今回は、英国「AUTOCAR」によるホンダ・S660とダイハツ・コペンの試乗レポートを日本語で紹介します。


Copen and S660

数年前にアメリカ式の暴風雨命名法がイギリスに上陸し、気象庁の人間は命名に際してちょっとした茶目っ気を発揮した。そうして命名されたのがストーム・ブライアンだ。ブライアンはイギリス式の名前ではあるのだが、海外で選ばれる名前とは違い、威厳には欠けている。実際、コーンウォールを襲ったブライアンの影響は大したものではなかった。

Top marks for not trying, Brian.
ブライアン、君はそのままでも凄いんだよ
(※アークティック・モンキーズ『Brianstorm』の歌詞の一節)

ブライアンが世界の反対側に上陸している裏で、台風21号『ラン』が南日本に上陸した。風速60m/sの暴風雨が我々を襲い、撮影班は防水カメラと合羽を用意してくればよかったと後悔していた。

この記事に掲載されている写真のいずれも、どれだけよく見ても富士山は写っていない。我々は日本の素晴らしき発明品、軽スポーツカーを際立たせるために背景として富士山を収めようと計画していた。

現在製造されている軽スポーツカーはホンダ・S660とダイハツ・コペンの2車種しかない。今回はその2台両方に試乗した。一般的な軽自動車同様、ボディサイズが規格(全長3,400mm以下、全幅1,480mm以下)内に収まるように設計されている。排気量は660ccを超えてはならず、最高出力も64PSを超えてはならない。ほとんどの軽自動車はその上限ギリギリのサイズになっている。それよりも小さければランに吹き飛ばされてしまうだろうし、なんならブライアンの影響も受けるかもしれない。

実のところ、軽自動車の特殊性は小ささくらいしかない。混雑した東京の交差点で試乗車がジャガー・F-TYPEと並んだ。巨大なジャガーのドライバーはきっと「なんて可愛らしい車なんだ」と思っただろう。S660と比べるとF-TYPEが4倍くらいの大きさに見えた。実際、この2台はどちらも非常に愛らしく、どんな運転をしても許されそうに思えた。

今回の試乗ルートは、首都東京を出発して、富士山を道路が続く限り登っていくというものだった。ひょっとしたら、EUを脱退したイギリスに軽自動車が入ってくるようになるかもしれない。日本もイギリス同様、数少ない左側通行の国だ。今回はそれを踏まえて、この2台の実力を検証することにした。

S660はシビックタイプRとNSXに続くホンダ久々のスポーツモデルだ。2シーターのMR車なのでシビックタイプRよりNSXに近く、軽自動車規格上限の64PS 660ccのエンジンを搭載している。ターボチャージャーのおかげで最大トルクは10.6kgf·mを記録し、6速MTが組み合わせられる。

気持ち良いくらいに古典的なスポーツカーであり、ルーフはソフトトップで手動で取り外しを行い、フロントにあるこの車唯一の荷室に格納する。荷室は最大積載量10kgでかなり狭い。それ以外に車内に置ける荷物といえば、カップホルダーに置けるペットボトルくらいだ。

それと比べるとダイハツのほうが実用的で、ルーフはハードトップとなっており、ルーフを格納してもバッグを1個か2個は入れることができる。ルーフの機構はS660より重いはずなのだが、車重は850kgとS660と同一だ。2台ともフロントサスペンションはマクファーソンストラット式、リアサスペンションはトーションビーム式を採用している。

Copen interior

このコペンは2代目モデルであり、ほとんど知られていないだろうが、1.3Lエンジンを搭載した初代コペンはイギリスを含めいくつかの国に輸出されていた。2代目モデルには64PSの660ccエンジンのみが搭載され、販売は日本国内のみで行われる。

コペンにはさまざまなバリエーションがあり、試乗車はXPLAYというモデルだった。これは911サファリラリーカー以来の、スポーツカーにクロスオーバーSUVの要素を加えたモデルだ。見た目は異様としか言いようがないのだが、見る角度によっては魅力的に感じることもあり、この車と2日を共に過ごした私は、この車のことが結構好きになった。

試乗車の価格はS660が220万円(約14,500ポンド)で、コペンはおよそ190万円(約12,500ポンド)だったのだが、S660もグレードによっては190万円程度で購入することができる。

税額、保険料、維持費の安さを売りにしている軽自動車としては珍しく、S660もコペンもそれなりに高価だ(日本では装備の充実した軽自動車がもっと安い値段で購入できる)。とはいえ、マツダ・ロードスターが250万円(約16,500ポンド)であることを考えれば、この2台は安い(もちろんロードスターも安いのだが、軽自動車と比べると税額などは高くなる)。要するに、軽スポーツカーには独自の強みがあるということだ。実際、昨年日本ではS660が10,298台(利益が十分に回収できる台数だそうだ)、コペンが5,152台売れている。

まずはコペンに試乗してみることにしよう。少なくとも乗り降りはしやすく、ファーストインプレッションは良かった。ただし、クラッチの感覚は掴みづらく、ステアリングは最初の4分の1回転はほとんど反応してくれず、シフトゲートの形状的に3速には入れづらく、乗り味はマクドナルドくらい安っぽかった。

とはいえ、視界は良く、前を走るS660がよく見えた。後ろから見るとS660はまるで萎びたマクラーレンで、650Sスパイダーのように開く小さなリアウインドウを開けるとS660の室内には3気筒エンジンの音が響き渡る。

