今回は、英国「Auto Express」によるLEVC TXの試乗レポートを日本語で紹介します。


LEVC TX

今回は未発売の新型モデルに同乗試乗することができた。普通なら、運転席に座って自分で運転することこそが重要だ。しかし今回は、リアシートに乗った感想こそが求められている。

というのも、今回試乗したのがTXという車だからだ。これはLEVC (London Electric Vehicle Company) という企業が製造するタクシーだ。LEVCの前身は何十年にもわたってブラックキャブの製造を続けてきた企業、ロンドンタクシーカンパニーだ。企業名を変更したのも、それだけ新事業に真剣に取り組もうとしているということだろう。

LEVCの親会社である吉利汽車はコヴェントリー近郊の新工場に3億2500万ポンドの投資を行っている。この工場はイギリス初の電気自動車専用工場となる。これだけの投資を受けているので、世界中で売れる必要がある。アムステルダムは既に225台オーダーしており、ドイツの市場開拓のためにフランクフルトモーターショーにも出品されている。

とはいえ、今回はあくまで、ロンドンの大気汚染問題解決に一役買う、ロンドンタクシーの後継車としてこの車を評価する。この車には環境性能に配慮したパワートレインが搭載されている。

TXには車両後部に電動モーターが搭載され、最高出力163PSを発揮し、航続距離は通常使用時で120kmだ。ボルボ製の1.3L 3気筒ガソリンエンジン(発電機)を利用すると、航続距離は640kmを超える。回生ブレーキも装備されており、航続距離延長に寄与している。LEVCはこの車が「ハイブリッドカー」と呼ばれることを嫌っている。トヨタ・プリウスのようにほとんどエンジンが稼働しっぱなしの車とは一緒にされたくないようだ。

ロンドンタクシーの1日の平均走行距離は120kmで、LEVCはロンドン交通局の急速充電器(2017年内に75台が設置予定で、2018年までに合計150台となる計画)の使用を想定している。この急速充電器を使えば20分で80%まで充電が可能だ。ガソリンを使った場合でもTXの1週間のガソリン代はせいぜい50ポンド程度になると想定されており、ロンドンタクシーと比較するとおよそ100ポンド節約できる。ディーゼルエンジンを搭載する従来のTX4と比較すると、汚染物質の排出量も大幅に減少するだろう。

Dashboard

LEVCいわく、充電場所やバッテリー交換費用に関してはほとんど心配いらないそうだ。プロダクトマネージャーのアリスター・フェアグリーブ氏いわく、「適切な情報共有」を行えば解決可能だそうだ。

多くの人が、バッテリーを消耗品であると考えたり、維持費の高いものと考えたりしています。しかし、TXのバッテリーは耐久性テストをしっかりと行っており、バッテリーの劣化はかなり抑えられています。

LEVCは5年間(走行距離無制限)の保証も提供する。一般的なロンドンタクシーが5年間で30万km程度走行することを考えると、この保証はかなり手厚い。これでもまだ安心できないユーザーに対しては、LEVCがロンドンのショールームに招待して新型モデルの説明を行っている。

実際のタクシードライバーに対する説明と同じような説明を受けた我々は、フェアグリーブ氏および技術主管のイアン・コリンズ氏(ローバーやマクラーレンで23年間自動車開発の経験を積んできた技術者だ)とともにカモフラージュの施されたプロトタイプ車の後部座席へと乗り込んだ。コリンズ氏は2013年初頭頃から開発に携わっており、開発はかなりのスピードで進められたそうだ。

タクシーの乗客が乗ることはないのだが、TXの一番の見どころは前席だ。ボルボの部品が数多く流用されており、TFT液晶メーターや中央のタッチスクリーンはボルボそのもので、インテリアの質感はTX4の比ではない。車線逸脱警報や死角警報などは装備されていないのだが、自動ブレーキは最高75km/hまで対応しており、混雑したロンドンの道路にはぴったりだ。

リアシートも先進的だ。レイアウトやデザインは旧来のロンドンタクシーとさほど変わらないのだが、細部に目を向けると、エアコンはタッチパネルで操作できるし、Wi-Fi接続機能や3ピン電源ソケットも装備されているので、ビジネスマンには喜ばれるだろう。フロアからは車椅子用のスロープを出すこともできるし、ドアのヒンジが後部にあるので乗り降りしやすい。リアシートには6人が快適に座ることができる。

seats

一般的なEV同様静粛性は高く、走り出しても後ろからモーターの駆動音が聞こえるだけだ。市販版では遮音性をさらに強化し、モーターの音はさらに静かになるらしい。とはいえ、プロトタイプモデルでも従来のロンドンタクシーよりはよっぽど静かだ。

電気モーターらしくトルクは即時に発揮されるため、街中では非常に力強く感じられた。コリンズ氏いわく、「あまりにもパワーがありすぎた」ために、開発初期段階から出力は減らされているそうだ。加速性能や車重はまだ明かされていないのだが、コリンズ氏いわく、「大型SUVと同程度」らしく、110km/h程度なら簡単に出せるそうだ。今回の試乗はEVモードのみでの走行で、発電機はデモンストレーションとして稼働してもらった。

当然、操作性など分かりようもないのだが、ロンドンの街中に溢れるスピードバンプの衝撃はほとんど吸収していた。コリンズ氏によるとベンチマークはXC90だそうで、実際に乗った感覚も従来のタクシーよりも優れており、まるで高級車のようだった。ロンドンタクシーではお馴染みの切れ角63度の前輪も健在だ。

LEVCは2018年中に1,500台の販売を予定しており、そのうち90%は5年間のリース販売とする計画だ。ロンドンタクシーは2018年以降、最低でも50km以上はゼロエミッションで走行しなければならなくなるため、TXはこの法規制に対応するための重要なモデルになることだろう。


New TX London Taxi ride review