今回は、米国「Car and Driver」によるジェネシス・G70のプロトタイプモデルの試乗レポートを日本語で紹介します。


G70

ジェネシス・G70はジェネシスにとってかなり重要なモデルだ。韓国の新興高級車メーカーであるジェネシスがブランド力の高いライバル車と戦っていけるかどうかはこの車に懸かっているのかもしれない。しかし、ジェネシス自身すら、世界の高級車市場が飽和状態にあることを認めている。実際、ジェネシスのトップを務めるマンフレッド・フィッツジェラルド氏は「ジェネシスというブランドがなくても、世界は問題なく回っていきます」と話している。そのため、型破りで特別感のある、顧客が欲しいと思える車を生み出す必要がある。

既に販売されているG80やG90も悪い車ではないのだが、いずれも決して革新的な車ではなく、そもそもこの2台のルーツはヒュンダイ車にある。一方で、G70はジェネシスブランドに端を発する最初のモデルであり、かつターゲット層もより厚くなるため、ジェネシスにとっては非常に重要なモデルとなる。

ジェネシスの親会社であるヒュンダイは高級車部門にかなりの力を入れており、ジェネシスの役員には同業他社から数多くの人材を招き入れている。上述したフィッツジェラルド氏も以前はランボルギーニの幹部だった。ほかにも、ベントレーおよびランボルギーニでデザイン主管を務めたルク・ドンカーヴォルケ、GMで5代目シボレー・カマロをデザインしたイ・サンヨプ、BMWで「M」シリーズのシャシ開発を行っていたアルベルト・ビアマンを引き抜いている。彼らに課された使命は、美しいデザインと高い走行性能を兼ね備えた車の開発だ。こういった目標は数多くの自動車メーカーが掲げているが、実際に成功した例はほとんどない。

ジェネシスが立ち向かうのは、ドイツ御三家であるアウディ、BMW、メルセデス・ベンツであり、G70はA4、3シリーズ、Cクラスの競合車だ。全長は4,684mm、ホイールベースは2,835mmだ。走行性能において強敵なのは3シリーズであり、快適性や高級感ではA4やCクラスが強敵だ。今回我々はソウルに飛び、ヒュンダイの南陽研究所において量産前のプロトタイプモデルに試乗した。

ここに掲載している写真は量販モデルのG70の写真だ。個人的には、クリーンなデザインだが、細部まで見るとややごちゃごちゃしている部分もあると感じた。あまり車に対して「型破り」という形容をすることはないのだが、"打倒ドイツ車"の韓国製FRスポーツセダンという生い立ちも考慮すれば、この車は型破りと表現できるかもしれない。

ただし、ジェネシスの次の時代の到来を告げる車はG70ばかりではない。2019年には新型SUV「GV80」の登場が予告されている。2017年はじめにはGV80コンセプトが公開されているのだが、市販モデルはさらに型破りなデザインになるそうだ。GV80コンセプトのヘッドランプはジェネシスブランドの方向性を示しており、2本線が縦に並んだようなG70のヘッドランプとの関連性も示されている。

ドンカーヴォルケ氏いわく、ジェネシスのヘッドランプはいずれ、GV80コンセプトのように細くなっていき、ヘッドランプカバーに光源を収めた古臭いヘッドランプから脱却していくそうだ。最終的には、フロントからフェンダーを通り、ドアまで至るライトを実現したいと考えているらしい。

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GV80と比べるとG70のデザインは地味にも思えるのだが、かといって魅力がないわけではない。流線型で筋肉質なフォルムはBMW 3シリーズやアウディ・A4よりもアルファ ロメオ・ジュリアやインフィニティ・Q50(日本名: 日産・スカイライン)に似ており、非常に複雑なラインを描いている。

実のところ、G70をデザインしたのはドンカーヴォルケ氏でもイ氏でもない。この2人がジェネシスに入社したのはつい18ヶ月前であり、既にG70のデザインが決まったあとだった。彼らがしたことといえば、細部に手を入れ、ルーフラインをわずかに低くしたこと(フィッツジェラルド氏いわく、この変更でデザインがかなり良くなったそうだ)くらいだ。ビアマン氏が入社したのはこの2人より早かったので、開発への影響力はより強かっただろう。2019年に登場予定の新型G80は新しい開発グループが作る最初のモデルとなる予定だ。

ヘッドランプだけでなく、フロントグリルにもジェネシスらしさがある。中央にはジェネシスのロゴが鎮座しており、グリル自体は騎士のヘルムのような形状となっている。形はキャデラックやマツダにも似ているのだが、イ氏によると、ジェネシスのほうがより位置が低くて大きいそうだ。フロントグリル下のエアインテークの形状も今後のジェネシスデザインに繋がっていくらしい。

インテリアはドライバーオリエンテッドで配置もうまい。シフトレバー後方には走行モード選択用のコントロールダイヤルがあり、左右対称のセンターパネルの上部には流行に倣ったタブレット風のタッチスクリーンが置かれている。ディスプレイの下にはインフォテインメントシステム操作用のスイッチ類が並んでいる。ステアリングの形状も魅力的で、ステアリング越しにはアナログメーターが見え、その間には高解像度のディスプレイが設置されている。Apple CarPlayおよびAndroid Autoは標準装備だ。

