Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
今回紹介するのは、2004年に書かれたボルボ・V50 D5のレビューです。

ボルボいわく、安全性は最重要事項ではないそうだ。安全性こそがすべてらしい。つまり、パフォーマンスも、経済性も、コストパフォーマンスも、耐久性も、デザインも、快適性も、操作性も、室内空間も、妖艶さも、すべて無意味ということらしい。最近のボルボの歴史を振り返ってみても、この理論を支持する証拠はたくさん出てくる。
私の父も一時期ボルボに乗っていた。父が乗っていたのは265 GLEだった。なんでもかんでも否定したがった頑固な母の叔母(独身)にちなんで、私たち家族はそのボルボのことをクラウディアと呼んでいた。
パフォーマンスに惚れてこの車を購入した人など存在しない。6気筒エンジンのすべての力を振り絞ってようやく車単体が動いたため、乗員や荷物を動かす余力は存在しなかった。そして、見た目や高級感を理由にこの車を購入した人もいない。要するに、これは車や運転に興味のない人のための車だ。自分が事故を起こしそうだと自覚している人ばかりが購入していた。
にもかかわらず、この車は父が事故を起こさなかった唯一の車だった。父はアングリアを一台廃車にしているし、コーティナは数え切れないほど廃車にしてきた。コルセアを運転中に両膝を失い、乗ったアウディすべてを粉々にしてきた。にもかかわらず、父はボルボをガードレールにさえぶつけなかった。
この結果、父はボルボを最高の車だと考えるようになり、妹がリーズ大学に入学する際にはボルボを買い与えた。当時はピーター・サトクリフがウェスト・ヨークシャーで暴れ回っていた時期で、安全な車が求められていた。
残念なことに、妹に与えられた車はボルボ・340だった。340はゴムバンドによって駆動し、常時騒音を響かせていた。それを嫌った妹は人気の少ないリーズ郊外の夜道を一人で歩かざるをえなかった。犯罪者からしたら格好の標的だろう。
340が販売終了になって以降も、ボルボはずっと酷い車ばかり販売してきた。480「スポーツクーペ」という車はドラマ『セイント』でもお馴染みのP1800の復刻版と謳われていたのだが、個性的なトリップコンピューターとリトラクタブルヘッドライト以外、そんな要素は存在しなかった。
それに、700シリーズも忘れがたい。お絵かきボードでデザインされたような四角いボディが特徴だ。その後登場した800シリーズは大変身を遂げ、T5という恐ろしいモデルも誕生した。ようやくボルボにわずかな活力が生まれたのだが、ボルボは速く走らせる人など存在しないと考えたようで、アクセルをちょっと踏むだけで前輪がねずみ花火のごとく滑りまくった。側道から素早く合流しようとしただけでタイヤを使い果たしてしまう。
ボルボは異常なことばかりしてきた。ステーションワゴンでイギリスツーリングカー選手権に参戦した。面白い試みではあったのだが、競争力はほぼ皆無だった。三菱との協業で狂気的な小型車も生み出したし、最近ではシートがデール・ウィントンと同じオレンジ色の車も作っている。
たまにまともなことをしたかと思っても、結局は異常な結果に終わった。長らくの間、ボルボは大型SUVを作ってこなかったのだが、結局はその誘惑に負け、XC90という車を生み出した。
XC90は素晴らしい車であり、イングランド中部の新しい制服にまでなったのだが、ボルボは需要を完全に見誤り、初期計画の年間製造台数はわずか5万台だった。「7人乗り」、「4WD」、「ボルボ」はいわば三位一体だ。例えるなら、美人で床上手で頭脳明晰な女性のようなものだ。瓶詰めフルーツだって年間5万瓶では世界どころかギルドフォードの需要にも足りないだろう。結局、ボルボは生産台数を80%増やすことを決定した。
いずれにしろ、たくさんの過ちを犯してきたボルボは、それでも私の父のような車に興味のない人たちに車を売り続けてきた。ボルボのオーナーは事故を起こしても膝を守れればいいと考えるような人たちばかりだった。
今やボルボはフォード帝国の歯車となり、中にはまったくもって問題のない車さえ存在する。走行性能もかなり向上している。

XC90は当然ながらそんな車の一台だし、V70という車は頑丈なだけでなく、事故を回避する能力すらも高い。走行性能も実用性も高く、見た目は派手すぎず魅力的だ。V70もクラウディアと呼ばれるだろうが、それはクラウディア・シファーにちなんでいる。
ただ、残念なことに、V50の良いところはダッシュボードからフロアまで滝のように流れる薄くてスタイリッシュなセンターパネルくらいしかない。私は車自体の実力を知るまでは、このフィリップ・スタルクのようなデザインに酔いしれていた。
