Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
今回紹介するのは、2011年に書かれたランドローバー・フリーランダー2 eD4 のレビューです。

電話が鳴った。つい先日ジャガーを事故で廃車にしてしまい、保険金で新しいレンジローバーを買おうか悩んでいる友人からだった。私は彼に対し、あらゆる点を考慮してもレンジローバーが世界最高の車だろうということ、そして、買うとしたら新型車は避けたほうがいいことを説明した。リセールバリューはすぐに下がってしまうだろうし、新型モデルはバッテリー切れを起こしやすい傾向にある。なので、旧型最終モデルのディーゼル仕様を中古で買うべきだと助言したのだが、彼は驚きの返答をした。
彼が住んでいるのは、バタリー式養鶏場で生産された卵を購入すると迫害されるような世界らしい。選挙のときに青や赤、黄色の政治思想を掲げることなど許されない。それが北オックスフォードという場所だ。そこでの最高のステータスシンボルは自転車に括り付けられた編み細工の引き車で、そこの住民は皆、本当はゲルに住みたがっている。
なので、その友人は旧モデルを購入したくはないそうだ。彼はエコな新型を欲しがっていた。なるほど…。
彼は自覚していないかもしれないが、ある意味で彼の考え方は的を射ている。トヨタ・プリウスを買うより、自宅からわずか80km離れた場所で生産されているV8ターボの巨大オフロードカーを購入したほうがよっぽどエコだ。プリウスの部品は工場から数百万キロ離れた場所からかき集められ、それからかろうじて車っぽい形になり、そこから再び長距離輸送されて家に届く。ところが、エコ人間はあまり頭が良くないので、友人宅の近所に住む人たちはこんなふうには考えてくれないかもしれない。
彼の新型レンジローバーに対する考え方は非常にエコだと思うのだが、北オックスフォードにおいて、レンジローバーは悪魔と同列に扱われている。そこの住人は常々、レンジローバーはオゾン層に穴を開けると主張している。そんな彼らは、古い冷蔵庫を後生大事に使っており、デオドラントスプレーも使っている。
世の中には森林伐採の原因を自動車メーカーに求める人さえ存在する。現在、木から自動車を作っているメーカーなどモーガン以外には存在しない。マルヴァーンで年間17台しか製造されない工芸品が東南アジアの森林伐採の原因になっているなどありえない話だ。しかし、世の中にはそんな風説が溢れており、ランドローバーのような企業はそれを脅威と考えなければいけないような状況になっている。
それ以上に、燃費という大きな問題が立ちはだかっている。私は先日、スーパーチャージャー付きのレンジローバーを借りたのだが、1週間普通に使っただけで250ポンド分のガソリンを消費してしまった。これは壊滅的だ。このせいかは分からないが、ランドローバーのマーケティング部門は阿呆な決定をしてしまった。

当然、私は試乗するすべての車に対して広い心をもって接し、先入観によって評価が変わらないように努めている。しかし、平凡な車の記事を書くよりは、最悪な車の記事を書くほうがよっぽど楽しいため、ときに試乗予定車を選ぶときにわざと出来の悪そうな車を選ぶことがある。フリーランダー2 eD4の試乗車を予約したときもこういう経緯があった。この車は、ランドローバーの長い歴史の中で初の、前足しか使わない市販車だ。
もちろん、理屈は分かる。2WDのほうが燃費も良くてエコだ。しかし残念ながら、前輪駆動のランドローバーなど馬鹿げている。TARMACが香水を発売するようなものだ。あるいは、スピア&ジャクソンがランジェリー市場に参入するようなものだ。
それだけではない。結局のところ、2WDのフリーランダーという車は、超高価で取り回しのしづらいだけのフォード・フォーカスの代用品だ。シートの数も変わらないし、ランドローバーだからといって、路面の凹凸の集中砲火にフォーカス以上に耐えてくれるわけではない。確かに、デザイナーのおかげで見た目は堅牢そうだ。しかし、実際は違う。それに、地上高があまりにも高いので、老いた飼い犬を車に乗せるのも一苦労だ。なので、抱きかかえてやらなければいけないのだが、そんなことをしたら手が汚れてしまうだろう。
こういう事実を勘案して、私はナチス親衛隊のような残虐な笑みを湛えてフリーランダーに近付いた。私はこの車を拷問するつもりだった。嘲笑するつもりだった。滅茶苦茶に破り捨ててやるつもりだった。ところが困ったことに、これは非常に優秀な車だった。
なによりまず、最近のランドローバーの見た目を台無しにしている成金っぽい派手さが、このベイビー・ランドローバーには存在しなかった。しかも、竹馬を履いたハッチバックに過ぎないはずなのだが、ちゃんと高価そうに見える。王者の風格さえ漂っていた。また、老犬を乗せるのは難しいかもしれないが、竹馬を履いているおかげで、運転していると自分が偉くなったような気分になる。世の中にはたくさんの「クロスオーバー」と呼ばれる車が存在するのだが、フリーランダーほど威圧的な眺めの車は存在しない。
インテリアは、多くのパーツがレンジローバー(フリーランダーよりもおよそ3倍高価だ)と共通なので、1ポンドショップのお菓子コーナーにいるような気分はしない。確かに、この車は満点の車ではない。しかし、80点はあげられる車だ。そんなに点数をあげるつもりはなかったのだが…。
この車の何よりも良いところは走りだ。4WDシステムが排除されたおかげで75kgも軽量化しており、この変化は運転していると感じ取ることができる。決してスポーティーなどとは言えないのだが、俊敏なのは確かだ。特にステアリングは魅力的で、乗り心地も最高だ。この車を運転するのは風呂に入るようなものだ。それくらい心地良い。

