Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2005年に書かれたメルセデス・ベンツ Aクラスのレビューです。


A200

シェフィールドの大学で3年間の実地研修を行ったのち、私は(おそらくは)法律、行政、速記、そして教区会を専門とする記者に正式に認定された。

私はジョン・スウェインになり、弾丸や爆弾を避けつつ世界の紛争地域を駆け回り、真実への終わらぬ追求をしていくものだと信じていた。ところが、私はロンドンに引っ越し、テディベアの販売員になってしまった。

その仕事は私にはまるで向いていなかった。クンブランやポンテフラクトに行ってろくでもない小売店の店主を相手に営業しなければならなかった。返ってきた言葉はいつも「結構です」だった。当然、それでも粘り強く営業しなければならないことは自分でも分かっていたのだが、実際は「そうですか」とだけ言ってロンドンへと帰っていった。

2年間で営業のために16万kmも車を運転したのだが、私が売ったのはアルバム6枚と犬のぬいぐるみ2体とティーポットカバー1個とパディントン14体だけだった。非常に悲惨だった。この結果から、「生きていくためには自分の強みを生かさなければならない」というアダム・スミスの理論が正しいと改めて理解した。

例えば、バーニー・エクレストンは素晴らしい実業家だが、おそらく彼は看護師としては成功できなかっただろう(もちろん、あくまで推測だ)。ケイト・モスが国連を運営する姿を想像できるだろうか。ジリー・クーパーがサッカー連盟で働いている姿を想像できるだろうか。テリー・ウォーガンがテロリストとして活躍している姿など私には想像できない。

トニー・ブレアは嘘をつく能力には恵まれている。これは法律家として成功するために極めて重要な能力だ。しかし、この能力は首相という仕事には向いていない。ブレアには忠実な部下もいた。しかし、ジン・トニックを正しく作れる人間が必ずしも政治家に適しているわけではない。

同じような問題は自動車業界にもある。これまで30年間、BMWは高価で実直なスポーツセダンを専門に作ってきた。なので、そんなBMWが1シリーズという小型ハッチバックを作ったとしても、営業マンとしての私と同じくらい失敗するのは当然のことだ。

アウディもそうだ。1980年代以来、デザインが良く、革新的な技術を用いた大型車を作ってきたのだが、ある日突然、経営陣はこう考えたようだ。
よし、Bセグメント車を作ってみよう。

そうして誕生したのがA2という悲惨な車だ。価格は14,000ポンドとあまりにも高価だったので、純金でできているのではないかとさえ言われた。実際はアルミニウム製だったので非常に軽く、しかも薄っぺらかったため、ワイパーを作動させるだけでボディが左右に揺すられた。

もっと最近の話だと、フォルクスワーゲンがそのルーツを完全に忘れ、5万ポンドもするW12のスーパーセダン、フェートンを生み出した。フェートンは非常に優秀で、私も気に入った。しかし、イギリスで販売された数少ない個体はジョーダンやケリー・マクファデンを乗せてウエスト・エンドを行ったり来たりしているだけだ。

rear

しかし、中でも最悪の例は、堅牢で静かで威厳のある車を作り、世界の外交官の車の85%を占めていたメルセデス・ベンツの方針転換だ。

登場から100年が過ぎたスリーポインテッド・スターは品質や技術力の高さの、そして資本主義の実力の象徴となっていた。B-52爆撃機以上に歴史的に重要だと言ってもいいくらいだ。

そんなメルセデスがある日突然ハッチバックを開発することを決定し、そしてAクラスが誕生した。

表面的には魅力的な車のようにも思える。誰でも買える値段でメルセデスの品質が手に入る。しかし、そんな期待はすぐに打ち砕かれてしまった。スウェーデンで施行された車線変更操作のテスト(いわゆるエルクテスト)において、Aクラスの横転の危険性が明らかになってしまった。

80km/h超の速度で走行中に急激な進路変更をしようとすると、普通ならば起こるアンダーステアが起こらない。そのまま横転してしまう。

メルセデスはフィアットでもルノーでもない。小型前輪駆動車の開発経験がまったくないので、そういった車の極限状態における挙動を理解していなかった。

そのため、メルセデスは設計をやり直し、トラクションコントロールを装備して問題を解決した。そうして、安全性の高さを謳う新たなモデルが登場した。

メルセデスによると、フロアが二階建て構造(通常のフロアの上にシートが設置されるもう一段のフロアがある)になっているため、正面衝突が起きてもエンジンがフロアの隙間に入り込むので、エンジンが乗員の股を直撃することはないそうだ。

とても素晴らしい技術に思える。しかし、フロアが二重になっている本当の理由は別にある。Aクラスは元々電気自動車として設計され、バッテリーを搭載するためにフロアに隙間が開けられている。

要するに寄せ集めの車だ。言うなればメルセデスのエドセルだ。ダイムラー・ベンツ コルセアだ。ところが、イギリスだけで88,372人もの人がこの車を購入している。なので、メルセデスはAクラスを諦めることはせず、その続篇を登場させた。

車に乗り込んで最初に抱いたのは、メルセデスの低価格版とは思えないという感想だ。バルバドスの西海岸にある二つ星ホテルに来たような気分にはならない。内装に使われている材質は10万ポンドのSクラスと比べてもなんら遜色ない。

interior

ボディサイズは初代Aクラスよりも一回り大きくなっているので、室内空間も拡大していると予想していた。ところが、実際は予想以上だった。特にリアはかなり広く、リアシートを取り外せばもはやバンだ。

初代Aクラスの見た目もそれなりに気に入っていたのだが、新型のデザインはかなり良くなっている。特に3ドアモデルは…ドイツがこれまで生み出してきたものの中で最も個性的なデザインかもしれない。

装備内容についても言及しよう。試乗車にはナビや車載電話、空調付きのグローブボックス(これを使えばチョコレートを溶かさずに済む)、胸部保護用のエアバッグ、それに、車線変更をしようという考えが頭によぎっただけで作動する厳重なトラクションコントロールシステムが装備されていた。

残念なことに、太い超底扁平タイヤを履いていたため、乗り心地はあまり良くなかった。もしこのタイヤを装備するか尋ねられたら、セールスマンがいかに魅力的な人間であろうとも、いかに見た目にこだわっていようとも、はっきりノーと言うべきだ。

これを履いたところでハンドリングが向上するわけでもない。タイヤの扁平率が影響するような走りをするよっぽど前からトラクションコントロールが介入してしまう。

搭載されていたのはディーゼルエンジンだった。エンジンを始動すると騒音が響くのだが、その代わり経済性は高い。他のディーゼルエンジンとなんら変わりのないエンジンだ。

とはいえ、全体的に見れば、Aクラスは非常に良い車だ。走りもフィーリングもメルセデスの上級車のようだった。しかし困ったことに、大きな欠点がある。価格もメルセデスの上級車とそれほど変わらない。

確かにベースグレードは旧型Aクラスよりも数百ポンドほど安くなっている。旧型と比べるとエンジンの排気量も増加しているし、装備内容も充実している。しかし、今回試乗したC200 CDIの価格は実に19,995ポンドだ。

車の完成度が高いのも頷ける。これはメルセデスの低価格版などではない。ただ小さいだけの、正真正銘のメルセデス・ベンツだ。過去100年の歴史を正統に継承している。

文章を締める前に、メルセデスのディーラーが良くなってきていることについて書いておきたい。ここ数年、メルセデスのディーラーは最悪だった。無礼な上に無能だった。しかし、私個人の経験から言うと、最近ではまともに戻ってきている。


Mercedes Benz A class