米国「MOTOR TREND」によるランボルギーニ・ウルス(プロトタイプモデル)の試乗記を日本語で紹介します。


Urus

ランボルギーニ・ウルスの原点となったのはランボーランボことLM002だ。LM002はカウンタックのエンジンを搭載した1980年代のランボルギーニのSUVであり、石油王たちに愛された。

かつてSUVを作った実績があるだけに、ランボルギーニには他のスーパーカーメーカー以上にSUVを作る資格はあるだろう。しかし、ウルスに実際に乗ってみて、ランボーランボとウルスの共通点は1つしかないということが分かった。要するに、バッジ以外に何の共通点もない。

ラダーフレーム構造のLM002は、米軍向けのリアエンジン軍用車「チーター」をもとに開発されており(ちなみに米軍はAMゼネラルのHMMWVを採用したため、チーターは軍用車にはなれなかった)、車重は3トン近い。一方のウルスはフォルクスワーゲングループのMLB evoプラットフォーム(アウディ・Q7、ベントレー・ベンテイガ、ポルシェ・カイエンと共通)をベースに開発されている。共通性は少ないもののアウディ・A4もMLB evoプラットフォームを採用しており、ここからもLM002とは違い、非常に乗用車的なSUVであることが分かる。

LM002にはカウンタックと共通の5.2L V12エンジンのトルク強化版が搭載されていた。しかし残念なことに、ウルスに搭載されるのはアヴェンタドールの6.5L V12エンジンではない。MLB evoを採用していることから想像できるかもしれないが、ウルスにはアウディ製のツインターボV8エンジンが搭載され、最高出力650PS、最大トルク86.7kgf·mを発揮する。

ウルスとプラットフォームを共有するベンテイガには608PS/91.8kgf·mのツインターボW12エンジンが搭載されているにもかかわらず、どうしてウルスにはV12エンジンが搭載されなかったのだろうか。これについてランボルギーニ研究開発責任者のマウリツィオ・レジャーニ氏は中国市場を意識してのことだと話した。中国市場では税額が排気量に応じて指数関数的に増加するらしく、特に4.0Lを超える車の税額はかなり高額となるそうだ。

ウルスは欧米以上に中国市場を強く意識したモデルであり、そのため、12気筒モデルは設定されていない。また、中国市場向けであるがために、ランボルギーニとしては初めて、ZF製の8速トルコンATが採用された。ちなみにLM002にはストロークの長い5速MTが採用されていた。

ウルスにはトルクコンバーターが付くため、アヴェンタドールのシングルクラッチトランスミッションともウラカンのデュアルクラッチトランスミッションとも違った変速を見せる。変速は早くかつ正確なのだが、同じトランスミッションを採用するS8のようなチューニングのほうが個人的には好みだ。残念なことに、アメリカの新騒音規制のせいでスポーツモードやコルサモードでさえも排気音は物足りなく感じる。

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私はウルスという車について、SUVらしくない走りを実現しているだろうとは思ったものの、かといってランボルギーニらしい走りを実現しているとも思っていなかった。それはある意味で正しく、そしてある意味で間違っていた。

0-100km/h加速は公称値3.7秒だそうだ。実際にVBOXのデータロガーを使い、ローンチコントロールを使用して試してみたところ、0-100km/h加速3.59秒を記録した。ちなみにレジャーニ氏は3.43秒を記録した。しかも、その日はレジャーニ氏いわく、コンディションはあまり良くなかったそうだ。

0-400m加速はおそらく11.5秒を切る程度になるだろう。ちなみに最高速度は300km/hを超えるそうだ。私自身も300km/h近くまで出すことができた。

試乗会はポルシェのナルド・テクニカルセンターで行われ、試乗車として2台のウルスが用意されていた。そこには16箇所のコーナーがある全長6.3kmのサーキットがあった。そこを2周もすると、ウルスが本物のランボルギーニなのかという疑問も消えていった。ロングストレートで265km/h以上出したあと、ブレーキを踏み込んでターン1に差し掛かったのだが、250km/hでそこを抜けることができてしまった。SUVでそれは正気の沙汰とは思えない。