当然、4WDモデルのように森の中に入っていくことはできないのだが、そもそも森に行くような人がこんな車を買うはずがない。とはいえ、地上高は高いので、普通の5ドアハッチバックよりは悪天候や悪路でも走りやすいだろう。
唯一気になった欠点は搭載される2.2Lのディーゼルエンジンだ。従来のフリーランダーに搭載されていた2.2Lエンジンよりはわずかに出力が劣るのだが、トルクは増している。おかげで、アクセルを踏み込むとかなりの加速を得ることができる。なのでパフォーマンスに文句はないのだが、このエンジンは「これって本当にディーゼル?」と思わせるような類のディーゼルエンジンでは決してない。振動が酷いので、燃料の代わりに小石でも使っているのではないかと疑ってしまう。これは納税証明書の貼られたパワープレートだ。
エンジンの始動があまりにも粗っぽいので、アイドリングストップ機能はオフにしてしまった。アイドリングストップを使えば指先ほどの燃料は節約できるかもしれないが、私がおかしくなってしまう。このエンジンの粗雑さのせいで満点を逃したと言っても過言ではない。
それでも、これは80点を与えられる車だ。予想を遥かに超える出来だったからだ。燃料費の高騰や偏見だらけの北オックスフォード住民のおかげで、非常に優秀な車が生まれてしまったようだ。
The Clarkson review: Land Rover Freelander 2 (2011)
今回紹介するのは、2011年に書かれたランドローバー・フリーランダー2 eD4 のレビューです。

電話が鳴った。つい先日ジャガーを事故で廃車にしてしまい、保険金で新しいレンジローバーを買おうか悩んでいる友人からだった。私は彼に対し、あらゆる点を考慮してもレンジローバーが世界最高の車だろうということ、そして、買うとしたら新型車は避けたほうがいいことを説明した。リセールバリューはすぐに下がってしまうだろうし、新型モデルはバッテリー切れを起こしやすい傾向にある。なので、旧型最終モデルのディーゼル仕様を中古で買うべきだと助言したのだが、彼は驚きの返答をした。
彼が住んでいるのは、バタリー式養鶏場で生産された卵を購入すると迫害されるような世界らしい。選挙のときに青や赤、黄色の政治思想を掲げることなど許されない。それが北オックスフォードという場所だ。そこでの最高のステータスシンボルは自転車に括り付けられた編み細工の引き車で、そこの住民は皆、本当はゲルに住みたがっている。
なので、その友人は旧モデルを購入したくはないそうだ。彼はエコな新型を欲しがっていた。なるほど…。
彼は自覚していないかもしれないが、ある意味で彼の考え方は的を射ている。トヨタ・プリウスを買うより、自宅からわずか80km離れた場所で生産されているV8ターボの巨大オフロードカーを購入したほうがよっぽどエコだ。プリウスの部品は工場から数百万キロ離れた場所からかき集められ、それからかろうじて車っぽい形になり、そこから再び長距離輸送されて家に届く。ところが、エコ人間はあまり頭が良くないので、友人宅の近所に住む人たちはこんなふうには考えてくれないかもしれない。
彼の新型レンジローバーに対する考え方は非常にエコだと思うのだが、北オックスフォードにおいて、レンジローバーは悪魔と同列に扱われている。そこの住人は常々、レンジローバーはオゾン層に穴を開けると主張している。そんな彼らは、古い冷蔵庫を後生大事に使っており、デオドラントスプレーも使っている。
世の中には森林伐採の原因を自動車メーカーに求める人さえ存在する。現在、木から自動車を作っているメーカーなどモーガン以外には存在しない。マルヴァーンで年間17台しか製造されない工芸品が東南アジアの森林伐採の原因になっているなどありえない話だ。しかし、世の中にはそんな風説が溢れており、ランドローバーのような企業はそれを脅威と考えなければいけないような状況になっている。
それ以上に、燃費という大きな問題が立ちはだかっている。私は先日、スーパーチャージャー付きのレンジローバーを借りたのだが、1週間普通に使っただけで250ポンド分のガソリンを消費してしまった。これは壊滅的だ。このせいかは分からないが、ランドローバーのマーケティング部門は阿呆な決定をしてしまった。

