今回は、英国「Auto Express」によるホンダ・シビックタイプRの試乗レポートを日本語で紹介します。


Civic Type R

新型シビックタイプRの登場までもう少しだ。旧型は登場からわずか2年で引退してしまったのだが、ホンダいわく、新型は劇的な進化を遂げているそうだ。先日、日本で試乗した際にもその実力の片鱗を味わうことができたのだが、今回はヨーロッパの道路でより詳しくテストしてみることにしよう。

ホンダは生半可な気持ちで新型シビックタイプRを生み出したわけではない。フォルクスワーゲン・ゴルフGTI クラブスポーツSはかつて、シビックタイプRからニュルブルクリンクにおけるFF車最速の称号を奪い取ったのだが、新型シビックタイプRは2017年4月にその称号をゴルフから奪還している。

派手な見た目以外に旧型シビックタイプRとの共通性はほとんどない。どこが変わったかを挙げるよりもどこが変わっていないかを挙げるほうが簡単だ。旧型からキャリーオーバーされたパーツはブレーキシステム、トランスミッション、エンジンのみで、これらについてもパフォーマンス向上のためにファインチューンされている。

ブレーキは従来よりも大径化し、ギアはややロングになり、エンジンは最高出力が10PS向上して320PSとなっている。新型の公称最高速度は272km/hなのだが、意外なことに0-100km/h加速は従来よりも0.1秒遅い5.8秒となっている。しかし、シビックと名の付いた車にしては驚異的な数字であることは確かだ。

ほかに注目すべき部分は、37%もの高剛性化を果たしている点だ。新型プラットフォームを採用しているおかげもあるし、なにより、新型シビックタイプRはシビックハッチバックの開発初期段階から同時に開発されている。つまり、標準モデルに後からエアロパーツを付け、パワフルなエンジンを積んだ車ではない。しかし果たして、そんな開発方法をして快適性は犠牲になっていないのだろうか。

rear

驚くべきことに、最初に乗って感心したのは快適性の高さだった。さすがにメルセデス・ベンツ Sクラスほどに快適なわけではないのだが、たった200m走っただけでも、従来とはまったく違う車になっていることが分かる。

路面の段差や凹凸、うねりが何事もなかったかのごとくいなされていく。旧型タイプRで同じような道を走れば、ボクシングヘビー級チャンピオンのアンソニー・ジョシュアと12ラウンドを終えた後のように疲弊してしまう。新型シビックタイプRの快適性に寄与しているのは新設計のシャシ(マルチリンク式リアサスペンションおよびアダプティブダンパー)だ。シャシセッティングにはシビックタイプR史上初のコンフォートモードが用意されている。

低速域では、シートやシフトレバー、ステアリングを介して伝わる振動がほとんど排除されており、全体的な乗り心地も、20インチアルミホイールを履いているにもかかわらず、明らかにしなやかになっている。中高速域では非常に穏やかで、エンジン音も抑えられているし、ボディの動きも安定しているので、高速道路の長距離移動ももはや苦痛ではなくなっている。アダプティブクルーズコントロールもストレス軽減に一役買ってくれる。

着座位置はかなり低くなり、包まれ感が増している。シート自体は旧型同様、サポート性が高く、それでいて快適だ。ダッシュボードのデザインは非常に自然で、インフォテインメントシステムも一見すると現代的なのだが、グラフィックや画面の解像度は依然としてややチープだ。メーターパネルは液晶化しており、旧型と違ってステアリングに隠れてしまうこともない。インテリアの質感も向上しており、手の届く部分にはソフトなプラスチックが使われている。安っぽいプラスチックもセンターコンソールなどには依然として使われているのだが、それでも大きく進化しているのは確かだ。もっとも、フォルクスワーゲンのレベルには達していないが。

嬉しいことに、成熟しても楽しさや車との一体感は失っていない。アダプティブダンパーのモードをスポーツモードやR+モードにすると、エンジンやスロットルレスポンス、そして足回りがシャープになる。機械式フロントLSDが装備され、トレッドが拡大したおかげで、タイトコーナーでも莫大なグリップを確保することができる。ステアリング越しに前輪が路面に食いついているのがよく分かる。タイプRが生み出すトラクションは難攻不落だ。

interior

最高のエンジン音とまでは言えないのだが、7,000rpmまで回すと3本出しの排気管からはかすれ気味の音が聞こえてくる。それ以上回すと時折爆発音まで聞こえてくる。とはいえ、幸いにもフォーカスRSほどに攻撃的な音ではない。

ターボラグは2,500rpm付近では依然としてあるのだが、旧型が3,500rpm以下では無気力に感じられたことを考慮すれば、着実に進化はしている。前輪にはしっかり駆動力が伝わるのだが、伝わり方はあまり滑らかではない。全開加速をするとやや粗さを感じる。

6速MT(ATはオプション設定すらされない)は変わらず魅力的なままだ。滑らかで重量感もあり、正確な操作が可能だ。まさしく完璧なMTだ。ただし、新設定されたレブマッチシステムはハードコアなファンから不興を買うかもしれない。この機能はメニューをいじればオフにもできるのだが、非常によくできている。この機能のおかげで高速域でも変速が正確にできるようになるし、低速域ではより滑らかな変速が可能だ。

そもそものハッチバックとしての実力で考えると、シビックの実力はかなり高い。実用性はかなり高く、荷室容量は420Lもあるし、リアシートには大人2人がちゃんと座れるだけの空間もあるし、乗り心地も良いので、日常的に使用することができる。これは旧型モデルには無かった魅力だ。


New Honda Civic Type R 2017 review