今回は、米国「Car and Driver」による、シボレー・クルーズ LT RS、ホンダ・シビック ハッチバック Sport、マツダ3 Touring 2.5、フォルクスワーゲン・ゴルフ 1.8 TSIの比較試乗レポートを日本語で紹介します。


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1台しか車を持てないとしたら、どの車を選びますか?
車にそれほど興味のない人は、よく車好きの人にこんな質問をするはずだ。もちろんこれは不合理な質問だ。車好きにとって、車を1台しか所有できないのは、靴下を片一方しか履けないのと変わらない。とはいえ、車が1台しか持てないなら何を選ぶかという妄想をするのは楽しい。

理想的には、たった1台の車を選ぶなら、軽くて操作性が高く、力強く、それでいて燃費もそれほど悪くなく、室内空間も広く、荷室も広く、マニュアル車で、価格も安い車が良いだろう。BMWがE36のステーションワゴンを再生産してくれれば、それこそが理想の1台と言えるのかもしれない。

しかし、E36はもう生産されていないので、今回は有力な候補車4台を提案しよう。4台ともハッチバックだ。重心が高く、無駄な重さのあるクロスオーバーSUVは選ばなかった。そのうち、マツダ3(日本名: アクセラ)とフォルクスワーゲン・ゴルフの2台は既に評価が確立されているモデルだ。3台目の候補はホンダ・シビックで、4台目はメキシコ製であることが話題となったシボレー・クルーズ ハッチバックだ(ちなみに、メキシコで製造されるモデルは主に米国外向けとなる)。本当は新型スバル・インプレッサも候補に入れたかったのだが、登場したばかりで車を用意することができなかった。

この4台のうちで最も背の高いクルーズでも全高は1,466mmと、最近の車にしては背が低い。車重は最も軽いシビックが1,301kgで、最も重いゴルフでも1,365kgだ。いずれも現代の基準で考えれば比較的軽い。価格は装備の豊富なマツダ3 2.5 Touringの試乗車が最も高く23,300ドルで、オプションのあまり付いていないクルーズやシビックより1,000ドルほど高い。

0-100km/h加速が最も速かったのは6.6秒を記録したゴルフだった。一方でクルーズは8.3秒とかなり遅いのだが、他の2台は7秒程度なので混雑する高速道路への合流でも苦労はしないだろう。荷室容量は1,300~1,500Lで、いずれのモデルも広い室内空間を有していたのだが、4台には違うところもたくさんあった。

では、上述の通り1台を選ばなければいけないとしたらどれを選ぶべきなのだろうか。以下に結論を示そう。


4th: シボレー・クルーズ LT RS

Cruze

クルーズのバッジは混乱を招く。フロントにはカマロのように”Rally Sport”の略である「RS」のバッジが貼られているのだが、リアには「LT」と書かれたバッジが貼られている。LTはおそらく”Luxury Trim”の略だろう。あるいは、”Lifeless Torque”の略だと言いたくもなる。

クルーズの見た目はゴルフ同様にスタイリッシュなのだが、走る楽しさより実用性が重視されていることがはっきりと分かる。とはいえ、走りが悪いわけではない。ステアリングにも問題はないし、ロールも抑えられているし、乗り心地もそれなりに良いし、ブレーキの剛性感もある。しかし、シビックやマツダ3にあるような運転する楽しさはない。ゴルフが小さなメルセデスだとしたら、クルーズは結局、小さなシボレーでしかない。

クルーズのベース価格は4台の中で最も安いのだが、シビックとの価格差はわずか60ドルだ。シビックはクルーズより装備こそ少ないものの、インテリアの質感はシビックのほうがずっと上だ。クルーズのインテリアはどこも安っぽく、ステアリングにもシフトレバーにもプラスチックが使われている。マリブのようにダッシュボードにファブリックが使われている点は面白いのだが、インテリアのほとんどはシボレーお馴染みの硬くて安っぽいプラスチックに覆われている。ペラペラで立て付けの悪い天井はいつ剥がれてもおかしくない感じだし、リアハッチのガラス周辺に使われているプラスチックの質感はラーダにも劣る。最近のGMには成長を感じる部分も多いのだが、インテリアは依然としてGMの弱点のままだ。

