米国「AUTOWEEK」によるトヨタ・C-HR R-TUNEDの試乗レポートを日本語で紹介します。


C-HR R-TUNED

クロスオーバーSUVのトヨタ・C-HRは市場に数多ある他のクロスオーバーSUVに埋もれてしまっている。しかし、そんなC-HRをレーサーでありチューナーのダン・ガードナー氏が変身させた。ガードナー率いるチームはトヨタの公式な監視のもと、スタイリッシュで穏やかなC-HRをサーキットのモンスターへと変貌させた。

ガードナー氏はこれまでもさまざまなトヨタ車に手を加えてきた。スポーツカーのサイオン・F-RS(日本名: トヨタ・86)やサイオン・tCから、ミニバンのシエナに至るまで、トヨタが考えもしなかったであろう姿へと変貌させてきた。

彼は最高速度370km/hを実現したランドクルーザーを生み出したこともある。彼が手を入れた最初のシエナは432PSを発揮し、ストリート・オブ・ウィローで1分27秒というラップタイムを記録した。そして2台目のシエナはワン・ラップ・オブ・アメリカを完走した。

彼は20車種のトヨタ車を改造してきた。彼は今後も、トヨタから予算が下りる限り、新しい車を生み出し続けるつもりだそうだ。

2017年にC-HRがアメリカで発売された際、ガードナー氏率いる「DG-Spec」は既にこのC-HRを本物のハイパフォーマンスカーにするための準備を始めていた。CVTを搭載するSUVを本気で改造するなど、馬鹿げているとさえ思える。しかし、DG-Specの挑戦は続いた。

最大の変更点はパワートレインの刷新だ。環境性能を重視したCVTや146PSの2.0Lエンジンは排除された。代わりに搭載されたのは、DG-Specとハスポート社が手掛けた2.4Lの2AZ-FE型エンジンだ。このエンジンにはギャレット製のGTX 3076R Gen IIターボチャージャーが組み合わせられている。

ほかにギャレット製のインタークーラー、デゾッドの鍛造コンロッドおよび圧縮比9.0:1の鍛造ピストン、ステンレススチール製インテークバルブ、アイコネルの排気バルブ、レーシングバルブスプリング、チタン製レースベアリングが採用され、最高出力608PS、最大トルク76.0kgf·mを実現している。駆動力はベース車同様、すべて前輪へと送られる。

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それ以外の部分にも多数手が加えられている。OS技研のスーパーロックLSDも装備されているし、空力パーツも多数装備される。特に巨大なリアウイングは240km/hで180kgものダウンフォースを生み出す。サスペンションはDG-Specとモーションコントロールが共同開発したもので、ベース車とはまったく設計が変わっている。ウィロースプリングスでダン・ガードナー氏に見せてもらったチラシには46もの専用パーツが列記されていた。

そう、今回はウィロースプリングスでC-HR R-TUNEDに試乗した。今回は、ロレックス・スポーツカー・シリーズで優勝したこともあるレーシングドライバーのクレイグ・スタントン氏に同乗してもらった。これまで彼とは何度か会ったこともあるし、非常に良い人であることも知っていたので、事故は起こさないようにしようと心に誓ってC-HR R-TUNEDのエンジンを始動させた。

見た目は仰々しいレーシングカーなのだが、エンジンを始動させるのはごく普通のトヨタのキーだった。トヨタのE型5速MTのクラッチは軽く、ごく普通のMTと大差なかったし、クラッチの繋がり方も普通のロードカーと変わらなかった。

ピットストレートをゆっくりと抜け、ターン1へと向かった。車は予想以上に跳ねたのだが、パワーは十二分にあったので、次のターン2までの道は3速と4速だけで加速していった。

600馬力という高出力はほとんどが巨大なターボチャージャーに依存しているのだろうが、パワーバンドおよびトルクバンドは比較的広かったし、ターボラグもほとんど感じ取れなかった。どうしてこんな特性を実現できたのかは分からない。エンジン音すらそれほどうるさくはなかった。後方視界は悪いのだが、それは標準のC-HRも同じだ。巨大なウイング自体は視界の邪魔にはならない。

ターン2を上手に抜けられるようになるまでには30分ほど練習する必要があった。その次の上り気味のターン3ではブレーキを早めに掛けてしまいがちだった。それどころか、私はほとんどのコーナーでブレーキのタイミングが早かった。当然、自分が怖かったというのもあるのだが、なにより素人の横に座らされているスタントン氏を安心させたかった。

私はスタントン氏の指示通りのラインで走った。レーサーが100人いれば100通りの理想のラインがあるのだろうが、素人がレーサーと同乗している状況なら、そのラインをトレースするのがベストだろう。幸い、スタントン氏は怖がる様子もなく、私の運転を褒めてくれた。

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ターン4およびターン5も上り坂で、ブレーキを掛けて下りのターン6に差し掛かっても、C-HR R-TUNEDは落ち着きを失うことはなかった。スポーツカーやスーパーカーのような走りとまでは言えないし、車体の大きさは感じられたのだが、それでもクロスオーバーSUVとしては非常に見事な走りだった。

そのままコースの東端に位置するターン8に差し掛かる頃には210km/hだか240km/hだかまで出ており(速度計を見ている余裕などなかった)、車の揺れは激しくなった。私ならもっとスプリングをソフトにしたのに、なんてことを考えたことは覚えている。それについてガードナー氏は、構造上干渉が起きてしまうのでこれ以上ソフトにすることはできないと説明してくれた。

それからストレートで全開加速を試し、もう1ラップ挑戦した。私が運転に慣れたと感じたのか、心なしか同乗するスタントン氏も落ち着いた様子になった。しばらくして私は満足し、ピットへと戻っていった。

しかし、これだけ異様な車が巨大企業の資金で誕生したのはどうしてなのだろうか。なんとも素晴らしいことじゃないか。かつてのF1エンジンを積んだルノー・エスパスもそうだ。今後もトヨタにはこのような車を作り続けてほしいものだ。そして、私のような人間にそんな車に乗る機会をまた与えてほしい。


We drive the Toyota C-HR R-Tuned, surely the world’s fastest subcompact CUV