今回は、英国「AUTOCAR」によるレクサス・LC500の試乗レポートを日本語で紹介します。


LC

コンセプトカーを見るたび、やきもきさせられる。コンセプトカーは驚くようなデザインを身に纏い、その企業の底力を見せつける。しかし、安全性を確保するため、そして現実的なコストで製造するために、モーターショーの台座からディーラーの駐車場まで移るまでの間に、その美しさは削がれてしまうのが常だった。

そんな状況を覆したのがLCという車だ。市販モデルになってもLF-LCコンセプトとほとんど見分けがつかない。LF-LCコンセプトは2012年のデトロイトモーターショーで発表され、見る人に衝撃をもたらし、大きな反響を呼んだ結果、市販モデルの製造が決定した。

かつてレクサスにはSC430という恐ろしくつまらないモデルがあったのだが、そういった退屈なイメージを覆すためにLCという車は誕生した。

刃にような鋭さと柔和さを、落ち着きと自信を併せ持ち、フロントエンジン・リアドライブレイアウトを採用するLCという車は、新たなレクサスを指し示す車だ。

LC500にはLFA同様、大排気量の自然吸気エンジンが搭載される。LCに搭載されるエンジンはLFAのエンジンより2気筒少ないものの、排気量は増加している。この5.0L V8エンジンはLFAのように9,000rpmまで回るわけではないのだが、わずか76,595ポンドで力強い雄叫びを楽しむことができる。

デザインや車の質感を考えればこれは非常に安い。しかし、競合車は多く、ポルシェ・911からマセラティ・グラントゥーリズモまで相手にしなければならない。

LCは非常に野心的な車だ。デザインだけならライバルを圧倒できるのだろうが、レクサスにとっての試練は、長年このクラスで戦ってきた競合車と肩を並べられる走行性能を実現することだ。トヨタの高級車部門にはわずか28年の歴史しかない。

それが実現できるかどうかはこの車にとって非常に重要だ。こういった類の車を購入する人は見た目ばかりでなく走りも重視する。

LCの美しいデザインの原型となっているのはLFAだ。そして、この2台の架け橋となったのが2012年に発表されたLF-LCコンセプトだ。

LC500は477PSの5.0L V8エンジンを搭載するFR車なのだが、見た目はグランドツアラーとスポーツカーの中間的で、キャビンは前後輪のちょうど真ん中あたりにあるので、ルーフからリアデッキまでは非常に緩やかなラインを描いている。リアデッキはフラットで、後端には格納可能なリアスポイラーが設置されている。見た目は非常に美しい。

LCにはGA-L(Global Architecture-Luxury)プラットフォームが採用されており、車体にはスチール、アルミニウム、カーボンファイバーが使われている。

サスペンションにはスチール製のコイルスプリングとアダプティブダンパーが採用されている。ボンネット位置を低くするため、マルチリンク式フロントサスペンションの設計調整には6ヶ月を要したそうだ。また、フロントオーバーハングを短くするためにヘッドランプも特殊な設計になっている。

過給器が無いので特別トルクが優れているわけではない(最大トルク55.1kgf·mは4,800rpmまで回さないと発揮されない)のだが、それを補うためにギア比の近い10速トルコンATを採用している。

駆動力は標準モデルの場合、オープンディファレンシャルを介して後輪に伝わるのだが、9,300ポンドのSport+パッケージを装備するとLSDが装備される。Sport+パッケージにはDRS(四輪操舵)や21インチホイール、カーボンファイバールーフパネル(これにより重心は低くなるのだが、2トン近い車重はほとんど変わらない)も含まれる。

今回試乗したモデル以外に、3.5L V6エンジンを搭載するハイブリッドモデルのLC500hもラインアップされる。ハイブリッドモデルには電気式CVTと4速ATが組み合わせられている。車重はV8モデルよりも重いのだが、システム出力はわずか354PS/6,600rpmだ。なので、自分で買うならLC500を選ぶだろう。

グランドツアラーには出来の良いインテリアが必要だ。幸いにもLC500のインテリアは完成度が高い。着座位置は低いし、ダッシュボードの囲まれ感も強く、ハイパフォーマンスカーに乗っているという感覚がちゃんとある。

ステアリングのテレスコピック調節幅はもう少しあったほうがいいと思うし、パドルも少し安っぽく感じられるのだが、気になるのはそれくらいで、全体的には非常に魅力的なインテリアだ。