ジェネシスはベースグレードであってもプラスチックを可能な限り露出させないようにしているらしい。インテリアカラーは選択肢が豊富なのだが、木目パネルは選ぶことができない。このスポーツセダンには不似合いだと判断されたそうだ。その代わり、本物のアルミだけを使ったアルミパネルが用意されている。前方視界は平均的だ。試乗車のインテリアはベージュとブラックばかりで退屈な印象だったのだが、十分洗練されており、質感も高かった。

北米仕様車には2種類のエンジンが設定される。最高出力255PS、最大トルク35.9kgf·mの2.0L 直4ターボエンジンと、最高出力370PS、最大トルク52.0kgf·mの3.3L ツインターボV6エンジンの2種類だ(スペックはおおよその値であり、北米仕様車の正式なスペックは2018年春の発売までには公表される)。いずれも2WDと4WDが設定され、全車にLSDが標準装備される。トランスミッションは全車G80と共通(ただしプログラムはG70専用に変更されている)のヒュンダイ内製の8速ATなのだが、ひょっとしたら発売初年度のみ2.0TにMTモデルが設定されるかもしれない。

3.3Tでスポーツモードにすると4WDシステムが前輪に送る駆動力は抑えられる。これはビアマン氏の考案らしい。G70にはスマート(オート)、ノーマル、カスタム、エコ、スポーツの計5種類の走行モードが用意されている。走行モードを変えるとステアリングの重さおよび応答性、スロットル、エンジン、変速タイミングが変化する。また、4WDモデルでは4WDシステムの挙動も変わるし、アジャスタブルサスペンションを装備する3.3Tではダンパーの硬さも変化する(2.0Tにもオプション設定されるかもしれない)。

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ローンチコントロールとブレーキ制御式のトルクベクタリングは全車に標準装備となる。トルクベクタリングはコーナー内側の車輪にのみブレーキをかけることで旋回を補助するシステムだ。4WDシステムはおよそ60kgの車重増となり、デフォルトでは後輪に100%のトルクを送り、必要に応じて前輪にもトルクを送る。現時点ではまだ車重は公表されていないのだが、前後重量配分は2.0Tが52:48、2.0T AWDが53:47、3.3Tがおよそ55:45と公表されている。G70はキア・スティンガーのプラットフォームの短縮版を採用している。スティンガーと比べると、G70は全長が150mm短く、全幅は20mm狭く、全高は同一で、ホイールベースは70mm短縮されている。

2.0Tの試乗車は韓国仕様で、2WDと4WDの両方に試乗することができた。両者の最大の違いはステアリングのチューニングで(ただしいずれも完成形ではない)、足回りも差別化されている。いずれも225/45R18のブリヂストンRE050Aを履いていたのだが、北米仕様車には高速走行時の快適性を重視してオールシーズンタイヤのミシュランMXM4が装着される。ミシュランのほうが衝撃吸収性が高く、ロードノイズも少ないそうだ。

4気筒エンジンの音は個性に欠けるし、トランスミッションは滑らかではあるのだが時折変速が遅れることがあるので、最後の仕上げが必要だろう。急激な方向転換をするとロールが生じるのだが、大きく姿勢が変化してしまうわけではない。制動時のノーズダイブはやや気になった。北米仕様車はもう少しサスペンションを硬くすべきだろう。2WD車の電動パワーステアリングは軽く、フィールには欠けていた。意外なことに、4WD車のほうがステアリングフィールに富んでおり、重さも適度だった。ビアマン氏によると、北米仕様車はステアリングがより重くなり、中立付近のフィールも増しているそうだ。

3.3Tの試乗車は北米仕様のダイナミックエディションで、前: 225/40ZR19、後: 255/35ZR19のミシュラン Pilot Sport 4Sを履いていた。こちらは非常に活き活きとしていた。同エンジンを積むG80やG90同様、エンジン音は非常にアグレッシヴで、莫大なパフォーマンスを滑らかに発揮する。過剰演出な感じもなく、アクセルを踏み込むたびに飛ぶように加速していく。ただし、スポーツモードだとアクセルから足を離してもすぐに加速が止まらない点は気になった。市販モデルではこの点が改善していることを願いたい。

3.3Tのステアリングは素晴らしく、ドライバーに忠実でクイックだし、過度にターンインの応答性が高いわけでもなく、重さも非常にバランスが取れている。タイトコーナーの続く短いハンドリングコースでも試乗したのだが、意のままに車を操ることができた。特にダイナミックエディションは楽しく、路面からステアリングに、そしてシートに、常にフィードバックが伝わってきた。

標準のブレーキはフロントが2ピストンキャリパーで、リアがシングルピストンだ。オプションでブレンボのブレーキを選択すると(3.3Tでは標準設定)、フロントが4ピストン、リアが2ピストンとなる。ブレンボを装着する3.3Tのブレーキフィールはかなり良好で、より剛性感があり、より簡単に操作することができた。それと比べてしまうと標準のブレーキはやや心許ない。

ジェネシス最大の問題点は歴史の無さだ。それは新しいもの好きの韓国人(韓国車のデザインにもその傾向は見て取れる)にはあまり縁のない話だ。ジェネシスの経営陣は韓国的経営手法にメスを入れ、世界を見据えた戦略を立てていこうとしている。韓国国外においては、商品自体の実力ばかりでなく、ブランドの歴史や伝統も重視される。ジェネシスの未来を決めるのは今後登場するクロスオーバーSUVなのかもしれないが、G70が成功してこそ、新型SUVに期待を持てる。少なくとも今回の試乗では、我々はG70に良い印象を抱いた。


2019 Genesis G70