Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2009年に書かれたランドローバー・レンジローバー TDV8 のレビューです。


Range Rover

よくよく考えてみると、新聞の旅行特集になどなんの意味もない。それに、旅行代理店やBBCの旅番組にも存在意義などない。なぜなら、休暇中に旅行がしたいなら、フランスに行けばいいからだ。

大西洋岸にはサーフィンのできる砂浜もあるし、南海岸ではこっそり胸を観察することもできる。山ではスキーやハイキングができるし、フランスには世界最高のチーズも、世界最高のマスタードも、世界最高のワインもある。

まだまだある。天候も世界最高だし、風景も世界最高だ。小柄なフランスの地元住民はぶかぶかの服を着て家の外に座っているのだが、インドやブラジルなどの貧しい地域の住人とは違い、観光客に金をせびることもないし、信号待ちで紙ナプキンやホットドッグを売りつけようとすることもない。

グランド・キャニオンを見にアリゾナに旅行することもできるのだが、そんなことをする意味はあるのだろうか。峡谷ならフランスにもある。文化を求めてロシアに旅行することもできるのだが、そんなことをする意味はあるのだろうか。モスクワにローマ法王はいない。サンクトペテルブルクにローマ水道はない。結局、ジェット燃料を無駄遣いするだけだ。

ジェームズ・メイいわく、フランスはイタリアに行くための通過点でしかないらしいのだが、こんな考え方は狂っている。フランスには休暇中に必要なものすべてが揃っているし、なによりフランスはイギリスのすぐ隣にある。

料理についても同じようなことが言える。テレビでは毎晩のようにカレイのレモンソースがけやらパイナップルのハラペーニョ添えやらの作り方を説明している。しかし、コードンもジェイミーもマルコもレイモンドもナイジェラもデリアもその他あらゆる料理研究家も忘れているようだが、我々が求めているのはシンプルなベーコンエッグだ。

朝食も昼食も夕食もベーコンエッグでいい。ケチャップにもワインにも合う。8歳の子供でも5分で作ることができる。調理に失敗することもない。

世の中にはさまざまな選択肢が存在するのだが、私は正しい選択肢をちゃんと知っている。テレビのブランドはソニー、音楽はローリング・ストーンズ、モデルはカーラ・ブルーニ、宗教は仏教、電話はiPhone、新聞はサンデー・タイムズだ。

スポーツの話もしよう。ラグビーはあまりに複雑だ。クリケットはあまりに退屈だ。ゴルフはフリーメイソンのためのスポーツだ。サッカーに勝るものはない。分かりやすいし、試合は滞りなく流れるし、どの地域にも自分が応援できるチームがある。それ以上のものをどうして求めよう。

悲しいことに、私の仕事である車に関しても、正しい選択肢を1つ決めることができてしまう。私は30年以上にわたって多種多様な車に試乗し、とんでもない距離を走り、膨大な文章を記してきた。しかし結局、誰にとっても正しい答えはレンジローバーだ。

レンジローバーは自動車界におけるフランスであり、ブラビアであり、サンデー・タイムズであり、ミック・ジャガーだ。レンジローバーこそが正解だ。

本木目が多用された最高のアールデコ調インテリアを求めてロールス・ロイス ファントムを購入しようとしている人がいたとしよう。レンジローバーなら、同等の質感のインテリアを4分の1の価格で実現している。

それに、レンジローバーならロールスを見下ろすこともできるし、周りに威圧感を与えることもできる。調査によると、衝突安全性はレンジローバーもルノー・ラグナも変わらないらしい。しかし、どちらかに乗って木に激突しろと言われたら、果たしてどちらを選ぶだろうか…。

interior

おもちゃも充実している。レンジローバーにはVentureCamという携帯用カメラが付いており、その映像をダッシュボードのスクリーンに映し出すことができる。このカメラを窓から外にぶら下げれば、すぐに路面状況を把握することができる。

それに、このカメラの充電ポートが助手席の足元にあるので、助手席に座っている人のスカートの中を覗くために使うこともできる。こんな装備が付いている車はレンジローバー以外に知らない。

馬術競技がしたいなら、レンジローバーに勝る車はない。レンジローバーなら泥道も走れるし、テールゲートが椅子代わりになるので、スロージンやケーキを楽しむこともできる。

イースターの時期に季節外れのスキーに出掛けるならどうだろうか。オートルートをレンジローバーよりも快適に走れる高級車はたくさんある。けれど、20インチホイール(見た目は良くなるのだが、乗り心地が悪化するし、走破性も低下する)さえ装備しなければ、レンジローバー以上に雪道や凍結路面を走りやすい車はない。

ナイツブリッジでレンジローバーを乗り回すのは野暮ったいと感じる人もいるかもしれないし、都市部の移動手段としては適さないと考える人も多いだろう。しかし、それは間違っている。他のオフロードカーは大きすぎて都市部では扱いづらいのだが、スロットルレスポンスの鈍いディーゼルを除いて、レンジローバーに乗っていて扱いづらいと感じることはない。それに、どんな車だろうと駐車料金は変わらないのだから、せっかくならたくさん面積を使ったほうがいいだろう。

レンジローバーはどんな目的にも適った車だ。狩りに行きたいなら緑のレンジローバーを買えばいい。スキーに行きたいならブルーを選べばいい。薬物の取り引きがしたいなら、ブラックのレンジローバースポーツを選べばいい。どんな条件であっても、車を選ぶならレンジローバーこそが正しい答えだ。

2月に雪が降ると、誰も学校に辿り着けなくなるので学校は休校になる。しかし、私の子供は学校に行くことができる。なぜなら、私はつい先日、2007年式、走行距離24,000kmのレンジローバー TDV8 ヴォーグ SEを購入したからだ。価格は3万ポンドちょっとだった。新車の半額未満だ。もっと古いモデルか、もしくはガソリンモデルならさらに安く買うことができる。もはやコストは徒歩とほとんど変わらない。

それに、環境にも優しい。トヨタ・プリウスを買っても、バッテリー用のニッケルはカナダから船(ヨットではない)で輸送され、ノルウェーかどこかで加工され、そして再び船で日本まで輸送されて普通のエンジンと電気モーターとともに車に搭載される。完成した車は再び船で輸送され、ようやく近所のディーラーに届く。言うなればイスラエル産のイチゴのようなものだ。

一方、レンジローバーはイギリス中部で製造され、そのまま近所のディーラーまで陸路で輸送される。言うなれば地元産の有機農産物のようなものだ。地産地消という概念は近年重視されるようになっている。

人類がこれほどまでに優秀で美しい製品を作り上げたことを私は誇りに思っている。怪しげな愛国心を否定する人もいるだろうが、この車を作り上げたのはユーモアを失ったイギリス人ことドイツ人だ。

私はよく、街で会った人から「世界最高の車は何ですか」と尋ねられる。心の中にはたくさんの選択肢があるので、簡単に答えることはできない。しかし、実のところ選択肢など存在しない。選ぶべき車など1つしか存在しない。


Range Rover TDV8 Vogue SE