もうひとつの弱点がエンジンだ。この1.4Lターボエンジンはカタログスペック上も4台のうちで最も低スペックだし、実際に運転した印象はなおのこと酷い。トルクがあまりにもないので、何かの手違いでノンターボモデルが用意されたのかとさえ思った。ちょっとした斜面ですらシフトダウンしなければならないのだが、シフトダウンしても音や振動が増すばかりで、それほど加速はしてくれない。しかも、トラクションコントロールは必要もないのに介入してくる。おかげで、0-100km/h加速は8.3秒と4台のうちでダントツの最下位だ。これで燃費が良ければまだましなのだが、実際は11.1km/Lで4台中3位だった。

別にシボレーに偏見を持っているわけではない。リアシートは広いし、価格の割に装備が充実しているのも事実だ(運転席パワーシートやフロントシートヒーター、Apple CarPlayおよびAndroid Auto対応の7インチタッチスクリーンも装備される)。けれど、4台のうちで2番目に高価であるにもかかわらず、インテリアは圧倒的に安っぽい。


3rd: マツダ3 Touring 2.5

Mazda3

3位以上は接戦だった。最後まで順位付けに迷ったくらいだ。実際、マツダにもシビックにもゴルフにも熱狂的なファンがいる。

マツダ3のステアリングは素晴らしく、タイヤを介して路面の状況をはっきりと伝えてくれる。ブレーキも同じくらい直感的に操作することができる。エクステリアデザインも素晴らしく、シンプルながら流麗なデザインのマツダ3は奇妙なデザインのシビックと並べると特に魅力的に見えた。高級車ブランドではない一般ブランドから出ている車としては内外装ともにデザインが突出しており、操作系も手に馴染むようにしっかり設計されている。

タイトコーナーでマツダ3と同等に速く走るためには、ポルシェに乗る必要があったくらいだ。新型シビックはスキッドパッドやスラロームでマツダ3を超えるコーナリング性能を見せているのだが、一般道ではマツダ3も自信を持って運転することができるし、4台のうちで最も高い価格にも納得することができる。

ではどうして3位なのだろうか。カタログスペック上ではマツダ3の自然吸気2.5Lエンジンが最もハイスペックなのだが、最新のターボエンジンには太刀打ちできていない。マツダ3の25.6kgf·m/3,250rpmとゴルフの25.4kgf·m/1,600rpmには大きな違いがある。特に坂道での加速性能は物足りなかった。

2,700mmというホイールベースはシビックやクルーズと同一で、ゴルフよりは長いのだが、どういうわけかリアシートは4台のうちで圧倒的に窮屈だし、荷室容量も最も少ない。不満点は他にもある。アームレストの下にある12V電源はフロントウインドウから遠すぎるため、後付けのレーダー探知機やポータブルナビを設置するのは難しい。他の3台と比べると乗り心地も悪く、特に段差を乗り越えた際の垂直方向の振動が大きい。

マツダ3には運転する楽しさはあるものの、パフォーマンスの欠如や乗り心地の悪さは問題だ。見た目も魅力的なのだが、1位を取るためにはまだ足りない部分がある。


2nd: フォルクスワーゲン・ゴルフ

Golf

ジョン・スタインベック著『エデンの東』で例えるなら、ホンダはひょうきんなカレブ、フォルクスワーゲンは真面目なアロンだ。ゴルフは合理的かつ保守的で、ヨーロッパの4人家族に適した車だ。一方、シビックはフェイクダクトやカーボンファイバー風の翼で自分を派手に飾り立てようとしている。ゴルフはパーティーをするための車ではない。仕事をするための車だ。

ゴルフの控えめで落ち着いた性格を気に入る人も多い。他の3台と比べると背が高く、ロールも多めなのだが、その動きは流れるように強靱で、ボディにはドイツ車らしい剛性感があり、衝撃もしっかりと吸収してくれる。

ボディサイズは4台のうちで最も小さく、ホイールベースは他の3台よりもおよそ70mm短いし、全長は最も長いシビックと比べると264mmも短い。しかし、乗り心地やハンドリングは、4台のうちで最も大きな車に乗っているような感覚だった。それに、7世代の歴史を持つゴルフは、室内空間を最大限確保するノウハウをちゃんと持っている。例えば、リアシートの着座位置を高くすることで足下空間に余裕を持たせている。リアシートを畳んだ状態での荷室容量は4台のうちで最大だ。