ボルボはフォードの一部門なのだが、V50にはモンデオやXタイプに搭載されるディーゼルエンジンは搭載されていない。代わりにV50にはコンクリートミキサーが搭載されている。その結果、0-100km/h加速には約2年かかり、最高速度はかろうじて動いていると感じられる程度の速度だ。
見た目もあまり良くない。ノーズが自転車に優しい設計になっているため、フロントエンドはやや膨らんだ印象となっており、歩行者を保護するためにボンネットは非常に高くなっている。
実用性も低い。ジャガーのステーションワゴンのほうが広いし、アウディ・A4やBMW 3シリーズもV50よりはまだ広い。1.8Lモデルの価格は17,363ポンドなので競合車よりはわずかに安いのだが、2,000ポンド節約した結果、マウンテンバイクも載せることができなくなってしまう。17,363ポンド節約してそもそも車を買わないほうがましだ。
走りもあまり気に入らなかった。先日試乗したマツダ3同様、V50も次期型にも採用されるフォード・フォーカスのプラットフォームを使っており、マツダ3同様、サスペンションやステアリングが明らかに安っぽく感じられた。
V50を買う人がいたとしても、きっとその理由は安全性だけが理由なのだろう。V50を購入する人たちは自分の意志で自殺する権利を重視しており、事故では決して死にたくないと思っているのだろう。
実際、V50の安全性は非常に高い。クラッシャブルゾーンにはグレードの異なる複数種類の高強度鋼が使われているし、イグニッションキーはダッシュボードに配置され、衝突時に膝を痛めることもない。車幅も広く、側方からの衝撃にも強い。しかもなんと、急制動時や急旋回時にはハンズフリーフォンが鳴らないように設定されている。ドライバーが落ち着くまで待ってくれる。
それだけではない。ラジエーターはオゾンを酸素に変換する化学物質で覆われており、前方を走る車の汚れた排気ガスを浄化してくれる。しかも、エアコンには臭いを除去するシステムも付いており、鼻には新鮮な空気が届くようになっている。
シートやカーペットの材質には低刺激性の物質が使われており、喘息や湿疹や心臓発作が起こりにくいそうだ。つまり、車内にピーナッツは使われていないということだ。
この車は細部まで配慮が行き届いている。しかし、劇場のトイレがいかに綺麗だからといって、それを基準に見る演劇を決める人がどこにいるのだろうか。
Volvo V50
今回紹介するのは、2004年に書かれたボルボ・V50 D5のレビューです。

ボルボいわく、安全性は最重要事項ではないそうだ。安全性こそがすべてらしい。つまり、パフォーマンスも、経済性も、コストパフォーマンスも、耐久性も、デザインも、快適性も、操作性も、室内空間も、妖艶さも、すべて無意味ということらしい。最近のボルボの歴史を振り返ってみても、この理論を支持する証拠はたくさん出てくる。
私の父も一時期ボルボに乗っていた。父が乗っていたのは265 GLEだった。なんでもかんでも否定したがった頑固な母の叔母(独身)にちなんで、私たち家族はそのボルボのことをクラウディアと呼んでいた。
パフォーマンスに惚れてこの車を購入した人など存在しない。6気筒エンジンのすべての力を振り絞ってようやく車単体が動いたため、乗員や荷物を動かす余力は存在しなかった。そして、見た目や高級感を理由にこの車を購入した人もいない。要するに、これは車や運転に興味のない人のための車だ。自分が事故を起こしそうだと自覚している人ばかりが購入していた。
にもかかわらず、この車は父が事故を起こさなかった唯一の車だった。父はアングリアを一台廃車にしているし、コーティナは数え切れないほど廃車にしてきた。コルセアを運転中に両膝を失い、乗ったアウディすべてを粉々にしてきた。にもかかわらず、父はボルボをガードレールにさえぶつけなかった。
この結果、父はボルボを最高の車だと考えるようになり、妹がリーズ大学に入学する際にはボルボを買い与えた。当時はピーター・サトクリフがウェスト・ヨークシャーで暴れ回っていた時期で、安全な車が求められていた。
残念なことに、妹に与えられた車はボルボ・340だった。340はゴムバンドによって駆動し、常時騒音を響かせていた。それを嫌った妹は人気の少ないリーズ郊外の夜道を一人で歩かざるをえなかった。犯罪者からしたら格好の標的だろう。
340が販売終了になって以降も、ボルボはずっと酷い車ばかり販売してきた。480「スポーツクーペ」という車はドラマ『セイント』でもお馴染みのP1800の復刻版と謳われていたのだが、個性的なトリップコンピューターとリトラクタブルヘッドライト以外、そんな要素は存在しなかった。
