Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、ランドローバー・レンジローバー SVAutobiography のレビューです。


Range Rover

数年前の話だ。リチャード・ハモンドは滑走路で車を運転し、なんやかんやあって数週間の昏睡状態に陥った。それによって彼が直線を運転することができないことが証明されたのだが、今回、コーナーも運転できないということが明らかになった。

今回の彼の仕事はスイスの丘で小型電気自動車を試乗することだった。その仕事は完遂されたのだが、どういうわけか彼はフィニッシュラインの先にあった左コーナーでコントロールを失い、土手から転げ落ちて再び病院に搬送されることとなった。

このままいくと、彼は服の脱ぎ方を忘れてしまうかもしれない。毎日のように救急隊に服を切られれば、自分で服を脱ぐこともなくなってしまうだろう。

真面目な話、ハモンドが事故を起こしたことのないサーキットなど、世界中のどこを探してもほとんど思い当たらない。イモラではノーブルを廃車にしているし、アメリカのバージニア・インターナショナル・レースウェイではポルシェでクラッシュしているし、ムジェロではジャガーを曲げている。シルバーストンで行った24時間レースでは彼のせいで我々の真夜中の努力が水の泡となった。

彼が無事だということが明らかになった今、私にとって最大の懸念点は、スイスに残された事故の傷跡だ。事故を起こしたのはリマック・コンセプト ワンという車だ。はっきり言って、これは素晴らしい車だ。

世の中には、テスラの電気自動車について物知り顔で語る金持ちもいるし、G-Wizこそが最高の都市移動手段だと主張する狂信者もいるのだが、大半の一般人は電気をトースターや洗濯機のためのものとしか考えていない。牛乳配達人でもないのにわざわざ電気自動車を購入するのは、ガソリンエンジンで動くフードプロセッサーを購入するようなものだ。

リマックはそんな考え方を変えることのできる企業だ。私はこの車にまだ少ししか乗っていないのだが、この車は信じられないほどに速い。ランボルギーニ・アヴェンタドールどころの騒ぎではない。アヴェンタドールよりもずっと速い。私がこれまで乗ってきたどんな速い車よりも、圧倒的な差をつけて速い。

この車にはモーターが4個搭載されており、それぞれのタイヤに接続されている。4個のモーターの合計最高出力はなんと1200PSを超える。0-100km/h加速を確かめようとしてスピードメーターを見ると、針は200km/hを指している。しかも、最高速度はそれよりさらに160km/h速い。

これほどのパワーがあるなら、バッテリーは3.5秒ごとに空になりそうなものなのだが、ハモンドが試乗した際もバッテリー切れにはならなかった。狂ったような運転をしたとしても、190kmほどは無充電で走行することができる。

私は決して電気自動車好きなどではない。電気モーターとエンジンを比較するのは、電子レンジで調理した料理とガスコンロで調理した料理を比較するようなものだと思っていた。しかし、リマックはそんな私の考えを変えた。リマックは疑いようもなく最高の車だ。

ハモンドもリマックを気に入ったようだ。200km/hで丘から飛び落ちても炎上する前に車外に逃げることができたので、その安全性の高さも気に入っていることだろう。The Grand Tour の次のシリーズでは、ハモンドが何度となくリマックについて語りたがることだろう。私かジェームズ・メイがハモンドを蹴り殺しでもしない限りは。

Rolled Down Concept One
クラッシュしたリマック・コンセプト ワン

一方で、私は少し物思いに耽っている。これから数年後、自動車の主要な動力源となっているのは果たして何なのだろうか。

まだ記憶に新しい話だが、数年前、環境保護主義者はガソリン車が環境に悪いので代わりにディーゼル車を購入するべきだと主張していた。それを否定していた私のような人間たちを嘲笑い、そして睨みつけた。地球温暖化を否定する人たちを「厳しい現実」から逃避していると非難した。

その結果、当時首相だったゴードン・ブラウンはディーゼル車を安く買えるように法整備を行い、たくさんの人たちがディーゼル車を購入するようになった。ところがその後、彼らの主張がまったくのデタラメであることが明らかになった。ガソリン車のほうがディーゼル車よりもよっぽど環境に優しかった。

そして、騙されてディーゼル車を購入した人たちは今後、給油に700ポンド、駐車料金に900万ポンド、ロンドン中心部を走行するために50億ポンドかかるようになる。そのため、誰もがディーゼル車を売ろうとしている。その結果、今のディーゼル車の価値はおよそ5ペンスだ。私は騙された人たちのためにグリーンピースや地球の友に請求書を送りたいと思っている。もし実際に請求書が届けば、ひょっとしたら彼らの考える次の「厳しい現実」を世間に流布する前にもう少し慎重に考えるようになるかもしれない。

私もディーゼル車に乗っている。古いレンジローバーのTDV8だ。この車は問題なく動いている。タンクを満タンにすると、航続可能距離は800kmと表示される。狩猟好きにとっては素晴らしい車だ。ヨークシャーからの帰りにレスター・フォレスト・イーストのガソリンスタンドに寄る必要もない。

賢明なレンジローバーのオーナーは全員ディーゼルを選んでいる。しかし、緑の党の仲間たちのおかげで、次に車を買い換えるときには考え直す必要が出てきた。なので今回、私はガソリンエンジンを搭載するSVオートバイオグラフィーに試乗することにした。

レンジローバーについてはこれまで何百万回と言ってきたことの繰り返しでしか表現できない。レンジローバーは群を抜いている。ライバルなど存在しない。それに、5Lエンジンを搭載するこのモデルは滑稽なほどに速い。おかしいくらいに速い。崖から落ちていく大英博物館のような感じなのだが、驚くべきことにちゃんと車の進行方向をコントロールすることができてしまう。この車でクラッシュできるのはリチャード・ハモンドくらいだろう。

ただ困ったことに、250kmほど走ると燃料計がレッドゾーンに突入してしまう。別にガソリン代を問題にしているわけではない。これほど高価な車が購入できるのであれば、ガソリン代などそれほど気にならないだろう。問題なのは、エコドライブ好きでもない限り、ロンドンからリーズまで無給油で移動することさえできないという点だ。

ならば何を選ぶべきなのだろうか。ハイブリッドのレンジローバーも販売されているのだが、これはディーゼルのハイブリッドなので、アンチディーゼルという最近の世の中の流れには合わない。

唯一の解決策は、純電気自動車を選ぶことなのかもしれない。レンジローバーと電気自動車の相性は良さそうだ。街中ではほぼ無音で走ることができるし、オフロードでは莫大なトルクを発揮してくれる。

ランドローバーはリマックに教えを請うべきだ。ただ残念なことに、リマックはハモンドのせいで失われたコンセプト ワンを作り直すのに忙しいはずなので、ランドローバーの手助けをしている暇などないだろう。


Clarkson on Hammond: he'll forget how to remove his clothes if paramedics keep doing it for him