Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2004年に書かれたBMW 120d のレビューです。


120d

私はこれまで、BMWの設計思想を認めていた。BMWは自動車業界におけるスナイパーだった。狙った獲物は決して逃さない、正確無比の射撃能力を有していた。

BMWがかつて生み出した基本レイアウトはそれ以来30年近く受け継がれてきた。フロントには四灯ヘッドランプ、ボンネットには直列6気筒エンジン、そしてリアには駆動輪というレイアウトだ。

実質、BMWにはボディが3種類、エンジンが5種類存在し、オプションも含めて顧客は自分たちの好きな組み合わせを選ぶことができた。

小さなボディに大排気量エンジンを載せ、装備を一切付けないこともできた。大きなボディに小さいエンジンを載せ、あらゆる装備を付けることもできた。しかしながら、どんな組み合わせを選ぼうとも、BMWには真っ当な運転感覚があった。なによりも走る楽しさを優先していることが実感できた。

しかし、スナイパーは唐突にスナイパーであることをやめ、車の基本レイアウトを変えてしまった。その結果、アメリカ製の4WD車や2シータ—オープンカー、それにディーゼルエンジンまで次々と登場した。そして、デザイン部門にはクリス・バングルという男が就任した。

バングルの就任以前、BMW車はすべて一定のルールに従っていた。傾斜したシャークノーズ、キドニーグリル、グレーのボディーカラー、そして折れ曲がったリアピラー。このリアピラーは生みの親の名を取ってホフマイスター・キンクと呼ばれている。これにより、車にアグレッシヴな印象が加わる。

ところが、今のBMWでは上述したようなルールが溢れるほどの曲面の中に埋もれて消えてしまっている。デザイナーたちはこの結果に満足しているのかもしれないが、現実世界ではモダンにもシャープにも見えない。間抜けにしか見えない。

それでも、BMWのバッジには価値がある。出来の悪い3シリーズを出したことで大衆車市場に足を踏み入れてしまってはいるのだが、基本的にBMWの車は他よりも何かが優れている。人は自分の人生が成功していることを証明するためにBMWを買う。

ところが、1シリーズの登場によって、BMWの最後の価値すらも失われてしまった。なぜなら、1シリーズはフォーカスやアストラやゴルフと同じ、5ドアファミリーハッチバックだからだ。

言うまでもなく、5ドアハッチバックは時流に沿った車だ。それに、これまでBMWを買うことができなかった層が、青と白のバッジの付いた車に乗ることができるようになった。その近所に住む人は驚くだろう。そして金持ちだと思われるようになる。この家の子なら娘を安心して嫁に出せると言う人も出てくるだろう。

rear

しかし、これが果たしていつまで続くのだろうか。いつの日か化けの皮が剥がれてしまうのではないだろうか。1970年代当時、休暇中にフロリダ旅行に行くと周りから羨望の眼差しを向けられた。しかし、今ではただの育ちの悪い馬鹿だとしか思われない。

1シリーズはいずれ、BMWというブランドを破滅へと追い込むことになるだろう。疑う余地はない。しかし、少なくとも現時点においてはまだBMWにブランド力がある。今ならまだ、BMWを買っても尊厳を保つことができる。では、1シリーズは購入するべき車なのだろうか。今回はそれを検証することにしよう。

広告でもしつこく言っているのだが、1シリーズは他のハッチパックとは違って後輪駆動車だ。素晴らしいことじゃないか。後輪駆動はBMWの重要なDNAだ。

前輪駆動車の場合、前輪が操舵と駆動力の伝達という二つの仕事をしなければならない。これにはやや無理があり、特に神経質な人は基本的に満足しない。後輪駆動車の場合、後輪が駆動力の伝達を担うため、前輪は操舵の仕事に専念することができる。コストはかなりかさむのだが、よりバランスがとれる。バランスは名車に必要不可欠な要素だ。

1シリーズに乗るとこの恩恵を即座に感じ取ることができる。普通に低速で走るだけでも、前輪駆動車の王様であるフォーカスよりよっぽど一体感がある。

それだけではない。ステアリングは太く、シフトレバーのストロークは短い。ABSは本当に必要なときにしか介入せず、もし介入したとしてもその介入を感じ取ることはできない。走りという側面だけを見た場合、この車は一般的なハッチバックの平均を大きく上回っている。

さて、ここから「しかし」と前置きを入れて評価が転げ落ちていく。この車にはあまりにもたくさんの欠点がある。この車を買ったら、別の車を選べばよかったと確実に後悔することになるだろう。

最初の問題はデザインだ。ハッチバックという車は基本的に人から注目されない。新型アストラのデザインは魅力的なのだが、毎日のように見かけるため、そのデザインの素晴らしさに気付く人はいない。しかし、1シリーズははっきりと醜い。四灯ヘッドランプ、キドニーグリル、ホフマイスター・キンクがすべて揃っているにもかかわらず、車全体を見るとまるでバンのように見える。

続いてエンジンの話に移ろう。ガソリンモデルの0-100km/h加速にはおよそ2時間かかるので、力強さを求めるなら(そして力強さこそがBMWを選ぶ最大の理由だろう)ディーゼルを選ぶほかない。このディーゼルエンジンはどんな基準で考えても悪いエンジンではないのだが、しかしどうだろうか。カナルボートのような音を立てて走る車を運転していて、果たして一瞬でも楽しめるだろうか。

この車は遅くて醜いだけではない。転落はまだまだ続く。プロペラシャフトをはじめとした後輪駆動車に不可欠な部品のせいで、リアにはスペースが存在しない。文字通り、まったく存在しない。

interior

BMW自身、子供のいない若者をターゲットとしていると公言しているのだが、これはおかしな話だ。子供がいないのにどうしてファミリーハッチバックを買う必要があるのだろうか。広い荷室が必要だからだろうか。しかし、言い忘れていたが1シリーズは荷室すらも極小だ。

しかも、ランフラットタイヤを履いているため乗り心地は耐えがたいし、内装の質感は一部とてつもなく安っぽい。

しかし、1シリーズ最大の欠点は価格だ。過去のBMWが高かったのは、他よりも明らかに優れていたから、明らかに楽しい車だったからだ。しかし、1シリーズには上述した通りそんな価値など存在しない。

にもかかわらず、最上級グレードのディーゼルは20,700ポンドもするし、オプションをてんこ盛りにすると価格は32,000ポンドまで跳ね上がってしまう。我慢して最低限の装備しか付けなかったとしても最低23,000ポンドは必要だ。これだけのお金があれば普通のハッチバックが2台買えてしまう。

1シリーズを乗り回しても、きっと成功者だと思われることはないだろう。こんな車を大枚を叩いて買っても、気が狂ったと思われるのが関の山だ。これよりもあらゆる点でよっぽど優秀なゴルフGTIがこれよりも安く買えてしまう。

というわけで、ハッチバックが欲しいならフォーカスを買うべきだ。楽しさを兼ね備えたハッチバックがほしいならゴルフGTIを買えばいい。リアシートが不要で、乗り心地が悪いことも値段が高いことも厭わないのであれば、スポーツカーを買えばいい。ホンダ・S2000なんかがおすすめだ。

最近、私はBMWを目の敵にしているのではないかと批判されている。X3を酷評した際には、もう私に試乗車を貸さないほうがいいかもしれないという話もあったそうだ。なので、今回は真面目に、雑談を挟まず、終始一貫してBMWに言いたいことを書き綴った。

というわけで、今回はいつも以上に言葉を選んで最後の一文を書くことにしよう。1シリーズはクソだ。


BMW 1 Series