ウルスには世界最大のブレーキが搭載される。フロントには17.3インチのカーボンセラミックローターと10ピストンのキャリパーが奢られる。リアはディスクが14.6インチで、キャリパーは4ピストンだ。このブレーキはベースグレードに装着される21インチホイールの中になんとか収まるサイズとなっている。ちなみに、ウルスでは22インチや23インチも選択でき、ランボルギーニ専用のピレリ P ZERO CORSAタイヤが組み合わせられる。

試乗車は2台とも20ラップ程度全力で走行したのだが、ブレーキやタイヤには十分に余力がありそうだった。後輪操舵システムやトルクベクタリングシステム(アンダーステア抑制のため、コーナー外側の後輪にトルクが送られる)のおかげもあり、私はサーキットでSUVを運転しているということをほとんど忘れてしまった。ウルスがSUVであることを思い出すのは、もう一台のウルスが近くを走ったときくらいだった。

レジャーニ氏いわく、ウルスの車重は2,150kg程度らしい。ボディサイズを考えればかなり軽い。とはいえ、イタリアの自動車メーカーの公称車重はあまり信頼できないので、実際はもう少し重いだろう。ちなみに、ベントレー・ベンテイガは2,564kgで、比較的軽いBMW X6Mは2,353kgだ。おそらくウルスも2.3トン程度になるのではないだろうか。

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車重に関する疑念はともかく、ウルスは非常に優秀な車だ。続いて我々はラリーステージのようなダートコースでの試乗を行った。試乗車は21インチのSUV用タイヤ、ピレリ SCORPIONを履いており、3種類のオフロードモードのうちのひとつを試すことができた。ウルスにはSTRADA(ストリート)、SPORT、CORSA(サーキット)モードのほかに、SABBIA(砂漠)、TERRA(ダート)、NEVE(スノー)モードが用意され、モード変更はギアセレクターの横にある小さなレバーで行う。ランボルギーニはこのレバーのことを「タンブレロ」(イタリア語でタンバリンという意味)と呼んでいる。

ダートコースを走ると、ヘネシーのヴェロシラプターを運転しているような感じだった。ダートでは大トルクの恩恵がより感じられ、ほとんど2速を維持したままで走行した。コース内には超タイトな1速コーナーもあった。4WD車とはいえ、アクセルを踏み込めばテールを滑らせることもできたし、ステアリングは十分に軽いので、コントロールもしやすかった。まさしく野獣のような車だ。

しかし、果たしてウルスのオーナーがこれだけ高価なSUVを悪路へ持ち込むのだろうか。ランボルギーニは持ち込むオーナーもいると予想しているらしい。だからこそ、ウルスには標準車のほかにデューン版が設定される。後者は前後バンパー部分が変更されており、アプローチアングルとデパーチャーアングルが向上している。3種類のオフロードモードが設定されるのはデューンのみとなり、標準車にはNEVEモードしか設定されない予定だそうだ。ただしこれは未確定の情報だ。

実のところ、車はまだ完成していない。完成するのは5月頃になるだろう。今回試乗したのは開発中のプロトタイプ車であり、市販までに改善される部分もあるだろう。

個人的に改善してもらいたい部分が4つある。1つ目、(規制が許す市場では)もっと音をうるさくしてほしい。それから、コルサモードではシフトアラート音も追加してほしいし、コルサモードでの可変ギアレシオステアリングのセッティングはもう少しタイトにしてほしい。そして4つ目、変速をよりクイックにしたスポーツオフロードモードが欲しい。この4つが満たされれば、さらに魅力的なSUVになるだろう。

ポルシェがカイエンを生み出したとき、「純粋主義者」は強く反発し、失望した。しかし、ポルシェはSUVの売り上げで大きな利益を生み、結果的に911の開発によりお金をかけられるようになったそうだ。

おそらく、ランボルギーニにも同じような批判が集まるだろう。しかし、ウルスが生み出す利益が、いずれアヴェンタドールやウラカンの後継車をより良いものにしていくことになるかもしれない。ランボルギーニが好きなら、ウルスという車も愛するべきだろう。


2019 Lamborghini Urus Prototype First Drive Review: Magic Bullet