Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2011年に書かれた BAC Mono のレビューです。


Mono

最近の速い車には「速すぎる」という問題がある。先日、似非F1カーの一種であるロータス・T125に乗ってこのことに気付いた。T125の加速はあまりに獰猛で、アクセルを踏み込めば頭部がもげてしまう。制動力も強烈で、ブレーキを踏めば内臓がバラバラになり、顔はヘルメットに押し潰されてしまう。

通勤途中にあるコーナーをイメージしてほしい。どんなコーナーでもいい。そこを通り抜けるときのスピードを思い出してほしい。そのスピードでロータスを曲がらせようとしても、ウイングに十分な空気が当たらず、ダウンフォースが不足してしまう。その結果、クラッシュして死んでしまう。

コーナーを曲がるためには異常なほど速度を出さなければならない。しかし、それはドライバーにとっては恐怖でしかない。スピードを緩めれば死んでしまうと理屈では分かっている。けれど同時に、スピードを出しても死んでしまうのではないかと考えてしまう。これはあまりにも恐ろしい。しかも、T125の場合、ドライバーの叫び声は誰にも聞こえない。なぜなら、そもそもドライバーの喉はすでに潰れてしまっているし、アクセルを踏んだ結果、首より上はもげてしまっている。

幸い、この車を公道で運転することはできない。しかし、V8エンジンを搭載するアリエル・アトムをイギリスの公道で運転することはできてしまう。これはもはや、サターンV型ロケットを動力源とする馬を公道で走らせるようなものだ。アクセルを踏んだ瞬間、木に激突してしまう。当然、頭はもげる。

こんな車はアトムだけではない。最近のフェラーリは携帯電話やiPodと接続できるようになっているし、パワーウインドウも装備されている。一見すると、非常に賢明で無害そうだ。ところが、それに騙されて乗り込んでしまうと大変なことになってしまう。

イギリス中探しても、今のフェラーリでアクセルを踏み込めるような道路は見つからないだろう。2速に入れた瞬間に制限速度などとうに超えてしまい、3速に入れる頃には頭部がトランクまで飛んでいってしまう。

Top Gearが速い車のレビューをするとき、どうして滑走路で収録しているのか疑問に思っている人も多いだろう。その理由は単純だ。そんな車を公道で走らせるのは狂気の沙汰でしかない。

私はBAC Monoという車に乗れることになり、非常に嬉しかった。なぜなら、Monoは上述した車たちとは違うからだ。BACは新進気鋭の自動車メーカーだ。私がこのメーカーについて知ったのは昨年のことなのだが、正直なことを言うと、このメーカーの存在を知って、私は思わず笑ってしまった。

rear

チェシャーに拠点を置くこの企業について、私はこう考えていた。
このメーカーから出てくる最初の車はきっとオニキス製になるだろう。純金の装飾が施され、扉の横には犬の置物が付くはずだ。

しかし、写真を見て分かる通り、そんな車にはならなかった。車に乗り込む際は、一度ステアリングを取り外し、1つしかないシートに自分の身体を固定する。座った状態で動かせるのは手足だけだ。まるで缶詰にでもなった気分だ。そしてヘルメットを装着し(ヘルメットを装着しないと顔に虫が激突してしまう)、エンジンを始動させる。非常にレーシーだ。少し恐怖も感じる。

この車はF-22ラプター風にデザインされており、さまざまなモータースポーツの要素で飾られている。F3式のトランスミッションはヒューランド製、ブレーキはAPレーシング製、プッシュロッドサスペンションはザックス製だ。巨大なペダルを見ると、足を近付けただけで死んでしまうのではないかと怖くなる。0-100km/h加速は公称2.8秒で、最高速度は1億km/hだ。

戦慄を覚えながらも、エンジンを始動させよう。後方から爆発音が響き、ステアリング内に意味不明な計器類が表示される。左手でニュートラルボタンを押し、右側のパドルを引いて1速に入れる。すると鈍い音が響く。もうそこは地獄の入口だ。

クラッチを繋げば車は動き出す。2速に入れる。再び鈍い音が響く。地獄の番人がどんどんと近付いてくる。しかし、アクセルを踏んでみるとどこか妙なことに気付く。非常に速く走ってはいるのだが、それほど怖さは感じない。

その理由はエンジンなのかもしれない。Monoに搭載される2.3Lエンジンはコスワース製なのだが、基本的にフォード・ギャラクシーに搭載される4気筒エンジンと共通だ。地球上にミニバンほど無害なものなど存在しない。

続いてコーナーが近付いてくる。ブレーキをかけると、まったく前に傾かないことに気付く。ステアリングを回転させてもロールも発生しない。水平を保ち続ける。次のコーナーではもう少しハードな運転を試してみたくなる。

Cockpit

Monoは自信を持って運転することができる。恐怖を感じるような予想外の事態はまったく起こらない。エンジンもトランスミッションも車の中央部の下のほうに搭載されているため、美しい操作性を実現している。限界に近付いていることを知らせるわずかなアンダーステアはあるのだが、そこからさらにパワーを送れば見事な四輪ドリフトができる。それに、スピードに恐怖を感じることもないので、死に怯えることなく、ひたすら運転に集中することができる。

Monoのような車のほとんど(ケータハム・セブン スーパーライトやアトムなど)は普通、死を意識しながら運転することになる。しかしMonoの場合、下手糞であろうと気楽に運転できてしまう。

それだけではない。この車はスピードバンプに対処することもできる。まともな灯火器やヘルメットの入る荷室もある。Monoはまともに公道を走ることのできる車だ。もっとも、実際に公道を走ると、周りからは少し間抜けに見えるだろう。

当然、Monoは決して安くない。ラジオも窓もナビも、それどころかカーペットすら付いていない1人乗りの車に79,950ポンドはあまりにも高い。しかし、装備内容のほとんど変わらないV8のアトムは146,699ポンドもする。

残念ながら、いくつか欠点もある。なにより、今回の試乗中にちょっとしたボヤ騒ぎがあった。それにトランスミッションも壊れたし、4,000rpm以下ではエンジンが使えなくなったりもした。これらはどれも大問題なのだが、今回の試乗車はあくまで開発中のプロトタイプ車だ。発売まではまだ少し時間があるので、ちょっとした改良くらいは行われるかもしれない。

市販モデルがまともに動くなら、Monoは素晴らしい車と言える。速すぎることのない速い車だ。

BACの開発主管であるニール・ブリッグスはこう話している。
ジェレミーさんがプロトタイプを運転しているときに、おそらく排気系に負担がかかりすぎてしまったのだと思います。市販モデルでは排気系を変更するつもりなので、今回発生したような問題はすべて解決できるはずです。


The Clarkson review: BAC Mono (2011)