Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、セアト・レオンST クプラ 300 4Drive のレビューです。


Leon ST Cupra

スペインといえば、何を思い浮かべるだろうか。私にとってスペインという国は、肺炎に罹ったときに手厚い治療が受けられる場所なのだが、私以外の人はきっと、いろいろなことを連想するだろう。マルベーリャにある自宅のプールの下に敵対する銀行強盗を埋めてしまう銀行強盗を連想する人もいるだろう。大聖堂を連想する人もいるだろうし、ゲルニカを連想する人もいるだろうし、大西洋でとれた新鮮なペルセべを使った料理を連想する人もいるだろう。

スペインにはあまりにもたくさんのものがある。山も、砂漠も、そして闘牛士もいる。クラブは夜明けまで開いており、夜中にはよくわからない液体をバケツ1杯摂取しなければやっていられないようなどんちゃん騒ぎが繰り広げられる。

風味豊かなオリーブオイルもある。道沿いの白いプラスチックの椅子には老人たちがただ何もせずに座り続けている。アンゲラ・メルケルがお金を出してくれるので、彼らは働かずに120歳まで生きていくことができる。米にゴミ箱の中身をぶちまければパエリアという料理ができる。具材は貝殻や使い古しのティーバッグ、タバコの吸い殻、人参のヘタ等々だ。どうしてこんなもので美味しい料理ができるのかは分からない。ただ、いずれにしても私はパエリアが大好きだ。

それから、スポーツもある。ラフィエル・ナダルという優秀なテニス選手もいるし、バルセロナとレアル・マドリードは世界のサッカーを牽引している。

スペインは素晴らしい国だ。地中海に面する半島の中で2番目に好きな場所だ。しかし妙なことに、自動車に関してはエチオピアや南スーダンと同レベルだ。確かに、フェルナンド・アロンソを生み出したのはスペインだが、今の彼がしていることといえば、レースを放棄するか、ラジオでジョークを言うかくらいだ。それか、間違った場所で間違ったスポーツをやっているかだ。

スペインでのドライブについても考えてみよう。私も何度かスペインでドライブをしたことはあるのだが、困ったことに詳細は思い出すことができない。今年はスペインで日産・マイクラ(日本名: マーチ)を借りたのだが、運転したのが午前4時だったうえに、レンタカーはまともにまっすぐ走らないし、まともに止まってもくれなかったので、大嫌いになってしまった。そもそも体調もそれほど良くなかったので最悪の経験だった。

誰だか知らないが、車にはシガーライターが無ければならないと考えた輩がいたようだ。そいつに会ったら是非とも爪楊枝で目を突き刺してやりたい。そいつは助手席の足元にシガーライターを設置したため、右にステアリングを切るたび、助手席の乗員の左足が押し潰されてしまった。

では、スペインの自動車産業はどうだろうか。1898年、イスパノ・スイザの前身となる企業が設立された。しかし、この企業は1903年に破産し、以来、フランスの会社になってしまった。それ以降のスペインの自動車産業について、Wikipediaでは3行しか書かれていない。ここまで読んで、スペイン車ファンはきっと反論することだろう。飛び跳ねながら大声でセアトの存在を主張するはずだ。

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セアトはスペイン企業だ。ただし、親会社はドイツのフォルクスワーゲンだし、製造拠点はチェコ共和国、ベルギー、アルゼンチン、ポルトガル、ウクライナ、スロバキア、そしてドイツにある。

ところが今回の主題となっている車はスペインで製造されている。フォルクスワーゲン・ゴルフRと共通のパーツをたくさん使って。

車名はセアト・レオン ナントカ 300 4Drive エステートという。職場から出て駐車場にこの車が止まっているのを見た私は、思わずがっくりと肩を落としてしまった。ゴルフRエステート自体も見た目はそれほど良くないのだが、この車はなお悪かった。「肥満女の不細工な妹分」と名前を改めたらどうだろうか。そっちのほうがまだ覚えやすいし、特徴をより正確に表している。

インテリアはゴルフそのものだ。ただし、フロントシートはゴルフより巨大で、かなり快適だった。ゴルフとまったく同じ使いづらいナビを設定し、ゴルフとまったく同じ2Lエンジン(ただし10PS向上しているらしい)を始動し、ゴルフとまったく同じDSGを1速に入れて走り出した。

高速を走ったのだが、そこでの走りはシートの座り心地以外はゴルフとまったく変わらなかった。しかし、コッツウォルドに到着した頃に妙なことが起こった。最高回転数(セアトのオーナーは一度も達したことがないはずだ)において、とんでもなく美しい音を奏でた。

その音は後ろの方から聞こえてきたわけではない。フロントから聞こえてきた。要するに、排気音を電子制御でいじっているわけではないということだ。私が楽しんだのは、本物のエンジン音だ。

私はこの音をとても気に入ったので、試乗中はずっと異常なギアを選択しながら走行した。その結果、燃費はおよそ0.5km/Lになってしまった。

リアシートを折り畳んで広大な荷室に家具やらを積んでしまうと、燃費は悪くなるだろう。実際、私も大きな荷物を積んでほとんど2速でずっと走り続けた。

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快適性は車の性格を考慮すれば予想よりもずっと良かったし、4WDなので馬好きにもぴったりだろうし、装備は価格を考えれば十分すぎるほどに付いていた。

ここで面白いことに気付いた。変なジャンパーを着たアデノイド男は車に安さばかりを求めるので、このセアトがフォルクスワーゲンの姉妹車よりも1,215ポンド安いことにも注目するだろう。ただし、ボディカラーを赤にすると650ポンドもの追加料金がかかってしまう。

ボディカラー問題を無視すれば、この価格差には大きな意味がある。速くてホットなフォルクスワーゲンの4WDステーションワゴンを欲しがる人は世界中にたくさんいるだろう。それに対抗するため、セアトは価格を武器にするはずだ。セアトのセールスマンはこう言うことができる。
ゴルフRと同じ値段を払えば、この車とDFSのソファを一緒に買うことができますよ。

しかし、価格面についてさらによく考えれば、フォルクスワーゲンのほうがよっぽど有利だ。うちのテレビプロダクションでゴルフRに乗っている人が2人いるのもそれが理由だ。

本来、私のゴルフGTIを停めるために用意されている駐車スペースに彼らのより高価なゴルフRを停められてしまうこともある。スタッフよりも安い車に乗っている私は、それを咎めることもできずにいる。もっとも、そんなに頻繁にあるわけではないのだが。

とはいえ、いずれはセアト・ナントカのほうが君らの乗っているゴルフRよりも良いシートを積んでいると言うつもりだ。ゴルフRより良い音を奏でると言うつもりだ。スペイン車を選ばないのは間抜けだと言うつもりだ。


The Clarkson Review: Seat Leon ST Cupra 300 4Drive