当然、私は試乗するすべての車に対して広い心をもって接し、先入観によって評価が変わらないように努めている。しかし、平凡な車の記事を書くよりは、最悪な車の記事を書くほうがよっぽど楽しいため、ときに試乗予定車を選ぶときにわざと出来の悪そうな車を選ぶことがある。フリーランダー2 eD4の試乗車を予約したときもこういう経緯があった。この車は、ランドローバーの長い歴史の中で初の、前足しか使わない市販車だ。
もちろん、理屈は分かる。2WDのほうが燃費も良くてエコだ。しかし残念ながら、前輪駆動のランドローバーなど馬鹿げている。TARMACが香水を発売するようなものだ。あるいは、スピア&ジャクソンがランジェリー市場に参入するようなものだ。
それだけではない。結局のところ、2WDのフリーランダーという車は、超高価で取り回しのしづらいだけのフォード・フォーカスの代用品だ。シートの数も変わらないし、ランドローバーだからといって、路面の凹凸の集中砲火にフォーカス以上に耐えてくれるわけではない。確かに、デザイナーのおかげで見た目は堅牢そうだ。しかし、実際は違う。それに、地上高があまりにも高いので、老いた飼い犬を車に乗せるのも一苦労だ。なので、抱きかかえてやらなければいけないのだが、そんなことをしたら手が汚れてしまうだろう。
こういう事実を勘案して、私はナチス親衛隊のような残虐な笑みを湛えてフリーランダーに近付いた。私はこの車を拷問するつもりだった。嘲笑するつもりだった。滅茶苦茶に破り捨ててやるつもりだった。ところが困ったことに、これは非常に優秀な車だった。
なによりまず、最近のランドローバーの見た目を台無しにしている成金っぽい派手さが、このベイビー・ランドローバーには存在しなかった。しかも、竹馬を履いたハッチバックに過ぎないはずなのだが、ちゃんと高価そうに見える。王者の風格さえ漂っていた。また、老犬を乗せるのは難しいかもしれないが、竹馬を履いているおかげで、運転していると自分が偉くなったような気分になる。世の中にはたくさんの「クロスオーバー」と呼ばれる車が存在するのだが、フリーランダーほど威圧的な眺めの車は存在しない。
インテリアは、多くのパーツがレンジローバー(フリーランダーよりもおよそ3倍高価だ)と共通なので、1ポンドショップのお菓子コーナーにいるような気分はしない。確かに、この車は満点の車ではない。しかし、80点はあげられる車だ。そんなに点数をあげるつもりはなかったのだが…。
この車の何よりも良いところは走りだ。4WDシステムが排除されたおかげで75kgも軽量化しており、この変化は運転していると感じ取ることができる。決してスポーティーなどとは言えないのだが、俊敏なのは確かだ。特にステアリングは魅力的で、乗り心地も最高だ。この車を運転するのは風呂に入るようなものだ。それくらい心地良い。

当然、4WDモデルのように森の中に入っていくことはできないのだが、そもそも森に行くような人がこんな車を買うはずがない。とはいえ、地上高は高いので、普通の5ドアハッチバックよりは悪天候や悪路でも走りやすいだろう。
唯一気になった欠点は搭載される2.2Lのディーゼルエンジンだ。従来のフリーランダーに搭載されていた2.2Lエンジンよりはわずかに出力が劣るのだが、トルクは増している。おかげで、アクセルを踏み込むとかなりの加速を得ることができる。なのでパフォーマンスに文句はないのだが、このエンジンは「これって本当にディーゼル?」と思わせるような類のディーゼルエンジンでは決してない。振動が酷いので、燃料の代わりに小石でも使っているのではないかと疑ってしまう。これは納税証明書の貼られたパワープレートだ。
エンジンの始動があまりにも粗っぽいので、アイドリングストップ機能はオフにしてしまった。アイドリングストップを使えば指先ほどの燃料は節約できるかもしれないが、私がおかしくなってしまう。このエンジンの粗雑さのせいで満点を逃したと言っても過言ではない。
それでも、これは80点を与えられる車だ。予想を遥かに超える出来だったからだ。燃料費の高騰や偏見だらけの北オックスフォード住民のおかげで、非常に優秀な車が生まれてしまったようだ。
The Clarkson review: Land Rover Freelander 2 (2011)