Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
今回紹介するのは、アウディ・RS5 クーペのレビューです。

1980年代、BMWは非常に速くて走りの素晴らしい無個性な見た目のセダンを生み出した。車名はM5といい、世界に名だたる名車として歴史に名を残すことになった。
他の自動車メーカーはBMWが傑作を生み出したことを知りつつも、どのメーカーも対抗しようとはしなかった。これは妙な話だ。チェルシーの昨年の活躍を横目に、他のサッカーチームがこう考えるようなものだ。
「うちではチェルシーには敵わないだろうから、対抗はしないでおこう。」
しかし結局、BMWが市場を開拓してから何年も経ってから、ようやくメルセデスがチューニングメーカーのAMGと力を合わせてハイパフォーマンスカーを作るようになった。ただし、AMGは速いBMWの直接的なライバルにはならなかった。AMGは巨大でやかましく、煙まみれでややソフトだった。ヒューゴ・ボスのスーツを着たマッスルカーだった。
ではアウディはどうだろうか。アウディは4WDモデルに超パワフルなエンジンを載せ、RSというラインアップを作ったのだが、RSにもBMW Mのような繊細な魔法はなかった。
自動車の本質を理解している人なら、トレイルブレーキングを熟知し、グリップの限界を感じ取れるような人なら、フロントヘヴィーなアウディや我儘なメルセデスでは満足できないだろう。本物のドライバーなら、必ずBMWを選ぶはずだ。
しかし、最近のBMWは魅力が薄れている。現時点ではM5は販売されていないし、M2は楽しい車なのだが、その兄貴分であるM3にかつてほどの魅力はない。ステアリングはかなり残念だ。ステアリングが残念なMなど、腐った卵で作ったオムレツのようなものだ。
しかも、BMWにとってはさらに厄介なことに、ライバルたちが最近になってようやく目を覚ましはじめている。アルファ ロメオ・ジュリア クアドリフォリオはフェラーリ製エンジンの4分の3を搭載し、魂を掻き立てる排気音を響かせる。私ならばこれを選ぶだろう。
それに、メルセデスはE63Sというモデルを生み出した。スタイリングは私から(そしてドバイ在住でないあらゆる人類から)見るとやや高慢なのだが、これまでのAMGとはまったく違う車だ。パワーはあるのだが、そのパワーがちゃんとしつけられている。真面目な話、真面目な人のための真面目な車だ。
そして、アウディは今回の主題となっている車を生み出した。今回の主題であるRS5クーペの価格は62,900ポンドだ。この車は絶妙に扇情的だ。

私はTT RSに搭載される400PSの5気筒エンジンが搭載されることを望んでいた。将来、歴史学者が「ガソリン時代」を振り返るとき、このエンジンは歴史に名を残す名機として語り継がれることになるだろう。だからこそ、私はこのエンジンが搭載されることを望んだ。
ところが、アウディは2.9LのツインターボV6エンジンを選んだ。最高出力は450PSで、最大トルクは61.1kgf·mだ。車格を考えればスペックはかなり高い。
0-100km/h加速は3.9秒で、最高速度は250km/h(ダイナミックパッケージ装着車は280km/h)を記録するのだが、数字だけではこの車の半分も理解できない。もう半分を理解するためには、実際に運転席に座ってアクセルを踏む必要がある。そうすれば、思わず笑みがこぼれてしまう。厳密に言えば、最初から笑みがこぼれるわけではない。最初はあまりの速さに唖然としてしまう。以前、騎馬警察の馬の尻に何者かがマスタードをたっぷりかけたホットドッグを挿入するのを見たことがある。アウディはその馬のように加速する。
当然、直線で速いアウディは以前にも存在した。しかし、以前の速いアウディは直線しか走ることができなかった。ドライバーはステアリングを切って「曲がれ! 曲がれよ!」と必死に叫ぶのだが、車はほとんど曲がってくれなかった。フロントヘヴィーな4WD車ゆえの問題だった。
しかし、RS5は違う。前輪は路面に食い付き、テールは滑りやすい。車好きが求める走りを実現している。それに、乗り心地は硬めではあるのだが、昔のアウディのようにバタつくことはない。RS5は出来が良く、非常にまともだし、価格設定も適切だ。
それに、見た目も良い。ホイールはテート・モダンに置いても違和感がないデザインだし、リアサイドウインドウは日産・GT-R風だ(RS5はGT-Rに比肩できる車だ)。しかも、室内空間は2ドアクーペであることを考慮すればそれほど悪くない。
RS5はBMW Mにさらなる打撃を与える車だ。目利きに見せたとしても、賢い選択をしたと褒めてくれるはずだ。
それだけではない。私は先日の夜、ナイツブリッジに行った。そこの道沿いで夕食を食べた(別にホームレスになったわけではなく、エンタープライズというパブで食事をとった)のだが、何か話をしようとしても、ホムスの銃撃戦のごとく響き渡るミスファイアリングシステムの音のせいで掻き消されてしまった。
騒音を響かせるスーパーカーはナイツブリッジ周辺をあちこち走り回り、この私ですら頭にきてしまった。ましてや、私以外の客がどう感じていたかなど想像に難くない。だからこそきっと、ガソリン車を禁止しようという法案が提出されても彼らは反対しないだろう。

