Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
今回紹介するのは、アウディ A8 50 TDI quattro のレビューです。

この地球上において、リース以上に悲惨なものなど存在するだろうか。ジェームズ・メイは先日、ベニヤ板の展示会に行ったらしいのだが、リースの悲惨さはそれを超越する。ジェーン・オースティンも悲惨だ。BBCの地方ニュースも悲惨だ。けれど、リースの悲惨さは別格だ。
先日、リース車を使っているという男と話をした。彼はタイヤ交換の費用を自分で負担する必要がないことや、走行距離に制約がないことなどについて語り続け、私が数時間後に目を覚ましたときにもまだ、車を簡単に変えられることについて語り続けていた。
最近では、自動車メーカー自身すら自分たちの作っている車に興味を持っていないのではないかと思うことがある。単なる利益を生み出すための手段としてしか見ていないのではないだろうか。最近のGMは金融屋としか思えない。車などどうせノベルティ用のボールペン程度の扱いなのだろう。
私は車をリースしたことはない。理由は2つある。1つ目に、私はヨークシャー出身なので、自分で稼いだ金で買えるものなら、決して借りず、自分で買うようにと教えられて育てられてきた。
2つ目に、リースした車を運転していると、それが自分の車ではないという現実から目を背けることができない。もちろん、車をリースすればそれで節約した資本を元手に何かもっと合理的な投資ができるのだろうが、そんなことを語る人間を見ていると、こめかみにペーパーナイフを突き立ててやりたいという衝動が抑えきれなくなる。
ずっと欲しかった車をこつこつお金を貯めて購入すれば、納車される日が待ち遠しくてたまらなくなる。車内で最初に聴く曲は何にしようか。最初の頃はあまりエンジンの回転数を上げないようにしないと。インテリアを自分好みにアレンジしよう。そして車から降りても、つい振り返ってその姿を眺めたくなる。車をリースするのは犬をリースするようなものだ。
とはいえ、もし大型高級セダンが必要になったら私はどうするだろうか。ビジネスの成功者の象徴。メルセデス・ベンツ Sクラスやその同類たちだ。

そもそも、こういった車を維持できるような人なら、リースなどせずとも普通に新車を購入することができるはずだ。これほど巨大でこれほど燃費が悪く、これほど複雑な車を中古で買おうとするような人間などいない。保証期間外のトラブルのリスクはあまりにも大きい。リセールバリューはC-130 ハーキュリーズから落とされたおじいさんの時計と同じくらいの勢いで急落していく。年間5万ポンドは失うことになる。ヨークシャー出身の私が当事者なら身体的な痛みすら感じてしまいそうだ。自分のこめかみにペーパーナイフを突き立てたくなるだろう。
合理的な解決策は(車格を下げる以外では)リースくらいしかない。その痛みを車を作ったメーカー自身に負担させればいい。聞くところによると、非常に美味しい話があるらしい。BMW 7シリーズを年額3ペンスほどで借りられるだの、ジャガーがシリアルのおまけ付きでXJを配り歩いているだの。そんな話に興味があるなら、一番お得な車を探してみようじゃないか。
そういう基準で選べば、巨大で快適で、そして動物の皮革が大量に使われている車になるだろう。それに、ディーラーの対応もかなり良いはずだ。私はセールスマンが顧客の権威のもとにひれ伏す様を見るのが何よりも好きだ。
しかし、車を損得勘定だけで見た場合はどうだろうか。社会的地位から、必要性に駆られて移動手段としての高級車が必要だとしたら。
ここで連想されるのがアウディ・A8だ。リース好きのメイいわく、A8はフリーメイソン向け車両の新しいベンチマークだそうだ。かつての快適性の欠如したアウディは消え、クリームのように穏やかな車になったそうだ。
実際、A8の前席はかなり快適だ。しかし、この種の車でもっとも重要な後席に関しては、実のところそれほど乗り心地が良いわけではない。特に段差やスピードバンプを乗り越えるときには予想以上の衝撃が来る。
とはいえ、居心地はかなり良い。リアにはオプションの iPad mini 風ディスプレイが備え付けられており、これを使って室内照明の色など変更することができる。しかも、フロントのダッシュボードはほとんど全面がガラスだ。ボタンなどほとんどない。あちこちがタッチスクリーンとなっており、しかもまともに扱うことができる。

