Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、アウディ・RS3 サルーンのレビューです。


RS3

私は先日、人の死を目撃してしまった。それを見た私は悲しくなった。その日の朝、彼はいつものように起床し、妻と一緒に朝食をとったはずだ。その日の夜の予定をそれとなく話し合ったはずだ。今日は子供たちはいつ帰ってくるのか、なんて話もしただろうし、ひょっとしたら週末の予定についても話したかもしれない。それから彼は家を出て、バイクに乗り、職場へと向かった。ところが、彼が職場に辿り着くことはなかった。彼のバイクは渋滞した交差点でトヨタ・プリウスに突っ込まれてしまった。

その2日後、ロンドンのアールズ・コートを自転車で走る馬鹿を見かけた。コーデュロイのジャケットや顎髭を見れば分かる通り、彼はエコ信者で、ほとんど透明なほどに薄っぺらい牽引車に3人の子供を乗せて走っていた。おそらくは彼自身の子供だろう。そうでなかったとしたら最悪だ。

それから1時間後、さらに馬鹿な女を見かけた。彼女が連れていたのは子供1人だったのだが、前輪の上に設置されたカゴの中に子供を乗せていた。彼女は赤ん坊をクラッシャブルゾーン代わりに使っていた。ただ政治的主張をするためだけに。狂気の沙汰としか言いようがない。

かつてなら、こんなことも許されていた。昔のロンドンの道路は安全に感じられた。交通の流れが遅かったのもあるのだが、なにより、誰もが自分たちのしていることをちゃんと理解していた。しかし、今ではまったく状況が変わってしまっている。

バイクに追突したのはタクシーだった。そのタクシーは先週、新聞を買いに出かけた私を危うく轢きそうになったまさにそのタクシーだった。そのとき、タクシーは反対車線を逆走していた。

Uberには十分な責任能力がないと判断された結果、ロンドンでの操業が禁止されることとなった。実際、Uber自体は裁判沙汰になる前にロンドンでの操業をちゃんと止めるだろう。しかし、それが現実になったところで、ロンドンの交通状況が改善するとは到底思えない。

近年ではグローバル化が非常に進んでいる。ロサンゼルスで購入するビッグマックはモスクワで購入するビッグマックとまったく同じものだ。コカ・コーラはどこで買っても同じだ。サングラスもそうだ。携帯電話も同じだ。そして、自動車も世界中で同じものが販売されているのだが、運転する方法に関しては場所によってまったく違っている。

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ローマに行ったことのある人なら私の言いたいことを理解してくれるだろう。ローマでの運転はヒューストンやボーンマスでの運転とはまったく違う。ベトナムでは車が5km/hまで加速するやいなや、誰もが5速に入れてしまうし、一方でシリアではエンジンが6,500rpmになるまで誰もシフトチェンジしようとしない。東ヨーロッパでは攻撃性がはっきりと見えるし、パリは好戦的で、インドは混乱している。

そういった国々で運転技能を取得した人たちがロンドンに来てプリウスのタクシーを運転しても、まともに通用するはずがない。世界中からシェフを集め、ひとつの台所で夕食を一緒に作れと言っているようなものだ。インド出身のドライバーはどの車線を走ればいいのか分からず混乱し、ポーランド出身のドライバーは信号をグランプリの開始サインだと勘違いし、その2人もアクセルとクラッチを踏み込み続けるシリア人のせいで耳が聞こえなくなり、他のまともなタクシードライバーが何を言っているのかも分からなくなってしまう。

信号が青になると東南アジア人以外は全員が衝突事故を起こす。東南アジア人は5速で6km/hで一方通行の道を逆走し、何にぶつかったのかすらよく分からずに走り続ける。少しして、自転車を轢いてしまったことに気付いて驚く。

困ったことに、タクシードライバー全員に同じ対策をしても意味はない。全員が全員、まったく違った運転をする。唯一分かるのは、プリウスが左車線で左ウインカーを出していても、少なくとも左には曲がらないということだけだ。

今やプリウスはイギリスで最も運転の危険な車だ。しかし、それは私がアウディ・RS3を借りるまでの話だ。私が借りた車の音を聞いた人も多いだろう。私がエンジンを始動するたび、排気システムが8km離れた場所にいる鳥すら脅かすマシンガンのような騒音を発した。最初は面白かったのだが、6日も経つと疲弊してしまった。それでも、アウディ・TT RSと共通の2.5L 5気筒ターボエンジンを搭載していたので、非常に気に入った。

最高出力は400PSで、そんなエンジンがRS3ほど小さな車に搭載されている。0-100km/h加速はほとんど0秒だ。最高出力は280km/hなのだが、基本的には250km/hのリミッターが装着される。オプションでリミッターを外すこともできるのだが、どうしてわざわざオプションにするのだろうか。

これまでも直線を速く走ることのできるアウディはたくさんあったのだが、特に最近のアウディはコーナーも速く走れるようになってきている。この車はもっと凄い。センサーやアルゴリズムによって4つのタイヤのうちどこに駆動力を送るのかが判断され、田舎道を飛ぶように走らせることができる。非常に楽しい。

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作りもしっかりしているし、コンフォートモードにしている限りは、硬いとはいえ、振動はそれほど酷くない。ただし、この車を買いたくない理由が2つある。いや、45,250ポンドという価格を考えれば3つだ。車格を考えれば、いかに走行性能が高いといえども高価過ぎる。

しかし、それ以上に問題なのはナビゲーションシステムだ。使い方に慣れたとしてもかなり使いづらい。何をするにしても、1歩進んで2歩下がらなければいけない。もっとシンプルな構成にするべきだ。

それから、ブレーキにも問題がある。足がブレーキに触れるだけでもキーキーと音がした。個体差だからちゃんと調整すれば問題ないと思う人もいるだろう。それは事実なのだろうが、私の知る限り、ブレーキに問題のあるRS3はこれで3台目だ。

この車を運転するときにはニュートラルにして信号まで惰性で進もうとしたのだが、ロンドンだとどこからともなくプリウスがやってくるので、どうしてもブレーキをかけざるを得ない状況になってしまう。なので、私はギリギリまで粘り、停止線の直前でブレーキを踏み込むという運転をした。

これでも音は鳴ったのだが、急ブレーキであれば長い時間ずっと不快な音を聞き続ける必要はない。しかしながら、この音のせいでたくさんのドライバーに警戒心を抱かせてしまっただろう。わずか1週間とはいえ、イギリス最悪のドライバーになってしまったことをここで謝罪したい。


The Clarkson Review: Audi RS 3 saloon