最近では似たような状況をあちこちで見かける。自家用車を所有することに飽きた人が増えてきている。彼らはUberや電車を使っている。いまだに自動車に興味を持っている人たちは軽蔑の対象になりはじめている。私がゴルファーやフリーメイソンに対して抱いているのと同じ感情が車好きに向けられるようになってきている。
要するに、誰にも見られず楽しめる本当に速い車が欲しいなら、慎みのある車を選ぶべきだろう。その点でアウディはぴったりだ。
ただ、一つ問題がある。RS5に興味を持つような車好きが今現在持っている車のフロントグリルには、おそらくフォーシルバーリングスなど付いていないだろう。
つまり、アウディのナビシステムの操作系の使い方をまったく知らないはずだ。RS5の試乗車に乗っても、ボタンをいくつか操作し、ぶつくさと文句を言って、結局は試乗車から降りて今乗っている車の新型モデルを選ぶことになるだろう。
これは深刻な問題だ。私はWindowsのパソコンでこの記事を書いているのだが、Macに乗り換えることはできない。わざわざMacのシステムを覚えていられるほど私は暇ではない。私はiPhoneを使っているので、たとえGoogleの最新型スマートフォンが素晴らしいという話を聞いたとしても、まったく興味は持たない。なぜなら、私はAndroidの使い方をまったく知らないからだ。
車でも同じような問題が起こっている。私は自分のフォルクスワーゲン・ゴルフでやかましいナビ音声を黙らせる方法を知っているし、Apple CarPlayの使い方も知っている。トリップコンピューターをリセットする方法も、セルフパーキングシステムを作動させる方法も知っている。しかし、BMWやメルセデスに乗ったら同じことはできない。
車に3つのペダルとステアリングしか付いていなかった時代とは違う。今の車は電子機器だ。最近の車の売りは、いかに渋滞を回避し、事故を起こす前に自動的に停止し、スマートフォン経由で音楽を流すかにある。
アウディの場合、この操作をするのが非常に難しい。なので誰も買うことはないだろう。残念でならない。
The Clarkson Review: 2017 Audi RS 5 Coupé
今回紹介するのは、アウディ・RS5 クーペのレビューです。

1980年代、BMWは非常に速くて走りの素晴らしい無個性な見た目のセダンを生み出した。車名はM5といい、世界に名だたる名車として歴史に名を残すことになった。
他の自動車メーカーはBMWが傑作を生み出したことを知りつつも、どのメーカーも対抗しようとはしなかった。これは妙な話だ。チェルシーの昨年の活躍を横目に、他のサッカーチームがこう考えるようなものだ。
「うちではチェルシーには敵わないだろうから、対抗はしないでおこう。」
しかし結局、BMWが市場を開拓してから何年も経ってから、ようやくメルセデスがチューニングメーカーのAMGと力を合わせてハイパフォーマンスカーを作るようになった。ただし、AMGは速いBMWの直接的なライバルにはならなかった。AMGは巨大でやかましく、煙まみれでややソフトだった。ヒューゴ・ボスのスーツを着たマッスルカーだった。
ではアウディはどうだろうか。アウディは4WDモデルに超パワフルなエンジンを載せ、RSというラインアップを作ったのだが、RSにもBMW Mのような繊細な魔法はなかった。
自動車の本質を理解している人なら、トレイルブレーキングを熟知し、グリップの限界を感じ取れるような人なら、フロントヘヴィーなアウディや我儘なメルセデスでは満足できないだろう。本物のドライバーなら、必ずBMWを選ぶはずだ。
しかし、最近のBMWは魅力が薄れている。現時点ではM5は販売されていないし、M2は楽しい車なのだが、その兄貴分であるM3にかつてほどの魅力はない。ステアリングはかなり残念だ。ステアリングが残念なMなど、腐った卵で作ったオムレツのようなものだ。
しかも、BMWにとってはさらに厄介なことに、ライバルたちが最近になってようやく目を覚ましはじめている。アルファ ロメオ・ジュリア クアドリフォリオはフェラーリ製エンジンの4分の3を搭載し、魂を掻き立てる排気音を響かせる。私ならばこれを選ぶだろう。
それに、メルセデスはE63Sというモデルを生み出した。スタイリングは私から(そしてドバイ在住でないあらゆる人類から)見るとやや高慢なのだが、これまでのAMGとはまったく違う車だ。パワーはあるのだが、そのパワーがちゃんとしつけられている。真面目な話、真面目な人のための真面目な車だ。
そして、アウディは今回の主題となっている車を生み出した。今回の主題であるRS5クーペの価格は62,900ポンドだ。この車は絶妙に扇情的だ。