ただ、私はこれを好きにはなれない。結局、スクリーンはベタついた指紋だらけになるし、日差しの強い日には前が見えなくなってしまう。ドアポケットには指紋を拭くための布を常備しておかなければならない。それはあまりにも間抜けだ。車内に清掃用具を置いている人間など信頼してはいけない。その人間には何かしら問題がある。
走りは、何と言えばいいだろうか…。静粛性は高いし、穏やかだし、怖いほど速くもなければ不安になるほど遅くもない。試乗したモデルはCO2を145g/km排出し、286PSを発揮する。しかも、燃料はタンクの半分入っていた。満タンでなかったのはタンクがあまりにも巨大だからだ。満タンにするとだいたい100万ポンドかかる。その代わり、無給油で1,000km以上走ることができる。
これがA8のUSPのひとつだ。そしてもうひとつのUSPが4WDシステムだ。基本的に4WDシステムが必要になることなどない。火災保険が必要になることがほとんどないのと同じだ。しかし、もし必要になる時が来たとしたら…。
巨大な後輪駆動車は悪天候では使いものにならない。しかしアウディは違う。それに、A8は作りもしっかりしているし、新しい巨大な口のおかげで見た目は印象的だ。これまで、このクラスの高級車を買うなら、私はBMW 7シリーズを選ぶと言ってきたのだが、このA8なら7シリーズに勝てると思う。
とはいえ、結局は車の完成度などではなくリースの条件の良さで選ぶことになるだろう。この種の車が必要な人は確実にビジネス目的だろうし、ゆえに顧客はセールスマンの話す言葉が理解できるはずだ。セールスマンが「APR」と言っても顧客はむしろ興奮するかもしれない。
そもそも、この種の車を購入する人は車に興味などないはずだ。船好きがクルーズ客船を買わないのと同じことだ。運転するのが好きで、かつ大きな高級車が欲しいなら、BMW 530dを選ぶべきだ。仕事で疲れたあとに安らげる快適な居場所が欲しいなら、アウディが良いだろう。
The Clarkson Review: 2018 Audi A8
今回紹介するのは、アウディ A8 50 TDI quattro のレビューです。

この地球上において、リース以上に悲惨なものなど存在するだろうか。ジェームズ・メイは先日、ベニヤ板の展示会に行ったらしいのだが、リースの悲惨さはそれを超越する。ジェーン・オースティンも悲惨だ。BBCの地方ニュースも悲惨だ。けれど、リースの悲惨さは別格だ。
先日、リース車を使っているという男と話をした。彼はタイヤ交換の費用を自分で負担する必要がないことや、走行距離に制約がないことなどについて語り続け、私が数時間後に目を覚ましたときにもまだ、車を簡単に変えられることについて語り続けていた。
最近では、自動車メーカー自身すら自分たちの作っている車に興味を持っていないのではないかと思うことがある。単なる利益を生み出すための手段としてしか見ていないのではないだろうか。最近のGMは金融屋としか思えない。車などどうせノベルティ用のボールペン程度の扱いなのだろう。
私は車をリースしたことはない。理由は2つある。1つ目に、私はヨークシャー出身なので、自分で稼いだ金で買えるものなら、決して借りず、自分で買うようにと教えられて育てられてきた。
2つ目に、リースした車を運転していると、それが自分の車ではないという現実から目を背けることができない。もちろん、車をリースすればそれで節約した資本を元手に何かもっと合理的な投資ができるのだろうが、そんなことを語る人間を見ていると、こめかみにペーパーナイフを突き立ててやりたいという衝動が抑えきれなくなる。
ずっと欲しかった車をこつこつお金を貯めて購入すれば、納車される日が待ち遠しくてたまらなくなる。車内で最初に聴く曲は何にしようか。最初の頃はあまりエンジンの回転数を上げないようにしないと。インテリアを自分好みにアレンジしよう。そして車から降りても、つい振り返ってその姿を眺めたくなる。車をリースするのは犬をリースするようなものだ。
とはいえ、もし大型高級セダンが必要になったら私はどうするだろうか。ビジネスの成功者の象徴。メルセデス・ベンツ Sクラスやその同類たちだ。

