Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、アルファ ロメオ・ステルヴィオのレビューです。


Stelvio

先日、新型アウディ・Q5に試乗したのだが、Q5について読者の興味を引けるようなことは一切書けない。買うためにお金がかかり、排気ガスを放出する、ただの作りのしっかりした箱でしかない。はっきり言ってしまうと、こんな車に乗るくらいならUberを使ったほうがましだ。

これは真面目な話だ。新型Q5が納車される日の朝、単語テストを受けるディスレクシア患者のごとく、気が急いてしかたなくなるほど納車を心待ちにするような人など存在するのだろうか。自室の壁にQ5のポスターを貼る子供など存在するのだろうか。Q5を買えるだけのお金を稼ぐためにはどれだけ働けばいいのかを考え、Q5を買うために頑張って働こうと思える人など存在するのだろうか。そんな人間など存在するはずがない。Q5は食器用洗剤と同じようにして買われていく車だ。小改良された新型洗剤について長々と書かれた記事など誰が読みたいと思うのだろうか。

それでも少しはQ5に言及することにしよう。エンジンは気に入らなかった。フォルクスワーゲンのディーゼル不正発覚後の2Lターボエンジンは史上最も退屈なパワーユニットだ。洗濯機に搭載されているモーターと同じくらいの楽しさしかない。異常でも起こらない限り、その存在を忘れてしまうほどだ。むしろ、異常が起こってほしいと願いたいくらいだ。そうすれば代わりにUberを使うことができる。Uberのほうがまだ退屈しない。車内の臭いは個性的だし、変な話をしてくるドライバーもいる。

正直になろう。私はSUVと呼ばれるありとあらゆる車を忌み嫌っている。普通のセダンやステーションワゴンよりも遅くて高価で燃費も悪い車に乗る意味などまったく理解できない。馬鹿げている。

しかし、先日トスカーナに行ったときの話だ。ピサ空港の駐車場で私に渡されたのは、アルファ ロメオの新型ステルヴィオの鍵だった。ステルヴィオという名前はアルプス山脈の峠の名前に由来する。ステルヴィオはQ5の直接的な競合車であり、それ以外の車高を高くしたミドルクラスステーションワゴン(いちいち車名を覚えようとすら思わない)のライバルでもある。要するに、竹馬を履いたジュリアだ。上述した通り、私の嫌いなタイプの車だ。

私に鍵を渡してきた男性は私とのツーショット写真を熱心に撮影し、「Top Gear」という番組をいつも見ていると言ってきたのだが、そんなことなど私は聞いていなかった。私は考え込んでいた。
一体全体、神聖なるアルファ ロメオは何を考えているのだろうか。

アルファ ロメオほど美しく魅力的な歴史のある会社に、どうしてわざわざ学校送迎用の退屈な車を作る必要があるのだろうか。アルマーニが買い物袋を作るような話だ。

rear

アルファ自身、説明に苦労しているようだ。アルファいわく、見た目はSUVなのだが、走りはSUVらしくないそうだ。エンジンが生み出す駆動力は後輪に伝わるのだが、トラクションが失われると即座に前輪に駆動力の半分が送られるらしい。カーボンファイバー製のプロペラシャフトや軽量なアルミニウムボディについても言及していた。
なるほど。けれど結局、買い物袋であることに変わりはないじゃないか。

マセラティ・レヴァンテが登場したときにも同じくらい怒りに震えた。しかも、レヴァンテという車は予想通り出来の悪い車だった。とはいえ、件の男性の友人まで写真を撮るためにやって来たので、そろそろステルヴィオにも真面目に目を向けることにした。そして気付いたのだが、この車のデザインはどう見ても優秀だ。

それから、警察官や国境警備員、そして3,000人のタクシードライバーと写真を撮り(全員Top Gearが大好きらしい)、ようやくステルヴィオに乗り込むことができた。そして気付いたのだが、この車の室内はどう考えても居心地が良い。アウディよりもずっとずっと良い。

まるで本物の彫刻のようだった。Q5のインテリアはごく普通の家具のような質感だ。ダイヤルやスイッチ類も家電製品と変わらない。一方、アルファのインテリアは見ているだけで気分が良くなる。まさにイタリア的だ。だからこそ、ドルトムントよりもシエナのほうが居心地が良いのだろう。

ただし、ナビを設定するのは至難の業だ。イタリアの町の名前はどれも5,000文字くらいだし、ようやく"Santa Lucia del Menolata di Christoponte"と入力し終えたとしても、複数件の候補地が出てくる。この地名で検索すると、5,000件もの候補が出現する。

それでもなんとか正しい目的地を入力し、エンジンを始動させた。ディーゼルエンジンだった。なんてこった。ディーゼルエンジンを載せたアルファ ロメオのSUVだなんて…。

しかし面白いことに、イタリアの人は全員がディーゼル車に乗っていたので、駐車場でディーゼル特有の音を響かせることに違和感は覚えなかった。それからアウトストラーダという名前で知られるレース場に行って、非常にパワフルで楽しい車だということに気付いた。カタログスペック上の0-100km/h加速は6.6秒とそこそこの数字なのだが、中域の力強さは非常に印象的だった。アウディ・Q5には無い力強さだ。これだけ力強ければ、ボロボロのフィアット・リトモで160km/hで煽ってくる地元住民をぶっちぎることもできる。

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かといって、走ってきた道すべてを死の色に染めるようなこともない。これだけ馬力やトルクのあるディーゼルエンジンであるにもかかわらず、ポルシェ・マカンに搭載されているディーゼルエンジンよりもよっぽどクリーンだ。しかも、カタログ燃費はおよそ20km/Lだ。

バッジを裏切らない速さは備えているのだが、果たしてハンドリングにアルファらしさはあるのだろうか。全高はジュリアよりもおよそ20cm高いし、スプリングも長く、よりソフトになっている。このセッティングは、アルファが超クイックなステアリングと組み合わせなければ悪くなかったのだろう。

ステアリングをごくわずかに動かすだけで車の進行方向が変わってしまう。車高の低い「乗用車」でサーキットを攻めるときならばこれで良いのだろうが、リトモに煽られながらアウトストラーダを走っているときに、携帯電話でアダルト画像を見ながら運転しているトラック運転手が急に自分の前に車線変更をしてきた場合、少し危なっかしい。

コーナーの曲がり方には癖があるのだが、それを習得してしまえば、正直なところ非常に楽しい。他のSUVのような扱いづらさは感じないし、設計したい人が設計したSUVだということがちゃんと理解できる。乗用車の開発でミスをして、罰としてSUVを設計させられているという感じはない。

これだけの実力があり、かつSUVらしく荷室が広く、シートもたためるし、収納スペースも多いため、唯一の魅力的なSUVと言えそうだ。500馬力のガソリンエンジンを搭載するモデルはさらに魅力的になることだろう。


The Clarkson Review: 2017 Alfa Romeo Stelvio