Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
今回紹介するのは、ヒュンダイ・i30 N のレビューです。

醜く悲惨で存在意義の分からないミニ カントリーマンという車を運転しているとき、ダッシュボードに重要なメッセージが表示された。ポケットを探ってメガネを取り出し、そのメッセージを読むと、少し驚いてしまった。
その正確な文面は思い出せないのだが、要約すると、そこには「ステアリングシステムに重大な欠陥が発見されたため、『慎重に』運転するように」と書かれていた。
私にはその意味が理解できなかった。ルイス・ハミルトンの考える「慎重」と、ジェームズ・メイの考える「慎重」の意味は明らかに違うはずだ。そもそも、ステアリングに欠陥があるなら、メッセージはこう変えるべきだろう。
「ただちに安全な場所に移動し、車を停車させてください。」
ステアリングが操作できなくなるのは、ブレーキが操作できなくなるよりも危険だ。私はかつて、ミャンマーでブレーキの効かないトラックを運転したことがあるのだが、大きな問題は起こらなかった。しかし、ルノー・A610に乗っていてステアリングが効かなくなったときはすぐにクラッシュしてしまった。
原因はホッキョクグマを守るためにミニ カントリーマンに電動パワーステアリングが装備されていることにある。電動の機械は確実にいずれ壊れ、修理するためには再起動させなければならない。Wi-Fiルーターならそれでも大きな問題はないのだが、運転中に電動パワーステアリングが壊れたらどうなるだろうか。
コンピューターの父であるチャールズ・バベッジはかつて、機械は確実性を有すると語った。しかし、0と1が並ぶ基盤の中だけですべてが問題なく進むなどと信じられるはずがない。
そんなのは不可能だ。カントリーマンがそれを証明しているし、今後公開予定の The Grand Tour の内容を見てもそれは明らかだ。我々はカナダでSUVに試乗するのだが、そこでたくさんの問題が発生する。4WDシステムを作動させようとしてもまるで駄目だった。電子制御システムのせいだ。

この話が今回の主題であるヒュンダイ・i30 N に繋がる。この車にはスピードメーターが2つ装備されている。その理由は分からない。ひとつはアナログで、もうひとつはデジタルだ。しかし、この2つが一致することはなかった。両者には常に5km/hの差があった。もしこの2つのメーターが車輪と直接繋がっていたなら、こんなことは起こらなかっただろう。
このホットハッチには他にも問題があった。「i30 N」という名前だ。「N」よりもましなアルファベットは他にもっとあったはずだ。「G」、「T」、「V」、「I」、「S」などが良いだろう。「B」、「D」、「U」、「J」は駄目だ。中でも最悪なのが「N」だ。ヒュンダイはニュルブルクリンクで開発されたことを理由に「N」という名前を付けたのだろうが、そんなことは知ったことではない。
これまでホットハッチというものを開発したことのなかったヒュンダイというメーカーは「ゴルフGTIのパクりかた」という本を購入し、そのレシピを忠実に再現した。普通の5ドアハッチバックをベースに車高を下げ、2Lターボエンジンを搭載し、ボディに赤いアクセントを入れれば、ホットハッチの完成だ。しかし、そんな車は誰も欲しがらない。なぜなら、フォルクスワーゲン・ゴルフや、あるいはルノーかフォードのほうがよっぽど魅力的だからだ。
さらに困ったことに、ヒュンダイは自分たちが何を作っているのかちゃんと理解しているサプライヤーではなく、誰も聞いたことがないような韓国の会社に車の重要な部品(ブレーキ、サスペンションなど)の製造を任せている。それはもはや、韓国製のショットガンや韓国製の腕時計のようなものだ。
唯一の魅力は圧倒的に低い価格くらいだ。そう考えると誰も興味を持ちそうにはない。ところが、よく見てみると、ゴルフGTIにはオプション設定のものが全て付いていることに気付く。それに、この車の開発はつい最近までBMW Mを開発していた一人の男により(15ヶ月かけて)行われている。彼は自分が何をしているのかちゃんと理解している人間だ。そのため、この車は、一見して問題だらけなのだが、その中身は相当に素晴らしいものに仕上がっている。
普通の日に普通の道路を走らせると素晴らしく穏やかだ。静かで快適で、装備が豊富なので退屈することもない。私のお気に入りは排気音を増幅させることのできるボタンだ。これを押せば注目を集めることができる。周りの人間はこう思うはずだ。
「どうしてあの輸送機器はあんな音を鳴らしているのだろうか。それにどうして変速のたびに轟音がするのだろうか。」
まるでシークレットサービスのエージェントのようだ。しっかりとスーツを着て、髪型も落ち着いているので、見た目はウォール街のビジネスマンのようだ。ところが、よく見ると耳にはイヤホンをしており、耳を澄ませば物騒なことを話している。