そもそも、こういった車を維持できるような人なら、リースなどせずとも普通に新車を購入することができるはずだ。これほど巨大でこれほど燃費が悪く、これほど複雑な車を中古で買おうとするような人間などいない。保証期間外のトラブルのリスクはあまりにも大きい。リセールバリューはC-130 ハーキュリーズから落とされたおじいさんの時計と同じくらいの勢いで急落していく。年間5万ポンドは失うことになる。ヨークシャー出身の私が当事者なら身体的な痛みすら感じてしまいそうだ。自分のこめかみにペーパーナイフを突き立てたくなるだろう。
合理的な解決策は(車格を下げる以外では)リースくらいしかない。その痛みを車を作ったメーカー自身に負担させればいい。聞くところによると、非常に美味しい話があるらしい。BMW 7シリーズを年額3ペンスほどで借りられるだの、ジャガーがシリアルのおまけ付きでXJを配り歩いているだの。そんな話に興味があるなら、一番お得な車を探してみようじゃないか。
そういう基準で選べば、巨大で快適で、そして動物の皮革が大量に使われている車になるだろう。それに、ディーラーの対応もかなり良いはずだ。私はセールスマンが顧客の権威のもとにひれ伏す様を見るのが何よりも好きだ。
しかし、車を損得勘定だけで見た場合はどうだろうか。社会的地位から、必要性に駆られて移動手段としての高級車が必要だとしたら。
ここで連想されるのがアウディ・A8だ。リース好きのメイいわく、A8はフリーメイソン向け車両の新しいベンチマークだそうだ。かつての快適性の欠如したアウディは消え、クリームのように穏やかな車になったそうだ。
実際、A8の前席はかなり快適だ。しかし、この種の車でもっとも重要な後席に関しては、実のところそれほど乗り心地が良いわけではない。特に段差やスピードバンプを乗り越えるときには予想以上の衝撃が来る。
とはいえ、居心地はかなり良い。リアにはオプションの iPad mini 風ディスプレイが備え付けられており、これを使って室内照明の色など変更することができる。しかも、フロントのダッシュボードはほとんど全面がガラスだ。ボタンなどほとんどない。あちこちがタッチスクリーンとなっており、しかもまともに扱うことができる。

ただ、私はこれを好きにはなれない。結局、スクリーンはベタついた指紋だらけになるし、日差しの強い日には前が見えなくなってしまう。ドアポケットには指紋を拭くための布を常備しておかなければならない。それはあまりにも間抜けだ。車内に清掃用具を置いている人間など信頼してはいけない。その人間には何かしら問題がある。
走りは、何と言えばいいだろうか…。静粛性は高いし、穏やかだし、怖いほど速くもなければ不安になるほど遅くもない。試乗したモデルはCO2を145g/km排出し、286PSを発揮する。しかも、燃料はタンクの半分入っていた。満タンでなかったのはタンクがあまりにも巨大だからだ。満タンにするとだいたい100万ポンドかかる。その代わり、無給油で1,000km以上走ることができる。
これがA8のUSPのひとつだ。そしてもうひとつのUSPが4WDシステムだ。基本的に4WDシステムが必要になることなどない。火災保険が必要になることがほとんどないのと同じだ。しかし、もし必要になる時が来たとしたら…。
巨大な後輪駆動車は悪天候では使いものにならない。しかしアウディは違う。それに、A8は作りもしっかりしているし、新しい巨大な口のおかげで見た目は印象的だ。これまで、このクラスの高級車を買うなら、私はBMW 7シリーズを選ぶと言ってきたのだが、このA8なら7シリーズに勝てると思う。
とはいえ、結局は車の完成度などではなくリースの条件の良さで選ぶことになるだろう。この種の車が必要な人は確実にビジネス目的だろうし、ゆえに顧客はセールスマンの話す言葉が理解できるはずだ。セールスマンが「APR」と言っても顧客はむしろ興奮するかもしれない。
そもそも、この種の車を購入する人は車に興味などないはずだ。船好きがクルーズ客船を買わないのと同じことだ。運転するのが好きで、かつ大きな高級車が欲しいなら、BMW 530dを選ぶべきだ。仕事で疲れたあとに安らげる快適な居場所が欲しいなら、アウディが良いだろう。
The Clarkson Review: 2018 Audi A8