私はTT RSに搭載される400PSの5気筒エンジンが搭載されることを望んでいた。将来、歴史学者が「ガソリン時代」を振り返るとき、このエンジンは歴史に名を残す名機として語り継がれることになるだろう。だからこそ、私はこのエンジンが搭載されることを望んだ。
ところが、アウディは2.9LのツインターボV6エンジンを選んだ。最高出力は450PSで、最大トルクは61.1kgf·mだ。車格を考えればスペックはかなり高い。
0-100km/h加速は3.9秒で、最高速度は250km/h(ダイナミックパッケージ装着車は280km/h)を記録するのだが、数字だけではこの車の半分も理解できない。もう半分を理解するためには、実際に運転席に座ってアクセルを踏む必要がある。そうすれば、思わず笑みがこぼれてしまう。厳密に言えば、最初から笑みがこぼれるわけではない。最初はあまりの速さに唖然としてしまう。以前、騎馬警察の馬の尻に何者かがマスタードをたっぷりかけたホットドッグを挿入するのを見たことがある。アウディはその馬のように加速する。
当然、直線で速いアウディは以前にも存在した。しかし、以前の速いアウディは直線しか走ることができなかった。ドライバーはステアリングを切って「曲がれ! 曲がれよ!」と必死に叫ぶのだが、車はほとんど曲がってくれなかった。フロントヘヴィーな4WD車ゆえの問題だった。
しかし、RS5は違う。前輪は路面に食い付き、テールは滑りやすい。車好きが求める走りを実現している。それに、乗り心地は硬めではあるのだが、昔のアウディのようにバタつくことはない。RS5は出来が良く、非常にまともだし、価格設定も適切だ。
それに、見た目も良い。ホイールはテート・モダンに置いても違和感がないデザインだし、リアサイドウインドウは日産・GT-R風だ(RS5はGT-Rに比肩できる車だ)。しかも、室内空間は2ドアクーペであることを考慮すればそれほど悪くない。
RS5はBMW Mにさらなる打撃を与える車だ。目利きに見せたとしても、賢い選択をしたと褒めてくれるはずだ。
それだけではない。私は先日の夜、ナイツブリッジに行った。そこの道沿いで夕食を食べた(別にホームレスになったわけではなく、エンタープライズというパブで食事をとった)のだが、何か話をしようとしても、ホムスの銃撃戦のごとく響き渡るミスファイアリングシステムの音のせいで掻き消されてしまった。
騒音を響かせるスーパーカーはナイツブリッジ周辺をあちこち走り回り、この私ですら頭にきてしまった。ましてや、私以外の客がどう感じていたかなど想像に難くない。だからこそきっと、ガソリン車を禁止しようという法案が提出されても彼らは反対しないだろう。

最近では似たような状況をあちこちで見かける。自家用車を所有することに飽きた人が増えてきている。彼らはUberや電車を使っている。いまだに自動車に興味を持っている人たちは軽蔑の対象になりはじめている。私がゴルファーやフリーメイソンに対して抱いているのと同じ感情が車好きに向けられるようになってきている。
要するに、誰にも見られず楽しめる本当に速い車が欲しいなら、慎みのある車を選ぶべきだろう。その点でアウディはぴったりだ。
ただ、一つ問題がある。RS5に興味を持つような車好きが今現在持っている車のフロントグリルには、おそらくフォーシルバーリングスなど付いていないだろう。
つまり、アウディのナビシステムの操作系の使い方をまったく知らないはずだ。RS5の試乗車に乗っても、ボタンをいくつか操作し、ぶつくさと文句を言って、結局は試乗車から降りて今乗っている車の新型モデルを選ぶことになるだろう。
これは深刻な問題だ。私はWindowsのパソコンでこの記事を書いているのだが、Macに乗り換えることはできない。わざわざMacのシステムを覚えていられるほど私は暇ではない。私はiPhoneを使っているので、たとえGoogleの最新型スマートフォンが素晴らしいという話を聞いたとしても、まったく興味は持たない。なぜなら、私はAndroidの使い方をまったく知らないからだ。
車でも同じような問題が起こっている。私は自分のフォルクスワーゲン・ゴルフでやかましいナビ音声を黙らせる方法を知っているし、Apple CarPlayの使い方も知っている。トリップコンピューターをリセットする方法も、セルフパーキングシステムを作動させる方法も知っている。しかし、BMWやメルセデスに乗ったら同じことはできない。
車に3つのペダルとステアリングしか付いていなかった時代とは違う。今の車は電子機器だ。最近の車の売りは、いかに渋滞を回避し、事故を起こす前に自動的に停止し、スマートフォン経由で音楽を流すかにある。
アウディの場合、この操作をするのが非常に難しい。なので誰も買うことはないだろう。残念でならない。
The Clarkson Review: 2017 Audi RS 5 Coupé
ありがとうございました!