ひょっとしたら私はコペンに期待しすぎていたのかもしれない。コペンにも良いところはちゃんとある。大き目のステアリングも気に入ったし、オートバイのように細いタイヤも良いし、軽い力で操作できるので少なくとも東京の街中を走るのには適している。それに、ナビは日本語表記だったのだが、英語表記のプジョーやアルファ ロメオのナビよりは使いやすかった。

東京では2つの場所に立ち寄った。その1箇所目が地元の人から「幽霊トンネル」と呼ばれているトンネルだ。このトンネルはもうすぐ閉鎖されるらしく、私が通るためには首を曲げなければならず、窮屈な思いをしたのだが、これが後に運転するS660に乗る前の良いウォーミングアップになった。

続いて向かったのが有名なレインボーブリッジだ。見た目はゴールデン・ゲート・ブリッジやセヴァーン・ブリッジに似ていた。よくよく考えてみれば似たような橋はたくさんあるのだが、東京の道路と似たような光景はなかなかお目にかかれない。そこにはイギリスでは見られないような不思議な車がたくさん走っていた。日本独自の発明は軽自動車だけでなく、四角い形のミニバンもたくさん走っていた。日本はいまだSUVに支配されていない数少ない国のひとつだ。

翌日の富士登山に備え、我々は高速道路で富士市へと向かったのだが、高速道路を走るならコペンのほうが適しているだろう。移動中はいろいろな場所に立ち寄ってしまった。人里離れた場所に自動販売機が置かれていたことにも驚かされたし、サービスエリアではケーキの形をした玩具や猫の足の形をしたトングなど、さまざまな物が売られていた。その日は休日だったこともあり、サービスエリアの駐車場では自動車のミーティングも行われており、トヨタ・ハイエースが集まっている光景まで見かけた。

スピードには十分満足できた。高速域での乗り心地は低速域の乗り心地より良かったし、流れについていけるだけのパフォーマンスはちゃんとあった。スピードメーターは140km/h止まりだったのだが、それくらいまでは簡単に出せた。ただ、それくらいで走らせていると女性の声で車から注意されてしまった。

S660 interior

我々は富士市に到着した。そこは普通の港町で、わざわざ観光に訪れることはなさそうな場所だった。着いたのは土曜の夜だったのだが、写真を撮っていると街の明かりは次第に消えていった。

幸いなことに、夕食に出たフグに当たることもなかった。フグという魚は調理法を間違えると毒に当たってしまうそうだ。

翌朝になっても私はまだ生きており、今度はS660に乗り込んだ。インテリアは2年前にイギリスで販売終了となった昔のCR-Zとそっくりで、メーターは恰好良いデジタル表示だった。ステアリングには迫力があり、シフトレバーは扱いやすく、シートも快適だった。ダッシュボード上部にはスクリーンがあり、Gフォース(軽スポーツカーにとっては非常に重要な情報だ)を表示させることができた。

操作感はコペンよりもスポーツカー的で、フィールにも富んでいたのでより運転に浸ることができた。ただし、乗り味はそれほど優秀なわけではなく、路面の凹凸をいなしきれていなかった。結局のところ、S660は小さなロータス・エリーゼとまでは言えないのだが、少なくとも走りではコペンに勝っている。

運転するのは楽しく、富士山の五合目までの道では鋭い走りを見せてくれた。我々は車を5合目の駐車場に停め、そこからは歩いて雲の方へと向かっていった。

低速走行時のハンドリングは期待通りのロータスのようなハンドリングを実現していた。しかし、トラクションコントロールはオフにしている状態でも状況によっては介入し、コーナーではどんなにゆっくり走っていても警報音が鳴ってしまう。この点は残念だったのだが、ターンインは優秀だし、コーナー出口ではテールを遊ばせることもできる。S660は軽自動車としてだけでなく、スポーツカーとしても優秀だった。

コペンでの帰り道にはあまり期待していなかったのだが、それは嬉しい誤算だった。アンダーステアはしっかりと抑えられており、電子制御の助けがなくてもコーナーを素早く抜けることができた。山道での走りはウォームハッチ的で、コペンはこういう道でこそ輝く。これぞまさしく軽スポーツカーのあるべき姿だろう。

途中の神社で再びS660に乗り換えたのだが、その頃になると雨が酷くなってきた。帰りの高速道路の状態は最悪で、路面は水浸しだったし、視界も最悪で、前方2, 3台の車しか見えなかった。

軽自動車なのでさぞ怖かっただろうと予想する人も多いだろうが、実際はその真逆だった。むしろ自信を持って運転できたし、そういう状況ではまるで"大きな車"を運転しているようだった。ただ、ルーフに頭をぶつけないようにずっと首を曲げて運転しなければならなかったことだけは残念だった。私の身長は178cm(特別背が高いわけではない)なので、それ以上背が高い人はまともに乗れないだろう。街中や山道を運転するくらいなら問題にならないのだが、高速道路を長距離運転するのは辛かった。

東京に着く頃には既に日が暮れていた。台風はその翌朝の6時に東京を直撃した。我々が日本を去る頃には日本の首都には青空が広がり、富士山を覆っていた雲も消えた。

この2台の車は非常に魅力的ではあったのだが、イギリスへの導入を求めるつもりはない。軽スポーツカーは日本という国、日本の文化の中で独特の位置に存在している。日本を訪れたら乗りたい車ではあるのだが、イギリスにどうしても持ち帰りたい車ではない。こういった車があると知れただけで私は満足だ。


Japan's micro sports cars – Honda and Daihatsu kei cars driven