SportパッケージおよびSport+パッケージにはよりサポート性の高いスポーツシートが装備される。この車のグリップ性能を考えれば、このスポーツシートくらいがちょうど良いだろう。

少し見回しただけでも、このインテリアが非常にこだわられていることが分かる。ステッチも細やかだし、グローブボックスは電動で開くようになっている。

アルカンターラで覆われるドアパネルは左右非対称で、ドアパネルから突き出るドアハンドルも独特だ。LCは非常に個性的で、ポルシェ・911やBMW 6シリーズと比べると新鮮で楽しげに見える。

rear seat

911同様、LCにもリアシートが存在する。後部座席に大人がまともに座れないという点も911と同じであり、特に身長180cmを超える大人が乗り込むのは難しい。前席のスペースは十分にあり、幅の広いセンターコンソールにはギアセレクターとリモートタッチ用の使いづらいタッチパッドが配置されている。

インフォテインメントシステム用のディスプレイは10.3インチのワイドスクリーンで、物理ボタンとタッチパッドにより操作を行う。この操作系はLC最大の欠点だ。機能的には十分なのだが(スマートフォン連携機能、DABラジオ、ナビ機能、オートエアコンなどはちゃんと備わる)、それを操作する方法が苛立たしいほどに非直感的だ。

一番の問題がタッチパットだ。カーソルの動きは落ち着きがない。ただ、メニューの層が分かりにくいのも問題だ。ルートガイドを中止させる方法はかなり分かりづらく、試乗中に泣きそうになってしまった。

ただ、メーター内の8.0インチTFTディスプレイは見やすく、設定を変えることで様々な情報を表示させることができる。

走行モード(エコからスポーツ+まで5種類ある)はどういうわけかメーターの横に配置されているダイヤルを操作することで変更することができる。この配置はエルゴノミクス的に正解とは言いがたいのだが、メーターの位置は目線のちょうど先にあるし、中央にタコメーターを大きく表示させることもできるので、この点は嬉しい。

LC500を運転すると非常に複雑な感覚を体験する。その感覚を整理するのはちょうどルービックキューブで遊ぶようなものだ。最初は当惑してしまうのだが、慣れれば不思議なほど満たされるようになる。

複雑性を紐解く第1段階として、LC500の最大の魅力とも言える自然吸気V8エンジンについてまずは言及することにしよう。

走行モードをデフォルトのノーマルモードにしたままでも、特別急いでいない場合や運転にのめり込んでいない場合ならば特に不足を感じることはない。

アクセルを少し踏む程度の運転なら10速ATの変速は非常に滑らかなのだが、アクセルを踏み込んだ時には思い通りにシフトダウンしてくれないこともある。ATが多段すぎるがゆえに楽しさが削がれるようなこともある。

そんなときはノーマルモードからスポーツモードやスポーツ+モードに変えるといい。あるいは、エンジンやトランスミッション、サスペンションのセッティングを個々に変更できるカスタムモードも用意されている。

スポーツモードでもスポーツ+モードでも、ノーマルモードよりもパワートレインの性格が分かりやすくなる。ノーマルモードとは違い、シフトダウンに躊躇することがなくなるため、イギリスの速度域に適した変速をしてくれる。

スポーツモードではしっかりシフトダウンしてくれるのでワインディングや勾配、追い越しも思い通りにできるようになる。このモードだと応答性も非常に良好なので、重さや中域トルクの不足もあまり感じなくなる。

最新のグランドツアラーほど楽に運転できるわけではないので、長距離移動に最適な車とは言いがたい。その代わり、グランドツアラーとスポーツカーの中間に位置する車なだけあって、エンジンにはちゃんと魂がある。

それに、LC500は一般的なグランドツアラーより速い。ただし、今回のテストで計測した0-100km/h加速はレクサスが出している0-100km/h加速の公称値よりも0.5秒遅く、5.0秒を超えてしまった。

LC500の乗り心地やハンドリングには褒めるべき点と批判すべき点がある。レクサスで販売されるクーペは2車種あり、LCはそのうちの上級車で、車名のLが"Luxury"の頭文字から来ていることを考えると、乗り心地は良くあるべきだろう。しかし実際は、快適性が見た目の代償として幾分か犠牲になっているようだ。