それに、700シリーズも忘れがたい。お絵かきボードでデザインされたような四角いボディが特徴だ。その後登場した800シリーズは大変身を遂げ、T5という恐ろしいモデルも誕生した。ようやくボルボにわずかな活力が生まれたのだが、ボルボは速く走らせる人など存在しないと考えたようで、アクセルをちょっと踏むだけで前輪がねずみ花火のごとく滑りまくった。側道から素早く合流しようとしただけでタイヤを使い果たしてしまう。
ボルボは異常なことばかりしてきた。ステーションワゴンでイギリスツーリングカー選手権に参戦した。面白い試みではあったのだが、競争力はほぼ皆無だった。三菱との協業で狂気的な小型車も生み出したし、最近ではシートがデール・ウィントンと同じオレンジ色の車も作っている。
たまにまともなことをしたかと思っても、結局は異常な結果に終わった。長らくの間、ボルボは大型SUVを作ってこなかったのだが、結局はその誘惑に負け、XC90という車を生み出した。
XC90は素晴らしい車であり、イングランド中部の新しい制服にまでなったのだが、ボルボは需要を完全に見誤り、初期計画の年間製造台数はわずか5万台だった。「7人乗り」、「4WD」、「ボルボ」はいわば三位一体だ。例えるなら、美人で床上手で頭脳明晰な女性のようなものだ。瓶詰めフルーツだって年間5万瓶では世界どころかギルドフォードの需要にも足りないだろう。結局、ボルボは生産台数を80%増やすことを決定した。
いずれにしろ、たくさんの過ちを犯してきたボルボは、それでも私の父のような車に興味のない人たちに車を売り続けてきた。ボルボのオーナーは事故を起こしても膝を守れればいいと考えるような人たちばかりだった。
今やボルボはフォード帝国の歯車となり、中にはまったくもって問題のない車さえ存在する。走行性能もかなり向上している。

XC90は当然ながらそんな車の一台だし、V70という車は頑丈なだけでなく、事故を回避する能力すらも高い。走行性能も実用性も高く、見た目は派手すぎず魅力的だ。V70もクラウディアと呼ばれるだろうが、それはクラウディア・シファーにちなんでいる。
ただ、残念なことに、V50の良いところはダッシュボードからフロアまで滝のように流れる薄くてスタイリッシュなセンターパネルくらいしかない。私は車自体の実力を知るまでは、このフィリップ・スタルクのようなデザインに酔いしれていた。
ボルボはフォードの一部門なのだが、V50にはモンデオやXタイプに搭載されるディーゼルエンジンは搭載されていない。代わりにV50にはコンクリートミキサーが搭載されている。その結果、0-100km/h加速には約2年かかり、最高速度はかろうじて動いていると感じられる程度の速度だ。
見た目もあまり良くない。ノーズが自転車に優しい設計になっているため、フロントエンドはやや膨らんだ印象となっており、歩行者を保護するためにボンネットは非常に高くなっている。
実用性も低い。ジャガーのステーションワゴンのほうが広いし、アウディ・A4やBMW 3シリーズもV50よりはまだ広い。1.8Lモデルの価格は17,363ポンドなので競合車よりはわずかに安いのだが、2,000ポンド節約した結果、マウンテンバイクも載せることができなくなってしまう。17,363ポンド節約してそもそも車を買わないほうがましだ。
走りもあまり気に入らなかった。先日試乗したマツダ3同様、V50も次期型にも採用されるフォード・フォーカスのプラットフォームを使っており、マツダ3同様、サスペンションやステアリングが明らかに安っぽく感じられた。
V50を買う人がいたとしても、きっとその理由は安全性だけが理由なのだろう。V50を購入する人たちは自分の意志で自殺する権利を重視しており、事故では決して死にたくないと思っているのだろう。
実際、V50の安全性は非常に高い。クラッシャブルゾーンにはグレードの異なる複数種類の高強度鋼が使われているし、イグニッションキーはダッシュボードに配置され、衝突時に膝を痛めることもない。車幅も広く、側方からの衝撃にも強い。しかもなんと、急制動時や急旋回時にはハンズフリーフォンが鳴らないように設定されている。ドライバーが落ち着くまで待ってくれる。
それだけではない。ラジエーターはオゾンを酸素に変換する化学物質で覆われており、前方を走る車の汚れた排気ガスを浄化してくれる。しかも、エアコンには臭いを除去するシステムも付いており、鼻には新鮮な空気が届くようになっている。
シートやカーペットの材質には低刺激性の物質が使われており、喘息や湿疹や心臓発作が起こりにくいそうだ。つまり、車内にピーナッツは使われていないということだ。
この車は細部まで配慮が行き届いている。しかし、劇場のトイレがいかに綺麗だからといって、それを基準に見る演劇を決める人がどこにいるのだろうか。
Volvo V50
リクエストの車のレポートをありがとうこざいます。ジェレミー・クラークソンが貶した車と分かって、余計に購買意欲が湧いてきました。ニヤニヤ顔が止まりません。購入資金が出来たら、程度の良い奴を探してみます。