このヒュンダイはなんと、電子制御(ほぼ確実にいずれ壊れるだろう)により、1,944種類ものセッティングから好きなものを選ぶことができる。スポーツモードやスポーツ+モードをはじめ、ありとあらゆるカスタマイズが可能で、個々人の好みに合ったセッティングにすることができる。しかも、どんなセッティングにしても、この車はまともに走ってくれる。
重箱の隅をつつくと、フィールはルノーのほうがわずかに豊富だし、上り勾配の1速コーナーではゴルフGTIのフロントディファレンシャルのほうが有能なのだが、全体的に見るとi30 N は傑作だ。狂人モードにしても決して跳ねがちになったり不快になったりはしない。
特に気に入ったのがレブマッチ機能だ。これを最初に体験したのは日産・370Z(日本名: フェアレディZ)で、どうして他のメーカーがこれを真似しないのか不思議でならなかった。この機能を使うとシフトダウン時にエンジンの回転数が上がって滑らかに変速できるようになる。つまり、ダブルクラッチを車が代わりにしてくれる。しかも、この機能は電子制御によるものではないので、Apple CarPlayやナビゲーションシステムが壊れてからも機能しつづけるだろう。
クラッチのミート位置が高すぎるのでエンストさせてしまうと文句を言う人もいるのだが、こんなものは約5秒で調整できる。しかも、その調整は機械的なものだ。そうすれば問題などなくなる。
5ドアハッチバックが欲しいのに、Nを検討しない理由は2つしかない。1つ目。周りの人に「ヒュンダイを買った」などと言うのは、「膀胱が使い物にならなくなった」と言うようなものだ。
2つ目。金正恩の存在だ。彼の怪しいロケットのせいで、いずれ車の保証に問題が起こるかもしれない。ドナルド・トランプが適切な対応をすると信じているなら、i30 Nを購入するべきだろう。何の実績もないメーカーから出てきた車なのだが、十分検討に値する実力を持っている。
The Clarkson Review: 2017 Hyundai i30 N Performance
今回紹介するのは、ヒュンダイ・i30 N のレビューです。

醜く悲惨で存在意義の分からないミニ カントリーマンという車を運転しているとき、ダッシュボードに重要なメッセージが表示された。ポケットを探ってメガネを取り出し、そのメッセージを読むと、少し驚いてしまった。
その正確な文面は思い出せないのだが、要約すると、そこには「ステアリングシステムに重大な欠陥が発見されたため、『慎重に』運転するように」と書かれていた。
私にはその意味が理解できなかった。ルイス・ハミルトンの考える「慎重」と、ジェームズ・メイの考える「慎重」の意味は明らかに違うはずだ。そもそも、ステアリングに欠陥があるなら、メッセージはこう変えるべきだろう。
「ただちに安全な場所に移動し、車を停車させてください。」
ステアリングが操作できなくなるのは、ブレーキが操作できなくなるよりも危険だ。私はかつて、ミャンマーでブレーキの効かないトラックを運転したことがあるのだが、大きな問題は起こらなかった。しかし、ルノー・A610に乗っていてステアリングが効かなくなったときはすぐにクラッシュしてしまった。
原因はホッキョクグマを守るためにミニ カントリーマンに電動パワーステアリングが装備されていることにある。電動の機械は確実にいずれ壊れ、修理するためには再起動させなければならない。Wi-Fiルーターならそれでも大きな問題はないのだが、運転中に電動パワーステアリングが壊れたらどうなるだろうか。
コンピューターの父であるチャールズ・バベッジはかつて、機械は確実性を有すると語った。しかし、0と1が並ぶ基盤の中だけですべてが問題なく進むなどと信じられるはずがない。
そんなのは不可能だ。カントリーマンがそれを証明しているし、今後公開予定の The Grand Tour の内容を見てもそれは明らかだ。我々はカナダでSUVに試乗するのだが、そこでたくさんの問題が発生する。4WDシステムを作動させようとしてもまるで駄目だった。電子制御システムのせいだ。

