米国「Automobile」によるインフィニティ・QX80(2018年モデル)の試乗レポートを日本語で紹介します。


QX80

多くの高級ブランドでは、3列シート大型SUVが実質的なフラッグシップモデルとなっている。その好例がキャデラック・エスカレードとリンカーン・ナビゲーターだ。そして、今回の主題であるインフィニティ・QX80もそうだ。こういったブランドはフラッグシップセダンでメルセデス・ベンツ Sクラスのような強豪車と対等に渡り合うことはできていないのだが、フラッグシップSUVにはSクラスと同等の装備と、そして高い走破性や牽引性能が備わっており、ブランドの稼ぎ頭となっている。

インフィニティ・QX80は販売台数こそ少ないものの利益率は高いモデルであり、2017年に開催されたドバイ国際モーターショーでマイナーチェンジモデルである2018年モデルが発表された。ドバイで発表されたのは、中東がロシアやアメリカと並んでQX80にとって重要な市場だからだ。インフィニティブランドは世界50市場で展開されているのだが、QX80が販売されているのはそのうちわずか27市場のみだ。要するに、23市場にはフラッグシップモデルが不在ということになる。

2018年モデルではAピラーより前方のデザインが刷新されており、大型でより威圧感のあるフロントグリルが装着され、LEDヘッドランプやフォグランプのデザインも新しくなった。テールゲート部分のデザインも変更され、テールランプやリアバンパーフィニッシャーも変わっている。

新デザインとなった20インチアルミホイールが標準装着となり、オプション設定される22インチ鍛造アルミホイールも新デザインとなっている。試乗車はサイドウォールのやや柔らかい275/50R22のオールシーズンタイヤを装着していた。インフィニティで商品企画部長を務めるアナンド・パテル氏によると、このタイヤと”快適性重視のサスペンション”が見事にマッチしているそうだ。QX80には乗り心地と操作性を両立するために2011年モデルからHBMC (Hydraulic Body Motion Control) が装備されている。QX80には後輪駆動モデルと4WDモデルが設定され、4WDのモードにはオートマチック、4-HIGH、4-LOWの3種類がある。

QX80の走りはフレーム構造のSUVとは思えず、悪路でもあまり横揺れを感じることはなかった。従来型もそうだったのだが、QX80はこのクラスの高級SUVの中ではかなり快適性が高く、チャールストン近郊の沿岸道路のコーナーでは高い操作性を見せてくれた。キャリーオーバーとなる406PSの5.6LエンジンはV8エンジンを搭載した重いSUVとしては平均的な加速を生み出す。フルスロットル時には魅力的なモーターボートのようなエンジン音が響く。

rear

パテル氏いわく、QX80の上質なキャビンは高級ジェット機にインスピレーションを得ているそうだ。しかも、この地面を走る高級ジェット機は子供にも配慮している。QX80の顧客の平均年齢はこのクラスとしては最も低く、顧客の実に60%に小さな子供がいるそうだ。

3ゾーンオートエアコンやスマートフォンポケット、コーヒータンブラー対応のカップホルダーも装備される。ナビ画面は従来よりも高解像度になり(ただ、8インチという画面サイズは今の基準からすると少し小さいかもしれない)、USBポートも2個新たに用意され、リアエンターテイメントシステム用のワイヤレスヘッドフォンも装備される。

新装備であるデジタルルームミラーはリアカメラの映像を映し出すため、後部座席に背の高い人が座っていても、あるいは天井まで荷物を満載していても後方視界を確保することができる。映像の高さや明るさは調整できるし、GMのデジタルルームミラー同様、カメラ映像をオフにすると普通のルームミラーとして使うこともできる。

レザーには2種類のグレードがあり、上級インテリアにはセミアニリン本革が使われる。レザーには防汚コートが施されている。インテリアカラーには新たにサドルブラウンが追加された。レザーにはステッチも入っており、手に触れる部分はどこもソフトで、見た目も非常に上質だ。QX80のシートは数時間運転しても疲れないし、着座位置も適切だ。

2列目シートのレッグルームおよびヘッドルームは十分に広く、2列目シートを前に倒して3列目シートに乗り込む際の操作も簡単だ。3列目はそれほど広くはないものの、ヘッドルームは十分に確保されているし、レッグルームも少なくともちょっとした移動程度であればそれほど窮屈なわけではない。

interior

ダッシュボードやセンターコンソールに使われている木目調のプラスチックの質感はあまり高くなかった。それに、サンバイザー周りの作りもやや粗いように感じられた。細かい部分かも知れないが、他が上質なだけに、こういった部分がどうしても気になってしまう。

2018年モデルには新しい運転支援技術も搭載されている。2台前の車まで感知できる前方衝突警報、車線逸脱警報・逸脱防止システム、インテリジェントクルーズコントロール(全車速追従機能付)、エマージェンシーブレーキ(歩行者探知機能付)、死角警報、後方衝突警報などが装備される。

ただし、安全装備は最先端というわけではない。車線逸脱防止システムの判定はそれほど厳しくない(ただし警報はよく鳴る)。日産のプロパイロットも装備されない。今回のマイナーチェンジは新型リンカーン・ ナビゲーターの登場に対抗するためのものなのだろう。それに、そろそろ次期型キャデラック・エスカレードの登場も予想されているし、2021年頃には新型QX80の登場も予想されている。マイナーチェンジされたとはいえ、7年前に設計されただけあって、古さを隠しきれない部分もある。

パワートレインは変わっていないので、EPA燃費はシティ/ハイウェイそれぞれ6.0/8.5km/L(2WD車)、5.5/8.1km/L(4WD車)と従来通りそれほど経済的ではない。ただ、ガソリン価格があまり高騰しない限り、このクラスのSUVの顧客にとって燃費はそれほど重要ではないだろう。最先端の装備やガジェットは必ずしもいらないが、静粛性や快適性の高い「高級ジェット機」が欲しいなら、QX80を選ぶ価値はあるだろう。


First Drive: 2018 Infiniti QX80