今回は、米国「AUTOWEEK」によるマクラーレン・570Sの試乗レポートを日本語で紹介します。


570S

どうあれ、570Sを「安物マクラーレン」などと呼ぶべきではないだろう。そんなことをしたらロン・デニスに折檻されてしまうかもしれない。570Sは安物のマクラーレンなどでは決してない。マクラーレンは「より幅広い顧客に魅力的な車を提供していきたい」そうだ。

それに、570Sは650Sの廉価版ではない。ただ、そういった面がまったく無いわけではない。仮に廉価版650Sだったとしても、フェラーリ・488より楽しい車だし、アウディ・R8やランボルギーニ・ウラカンや大半のアストンマーティンよりも運転していて楽しい。ただ、日常的に使うのであれば570Sでないほうがいいのかもしれない。

570Sは650Sの3分の2の値段(650Sは274,600ドル~、570Sは187,400ドル~)なので、必然的に装備内容は削られている。「アクティブ・エアロダイナミクス」が省略されたため、ゼロリフトではあるのだが、ダウンフォースはそれほど生まれない。それに、プロアクティブ・シャシー・コントロールも省略され、ショックアブソーバーは独立式になり、シンプルなスタビライザーが使われている。

マクラーレンいわく、570Sは「より活き活きとした」モデルになっているそうだ。実際、電動油圧式パワーステアリングは非常に活き活きとしている。ほかにカーボンファイバー製のフェンダーも無くなり、代わりにプレス加工されたアルミが使われている。

カーボンファイバー製のモノセルシャシは基本的に650Sと共通なのだが、ドア枠の一部がカットされ、乗降性が改善している。フロントおよびリアのアルミ製部分も共通で、プロポーションもほとんど同じだ。それに、ホイールベースも同一だ。

エンジンは3.8LのツインターボV8で、30%が「専用」パーツとなり、ターボチャージャーは570S専用の設計となっているそうだ。推測するに、570Sの最高出力が570PSで650Sの最高出力が650PSなのは、ウェイストゲートバルブの開閉設定の違いによるものだと思う。

rear

570Sには新設計のカムフェイザーが装備され、エンジンおよびトランスミッションのソフトウェアもほとんど刷新されているそうだ。また、オイルポンプやエグゾーストマニフォールド、インジェクター、吸気系も設計が変更されているらしい。ただ、いずれにしても、フルスロットルにでもしない限りは馬力の違いなど分からない。

650Sよりはスペックが抑えられているのだが、それでもハイパフォーマンスであることに変わりはない。570Sもマクラーレンの名に恥じぬ出来だ。

試乗はポルトガル、ファロから海へと続く美しい二車線道路で行った。試乗中ににわか雨が降りはじめ、最終的には本降りとなって、ワイパーはフル稼働を続けた。直線でルノーのパネルバンを追い越し、そのままコーナーへと差し掛かると、目の前におよそ0.5km/hで走る巨大なトラクターが見えた。私は慌ててブレーキを踏み込んだ。

ピレリ製のタイヤが悲鳴をあげることはなかった。ESPのセッティングが「女々しい」モードだったので電子制御に助けられた部分もかなりあるのだろうが、フロントもリアも安定したラインを描いた。もっとも、雨だったこともあり、本能的にドライの時ほど強くブレーキを踏み込まなかったのかもしれない。いずれにしても非常に優秀なブレーキであることは間違いないだろう。

それから我々はファロの北外れにあるアウトードロモ・インテルナシオナル・ド・アルガルヴェへと赴いた。このサーキットを設計したのはどんな狂人なのだろうか。先の見えない坂とUターンの連続だ。これと比べると、危険と言われるニュルブルクリンクがガイドレール付きのディズニーランドのオートピアのように思える。本来なら、インターネットで調べてコースのレイアウトを完璧に暗記してからでないと安心して挑めないだろう。

ただ今回は最初にマクラーレンのインストラクター(非常に穏やかな人だった)の運転で2周し、それからドライバーを交代して、今度は自分の運転で3周か4周か5周ほど(かなり混乱していたのでよく覚えていない)運転した。運転中はセドリックだかポーツマスだかバジルだか、名前は忘れたがインストラクターが「ブレーキ! ブレーキ! ブレーーーキ!!」「シフトダウン! シフトダウン! シフトダウン!!!!」と叫び続け、最初の2周とはまるで別人のようだった。

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先の見えない坂の先にあるのが左向きの急カーブなのか右向きの2速コーナーなのかもあやふやだった。坂を登りきるとそのまま急降下してグリップが失われ、なんとか地に足がつく頃には路面にスピン痕がたくさん残っていることに気付いた。

ただ、走行モードをどれにしていても何の問題もなかった。少なくともノーマルモードやスポーツモードでは問題なかった。インストラクターがトラックモードにするとかなり滑りやすくなり、イアンだかコリンだか知らないが、インストラクターはさぞ肝を冷やしただろう。トラックモードにして最初の頃はリアが膨らむこともあり(おそらくアクセルを踏みすぎたのだろう)、時折インストラクターがステアリングに手を伸ばしたのだが、その手がステアリングに届くよりも前にシステムがちゃんとリカバリーしてくれた。

650Sのほうが570Sよりも速いし、スポーティーだし、応答性も高いし、総合的な実力は高い。2台の価格差は86,000ドルなのだが、それだけ支払う価値はちゃんとあるだろう。それでも、マクラーレンは「570Sのほうが活き活きした車だ」と表現している。570Sは月額2,000ドルから2,500ドルほどでリースできるので、570Sと650Sのどちらのほうが魅力的か、自分で検討してみるのも手だろう。

570Sはマクラーレン初のエントリーモデル(アメリカで販売されていない540Cは数に入れていない)だし、マクラーレンの新しいスポーツカーの味を表現できている。そして、570Sの上には650Sや675LTといったスーパーカーが存在している。さらに上にはP1やP1 GTRといったハイパーカーも存在する。そのどれも、所有できるだけで幸せな車だ。


McLaren 570S first drive: Woking's latest wonder attacks the world's scariest track