特殊なデザインゆえに荷室は狭く、スペアタイヤを搭載する余裕が無いため、開発の初期段階からランフラットタイヤを採用することは決定していた。しかし、サイドウォールの硬いLCのランフラットタイヤのせいで、路面の衝撃は伝わりやすくなり、ロードノイズも室内に侵入してくる。

レクサスの開発陣はこの問題に気付いていたのだろうが、きっとデザインのほうが重要だと考えてあえて無視したのだろう。その結果、優秀なグランドツアラーなら滑空するように走れる路面でもLC500はときに落ち着きを失ってしまう。

この問題はLC500のサスペンションチューニングとも関係している。このサスペンションは車格を考えれば明らかに硬めだ。アダプティブダンパーのセッティングをコンフォートモードにすれば少しはましになるのだが、それでも問題は完全には解決しない。

ここからは良い点について言及しよう。LC500はバランスが良く繊細で俊敏なハンドリングを実現している。2トンのトヨタ車であることを忘れ、ミッドシップのポルシェを連想するほどだ。

四輪操舵システムや可変ギアレシオステアリングもそのハンドリングに良い影響を与えており、操作感覚は非常に直感的で、四輪の動きをステアリングを介して感じ取ることができる。

interior

スタビリティコントロールの設定は制約なく変更でき、サーキットでスタビリティコントロールを完全オフにして楽しむことも可能だ。

ハンドリングは非常に優れているのだが、そのせいでグランドツアラーとしてはあまりにやんちゃで楽しい乗り味になってしまっている。

車重やトルクを考えれば、サーキットで記録したラップタイムは驚異的だった。これもハンドリング性能や走行安定性の高さを証明している。

コーナリング性能は非常に高い。コーナリング中はわずかにロールが発生するのだが、それでも非常に落ち着いており、スポーツカーと同じくらいに運転しやすい。

スタビリティコントロールシステムはあまり侵襲的ではなく、スポーツ+モードではアクセルワークによって車の動きを細やかに調整することができる。

メルセデスAMG C63Sのように自由自在にテールスライドさせることができるほどのトルクはないのだが、ハンドリングに関してはかなり優秀で非常に扱いやすい。

LC500の価格は76,595ポンドからで、十分に競争力を持っている。911と比べると1,296ポンド安く(出力や静粛性は911が劣っているのだが、ハンドリングや乗り心地は911が明らかに勝っている)、ジャガー・F-TYPE 400スポーツと比べると5,000ポンド高い。

911もF-TYPEもスペックではLC500に及ばないものの、いずれも魅力的なエンジンを搭載している。

F-TYPEの場合、直接的な競合車となるのはV8エンジンを搭載する90,860ポンドのF-TYPE Rだろう。これと比べればLC500は安いし、モデル末期のBMW M6(95,580ポンド)と比較してもやはり安い。

メルセデス・ベンツ S500クーペはさらに高価なのだが、長距離移動における快適性はS500のほうが明らかに優れている。

長距離移動をした際の燃費は14km/L近い値を記録している。5.0Lという大排気量エンジンを搭載していることを考えれば驚異的だ。おそらくこれは10速ATの影響が大きいだろう。高速道路を巡航しているときのエンジン回転数は1,155rpmだった。

8気筒エンジンを酷使すればそれなりの燃費にはなってしまうのだが、普通に走っている限りでは法外なガソリン代がかかるわけではない。

LCはコンセプトカーのデザインをそのまま市販車に実現しようという熱意ばかりが先行してしまったのか、惜しいと思う部分は多々ある。

内装も外装も非常に魅力的だし、それだけで購入を検討したくなる気持ちも分かる。しかし、LC500は実用性や快適性が高級クーペの水準には達していないし、インフォテインメントシステムも使いづらい。

それでも、運転が好きなら、この車を選ぶという選択肢も十分にありだろう。LC500に搭載されるV8エンジンは非常に魅力的だし、ハンドリングも非常に優れており、そういう意味ではメルセデス・ベンツ Sクラスクーペのライバルではなく、ジャガー・F-TYPEやポルシェ・911のライバルに相応しい車にも思える。

しかし、時には大きさや重さを感じることもある。この車の両価性からはきっと逃れることはできない。究極的には、どれだけ長所に惹かれているか、どれだけ短所を我慢できるかが鍵となるだろう。言うなればこの車はダイヤモンドの原石だ。


Lexus LC review