンの中央シリンダー用排気弁には油圧式ソレノイドが繋がっており、エンジンが1,200-4,500rpmで回転している状態だと中央の気筒が休止される。

気筒休止のタイミングは燃料噴射やバルブ開閉のタイミングと同調してミリ秒単位で調整されているため、気筒休止をいつしたのかはほとんど分からない。実際、助手席から注意深く聞いてみても、音の違いはまったく分からなかった。

中央のシリンダーでは4ストロークサイクルが中断され、排気弁と吸気弁が閉じることで熱された排気ガスがシリンダー内に閉じ込められる。この排気ガスによりピストンに圧力がかかり、残りの2気筒は余計な仕事をせずに済むし、中央のシリンダーには余計なオイルが入り込まない。

フォードによると、この気筒休止システムによって新しいWLTP走行サイクルにおける燃費は6%程度向上するそうだ。また、このシステムはいずれ1.0LのEcoBoostエンジンにも採用される予定だ。


First ride: 2018 Ford Fiesta ST