今回は、英国「Auto Express」によるキャデラック・エスカレードの試乗レポートを日本語で紹介します。


Escalade

この記事を参考にする人などいないだろう。キャデラック・エスカレードを気に入り、かつ滑稽なほど高価なエスカレードの価格に納得できるなら、我々がどう評価しようとも、気にせず買ってしまうだろう。

しかし、公平な視点に立った評価も必要だと思うので、我々はチューリッヒに向かい、この8人乗りSUVの試乗をすることにした。この車に試乗すれば、きっとキャデラックの未来の片鱗も見えてくるだろう。

エスカレードは3トン近い4WD車であり、巨大なボディには圧倒される。運転席からボンネットの先端を見ることはできず、まるでバスのように感じられる。全長は5.2mと非常に長く、リアウインドウは目を細めなければ見ることができない。着座位置が非常に高いため、一部の巨大SUVを除いて他の車はどれも小さく見える。BMW X5やメルセデス・ベンツ MLクラスすらも横に並べばまるでおもちゃだ。

エスカレードにはシボレー・コルベットに搭載される6.2L V8エンジンのデチューン版が搭載される。デチューン版といえども、最高出力426PS、最大トルク62.2kgf·mを発揮し、0-100km/h加速は7秒を切る。圧倒的なスペックだ。しかし、実際にはそれほど速くは感じられないし、6速ATは競合車のトランスミッションと比べると古臭い。妙なことに、米国仕様車には新設計の8速ATが設定されるのだが、欧州仕様車にはオプションとしてすら設定されない。

rear

エスカレードには「マグネティックライドコントロール」サスペンションが備わるのだが、それでもコーナーではロールして不安定になり、大きさは隠しきれない。スポーツモードにしても状況は好転せず、スピードを出しても安定はしない。

ただ、高速道路では非常に静かで、箱型ボディに22インチホイールを履いているにもかかわらず、風切り音やタイヤノイズはかなり穏やかだ。気筒休止システム(V8エンジンを4気筒エンジンとして作動させることができる)により燃費は向上しているのだが、それでも財布に優しい車とは到底言えない。キャデラックによると、燃費は10%改善しているらしいのだが、カタログ燃費の7.4km/Lを実現するのも難しい。

インテリアは十分に高級感がある。もちろん、中にはヴォクスホールと共通のスイッチやボタンもあるのだが、レザーや木目、金属がふんだんに用いられているし、装備内容は驚くほどに充実している。

シートヒーター、シートベンチレーター、LEDヘッドランプ、サンルーフ、16ウェイパワーシート、リモートエンジンスターター、ヘッドアップディスプレイは全車に標準装備となる。レンジローバーに同等の装備を付けるためには、オプションを大量に選択しなければならない。

interior

ただし、ヴォクスホール・アンペラ(別名: シボレー・ヴォルト)風のタッチコントロールは古臭いし、インフォテインメントシステムの完成度は低い。BMWやアウディやメルセデスのシステムのほうがよっぽど直感的に操作できる。メーターは大きくて見やすいし、メーターの中央部には小型のナビ画面が設置されている。それでも、欧州車に比べると垢抜けない部分が多い。

しかしながら、室内空間はエスカレードの強みだ。エスカレードと同等の室内空間を持つ車はフォルクスワーゲン・カラベルくらいしかないし、8人乗りのエスカレードと直接的に競合できる車など他には存在しない。

今回試乗した標準ホイールベースモデルは5人乗車時の荷室容量が1,461Lだったのだが、ロングホイールベースモデルのエスカレードESVの場合、2,172Lまで拡大する。全長は0.5m増加するのだが、シートをすべてフラットに倒すと3,424Lもの荷室が生まれる。

正直に言うと、イギリスにおいてこのような車に魅力を見出すのは難しい。燃料が安く、道路も広く、舗装もしっかりしている海外の市場であれば魅力も増すのだろうが、ヨーロッパの道路ではエスカレードのような車はほとんど役に立たない。今後、キャデラックが欧州市場でどのような戦略をとってくるのかは楽しみなのだが、少なくとも現時点においてはレンジローバーの最上級グレードを買ったほうが賢明だろう。


Cadillac Escalade 2015 review