今回は、米国「MOTOR TREND」によるスバル・アセントのプロトタイプモデルの試乗レポートを日本語で紹介します。


Ascent

2006年に登場したB9トライベッカは米国スバル初の3列シートファミリーカーだったのだが、あまりに小さかったため失敗に終わった。トライベッカはその後、一度のフェイスリフトを経て2014年にひっそりと消えていった。トライベッカは近年成長著しいスバルの数少ない失敗作だ。

その教訓に学び、スバルは5年間かけて北米市場に適した、そしてスバルというブランドに相応しい3列シートファミリーカーを生み出した。

この車の成功はスバルにとっては重要な鍵となる。スバルオーナーはメーカーに対する愛着が強い傾向にあるのだが、フォレスターやアウトバックから大きな車に乗り換えなければならなくなった場合は、どうしてもスバル以外から選ばなければならなかった。

そんな中で登場した新型スバル・アセントは歴史上最も大きく、最も重く、そして最も高価なスバル車だ。新たなスバルのフラグシップモデルであるアセントには7人乗りモデルと8人乗りモデルが設定され、トヨタ・ハイランダーホンダ・パイロットフォード・エクスプローラー日産・パスファインダーマツダ・CX-9、GMC アカディア、フォルクスワーゲン・アトラスなどと競合する。このクラスはかなり競争が激しい。

トライベッカと同じ過ちを繰り返すと思っている人もいるかもしれないが、考え直したほうがいいだろう。全長は4,998mmで、ハイランダーやパイロット、アカディアよりも大きく、それ以外の上述した競合車と比べても数cmの差しかない。

インプレッサやクロストレック(日本名: XV)と共通のスバルグローバルプラットフォームを採用していることを考慮すれば、ボディサイズは驚くほどに大きい。スバル技術統括部門の大空和仁氏いわく、SGPはアセントのようなサイズの車にも対応できるように設計されているそうだ。インプレッサやクロストレックの剛性の高さにも納得がいった。アセントほどの車に使われるプラットフォームにはかなりの剛性が要求されるはずだ。

rear

スバルはこのクラスに参入するのが遅かったのだが、必要なものは揃えている。ボディサイズやシートアレンジはパスファインダーを、走行性能はCX-9を、パッケージングはハイランダーを、それぞれベンチマークとしている。

開発時のコードネームは「TR8」で、開発は日本で行われたのだが、製造はインディアナ州ラファイエットの工場で行われる。年間製造台数は6万台を予定しており、必要とあらばそれ以上の生産台数を確保することも可能らしい。グレード構成は、ベースグレードのほか、「Premium」、「Limited」、「Touring」が設定される。価格設定は2018年春の発売前に発表されるのだが、ベースグレードの価格は3万ドルをわずかに超える程度だそうだ。

アセントは装備内容、安全性、走行性能を高次元で実現するファミリーカーを目標に開発されている。ただ、目標を掲げるのは簡単だ。その目標がどれだけ実現しているのかを確かめるため、今回我々はプロトタイプモデルに試乗した。

アセントには新設計の2.4L 水平対向4気筒 直噴ターボエンジンが初めて搭載される。このエンジンは今後、順次他のモデルにも搭載されていくそうだ。このボクサーエンジンは最高出力264PS、最大トルク38.3kgf·mを発揮する。スバルのテストドライバーの運転では0-100km/h加速7.3秒を記録し、4気筒ターボのエクスプローラーやCX-9を打ち負かしている。

SGPはハイブリッドカーやプラグインハイブリッドカー、EVへの採用も視野に入れた設計となっているのだが、スバル・オブ・アメリカのピーター・テン氏いわく、現時点ではハイブリッドモデルやEVモデルの登場予定はないそうだ。

試乗したのはカモフラージュの施されたプロトタイプ車で、スロットルレスポンスは発進時から力強かったのだが、クルージングスピードからアクセルを踏み込んだときの追い越し加速は少し物足りなかった。これは2.0Lのクロストレックでも同じ傾向だ。ちなみに、正式な燃費は1月頃に出るらしい。

seats

NVH性能にはかなり力が入れられており、どのシートも快適になるように設計されている。実際、タイヤノイズはかなり抑えられており、ドライバーと後部座席の乗員が会話するのも容易かった。ミシガンの舗装の悪い路面を走っても衝撃はしっかりといなしてくれた。

水平対向エンジンは搭載位置が低く、結果、重心も低くなっている。実際に運転してみても非常に安定しており、競合車が苦しんでいるロールもかなり抑えられていた。このクラスだと走行性能のベンチマークはCX-9なのだが、アセントの走行性能はCX-9に比肩するレベルだ。ステアリングは応答性が高く、操作もしやすい。

CVTはマニュアル変速も可能だ。その必要性に関しては賛否あるだろうが、マニュアル変速操作は楽しい。パドルシフトを操作すればシフトダウンしてエンジンブレーキをかけることもできる。CVTも改良されており、最大牽引重量2,300kgを実現している。牽引時にはトレーラースタビリティアシストが作動してトレーラーの蛇行を抑えることができるのだが、後退時のトレーラーの動きを制御するトレーラーアシストは装備されていない。

アセントにはシンメトリカルAWDシステムが備わり、ヒルディセントコントロールやオートホールド機能も付き、タイヤのスリップを低減するX-MODEも用意されている。スマートリアビューミラーを使えば荷物で後ろが見えないときにルームミラーにカメラ画像を表示させることができる。

地上高は221mmなのだが、乗り降りはしやすい。インテリアは広々としており、3列目の後ろの荷室も大半の競合車より広い。2列目シートは3人乗りにすることもできるし、無償で2人乗りのキャプテンシートにすることもできる。

全席リクライニング可能で、サンシェード、読書灯、エアコン吹出口も全てのシートに備わる。ただし、ムーンルーフは3列目まで届かない長さだ。2列目シートのスライド機構は非常に操作しやすく、畳む際にもそれほど力はいらない。3列目のフロアは少し高くなっている。3列目シートに大人が座ることもできるのだが、あまり余裕はない。2列目シートの肩の部分には日本の新幹線のようなグリップがあるので3列目に乗り込むときに便利だ。

interior

電源ポートやWi-Fi機能、USBポート(8個)も装備されるので、リアシート用のDVDスクリーンも必要ないだろう。それに、カップホルダーは19個もある。前席には携帯電話を置くためのスペースもあり、STARLINK, Apple CarPlay, Android Autoに対応している。ハーマン・カードンのオーディオも装備される。

デュアルカメラ方式のアイサイトが装備され、どの速度からも自動ブレーキが作動するし、レーンキーピングアシストをはじめ、各種先進安全技術や運転支援技術が装備される。スバルは最高の安全評価を獲得できると予想しているようだ。

これまで、比較的小さな車ばかり作ってきたスバルにとって、これだけ大きな車を開発するのは難しかったはずだ。しかし、2度目の挑戦はかなりうまくいったようだ。空間の使い方もうまいし、運転していて大きく感じたり、扱いづらく感じたりすることもない。スバルらしさはちゃんとあるのだが、これまでのスバル車と違う点もある。給油口の蓋を開ける際にフロアまで手を伸ばす必要がなくなっている。とはいえ、これくらいはすぐに慣れるだろう。


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