この話が今回の主題であるヒュンダイ・i30 N に繋がる。この車にはスピードメーターが2つ装備されている。その理由は分からない。ひとつはアナログで、もうひとつはデジタルだ。しかし、この2つが一致することはなかった。両者には常に5km/hの差があった。もしこの2つのメーターが車輪と直接繋がっていたなら、こんなことは起こらなかっただろう。
このホットハッチには他にも問題があった。「i30 N」という名前だ。「N」よりもましなアルファベットは他にもっとあったはずだ。「G」、「T」、「V」、「I」、「S」などが良いだろう。「B」、「D」、「U」、「J」は駄目だ。中でも最悪なのが「N」だ。ヒュンダイはニュルブルクリンクで開発されたことを理由に「N」という名前を付けたのだろうが、そんなことは知ったことではない。
これまでホットハッチというものを開発したことのなかったヒュンダイというメーカーは「ゴルフGTIのパクりかた」という本を購入し、そのレシピを忠実に再現した。普通の5ドアハッチバックをベースに車高を下げ、2Lターボエンジンを搭載し、ボディに赤いアクセントを入れれば、ホットハッチの完成だ。しかし、そんな車は誰も欲しがらない。なぜなら、フォルクスワーゲン・ゴルフや、あるいはルノーかフォードのほうがよっぽど魅力的だからだ。
さらに困ったことに、ヒュンダイは自分たちが何を作っているのかちゃんと理解しているサプライヤーではなく、誰も聞いたことがないような韓国の会社に車の重要な部品(ブレーキ、サスペンションなど)の製造を任せている。それはもはや、韓国製のショットガンや韓国製の腕時計のようなものだ。
唯一の魅力は圧倒的に低い価格くらいだ。そう考えると誰も興味を持ちそうにはない。ところが、よく見てみると、ゴルフGTIにはオプション設定のものが全て付いていることに気付く。それに、この車の開発はつい最近までBMW Mを開発していた一人の男により(15ヶ月かけて)行われている。彼は自分が何をしているのかちゃんと理解している人間だ。そのため、この車は、一見して問題だらけなのだが、その中身は相当に素晴らしいものに仕上がっている。
普通の日に普通の道路を走らせると素晴らしく穏やかだ。静かで快適で、装備が豊富なので退屈することもない。私のお気に入りは排気音を増幅させることのできるボタンだ。これを押せば注目を集めることができる。周りの人間はこう思うはずだ。
「どうしてあの輸送機器はあんな音を鳴らしているのだろうか。それにどうして変速のたびに轟音がするのだろうか。」
まるでシークレットサービスのエージェントのようだ。しっかりとスーツを着て、髪型も落ち着いているので、見た目はウォール街のビジネスマンのようだ。ところが、よく見ると耳にはイヤホンをしており、耳を澄ませば物騒なことを話している。

このヒュンダイはなんと、電子制御(ほぼ確実にいずれ壊れるだろう)により、1,944種類ものセッティングから好きなものを選ぶことができる。スポーツモードやスポーツ+モードをはじめ、ありとあらゆるカスタマイズが可能で、個々人の好みに合ったセッティングにすることができる。しかも、どんなセッティングにしても、この車はまともに走ってくれる。
重箱の隅をつつくと、フィールはルノーのほうがわずかに豊富だし、上り勾配の1速コーナーではゴルフGTIのフロントディファレンシャルのほうが有能なのだが、全体的に見るとi30 N は傑作だ。狂人モードにしても決して跳ねがちになったり不快になったりはしない。
特に気に入ったのがレブマッチ機能だ。これを最初に体験したのは日産・370Z(日本名: フェアレディZ)で、どうして他のメーカーがこれを真似しないのか不思議でならなかった。この機能を使うとシフトダウン時にエンジンの回転数が上がって滑らかに変速できるようになる。つまり、ダブルクラッチを車が代わりにしてくれる。しかも、この機能は電子制御によるものではないので、Apple CarPlayやナビゲーションシステムが壊れてからも機能しつづけるだろう。
クラッチのミート位置が高すぎるのでエンストさせてしまうと文句を言う人もいるのだが、こんなものは約5秒で調整できる。しかも、その調整は機械的なものだ。そうすれば問題などなくなる。
5ドアハッチバックが欲しいのに、Nを検討しない理由は2つしかない。1つ目。周りの人に「ヒュンダイを買った」などと言うのは、「膀胱が使い物にならなくなった」と言うようなものだ。
2つ目。金正恩の存在だ。彼の怪しいロケットのせいで、いずれ車の保証に問題が起こるかもしれない。ドナルド・トランプが適切な対応をすると信じているなら、i30 Nを購入するべきだろう。何の実績もないメーカーから出てきた車なのだが、十分検討に値する実力を持っている。
The Clarkson Review: 2017 Hyundai i30 N Performance