5速MTはギア比がロングで頻繁に変速する必要がなく、0-100km/h加速は4台のうちで最速だ。1.8L TSIエンジンは滑らかでトルクも低回転域から強力なので、米国市場から追放されたTDIエンジンが恋しいとはあまり思わなくなった。

価格は22,415ドルで、4台のうちでは2番目に安いのだが、装備内容は他の3台よりも充実している。パワーウインドウは4枚ともオート機能付きだし、フロントシートヒーターや荷室内12V電源、エマージェンシーブレーキシステム、ブラインドスポットモニター、サンルーフも装備される。

ゴルフは快適性や実用性のために派手さや楽しさをいくらか失っているのかもしれない。ゴルフはクルーズと同一サイズの205/55R16という4台のうちでは最も細いタイヤを履いているのだが、燃費性能はマツダ3に次いで悪い。他の3台が6速MTなのに対して、ゴルフだけが5速MTなことも関係しているのだろう。結局、ゴルフは予想通り優秀な車ではあったのだが、ホンダのように予想を良い意味で裏切ってはくれなかった。


1st: ホンダ・シビック Sport

Civic

読者の反響を見る限り、ホンダ・シビックのデザインは好き嫌いがはっきりと分かれるようだ。個人的には好きになれない。特に赤いシビックはグロテスクにさえ見える。ただ、このデザインが好きになれるのなら、あるいはこのデザインが気にならないのなら、この車に昔のホンダの光を見出すことができる。

リアハッチ開口部の幅は1,450mmと4台のうちで最も広く、最も狭いクルーズと比べると130mmも幅広だ。荷室開口部地上高はわずか700mmで、クルーズより150mmも低い。奇妙な形状のルーフラインのせいで荷室はわずかに犠牲になっているため、より四角形に近いゴルフのほうが荷室容量は多い。しかし、居住空間は4台のうちで最も広い。シビックには特殊な薄いトノカバーが装備されており、荷室の右もしくは左(どちらか選択することができる)に巻き込んで収納することができる。他の3台の場合、大きな荷物を載せたい時はかさばるトノカバーを自宅に置いて出掛けなければならない。

1.5L 4気筒ターボエンジンの実力も高い。他の3台のエンジンと比べても魅力的で、低回転域から力強く、高回転まで気持ち良く回り、エンジン音も心地良く、それでいて燃費性能は4台のうちで最も良かった。シビックは4台のうちで唯一ハイオク指定なのだが、エンジンの実力を考えればその価値もあるだろうし、いずれにしても燃費が良いのでコストは相殺されるはずだ。

シビックは4台のうちで最も太いコンチネンタルの235/40R18タイヤを履き、高いグリップ性能を誇る。スキッドパッドテスト(0.93G)、スラロームテスト(71km/h)、110-0km/h制動距離テスト(49m)のいずれでも4台のうちで最も良好な結果を残している。山道ではターボの力や強力なグリップでマツダを突き放したし、乗り心地もマツダより優れている。コックピットの操作系も整理されており、非常に扱いやすい。ホンダからCR-Xが消え、その後継車とされる車はCR-Xの域まで辿り着けずにいた。しかし、今のホンダもやろうと思えば往年のCR-Xのような車を作れるということがよく分かった。

マニュアルを選ぶと装備が貧弱になる点は注意してもらいたい。それに、ギア比がショートなので120km/hで航続していてもエンジンはおよそ3,000rpmで回転する。もっとも、それでも燃費はさほど悪くない。キャップレス式の給油口は使うたびに地面にガソリンが垂れてしまう。EPAはこのことを把握しているのだろうか。

というわけで、冒頭の疑問の答えが得られた。たった1台の車を選ぶとしたらシビックを選ぶ。なぜなら、シビックを運転しているときが一番楽しかったからだ。それに、ホンダという企業がその本質を見失っていないことを確認できたのも嬉しかった。


2017 Chevrolet Cruze LT RS vs. 2017 Honda Civic Sport, 2017 Mazda 3 Touring 2.5, 2017 Volkswagen Golf Wolfsburg Edition