Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
今回紹介するのは、ボルボ・S90のレビューです。

私が書いた自動車に関する記事を読んでも、ジェレミー・コービンの信者たちは110km/h以上出すことのできる車を購入する意味をまったく理解できずに、むしろ嫌悪感すら抱くだろう。
サッチャー夫人が鉱山労働者を駆逐できたのはスピードがあったからだ。ストライキ参加者はスピードを金持ちの道楽であると考え、それに反抗するためあえてシトロエン・2CVに乗った。そのため、警察は時間に余裕をもってストライキの対策を行うことができた。
当時、ドライバーは自分の好きな速度で車を走らせることができた。当時はオービスなど存在しなかったし、警察はアーサー・スカーギルを逮捕するのに忙しくて交通取り締まりなどしている暇がなかった。
しかし、今や時代は変わった。今でも警察にはたくさんの仕事がある。未成年の犯罪も増加しているし、問題は山積みだ。けれど、今では機械の力で国中が監視されている。
ロンドンにある私のマンションから車でルートン空港まで行こうとしたら(正直に言うと、そんなことはしないのだが)、1cmごとに平均車速を測定されてしまう。
可能ならば、わざとスピード違反をして「スピード税」を払うこともやぶさかではない。非常に賢明なアイディアだと思う。けれど、どういうわけか政府は速度超過を犯罪であると考えており、違反をするたびに免許証に点数が追加されていき、あるいは懲役刑になることすらありうる。
これはなにもイギリスに限った話ではない。どこの国もそうだ。スイスでは車が没収されたうえで刑務所行きになってしまう。フランスでは若い母親たちが道沿いに立って車の通行を妨げている。世界中で馬鹿げたスピード戦争が巻き起こった結果、110km/h以上出すことのできる車を購入する意味を今問われたとしても、それを答えられる自信がなくなってしまった。
これに関連して、BMWやメルセデスやジャガーなどが作っている大型車の話をしよう。どの車も基本的にバランスは完璧で、最高の天気の中、最高のワインディングロードを200km/hで走り抜けることができる。
しかし、この歓びを得る代償として、数千ポンドの罰金を払い、半年間を牢獄の中で過ごさなければいけない。
これが今回の主題、S90の話に繋がっていく。スカイアトランティックのスポンサーでお馴染みのボルボが作っている車だ。

確か、今のボルボの正式社名は「ボルボ・スポンサーズ・スカイアトランティック」だったはずだが、そんなボルボは2020年までにボルボ車が関係する事故を根絶すると公言している。
なるほど。がんや脳マラリアや髄膜炎にかかっていたとしても、ボルボの車内にいる限りは永久に生きることができるということだろうか。
万が一ボルボを運転中に事故が起きてしまったとしても心配はいらない。将来的に、ボルボは4気筒を超える気筒数のエンジンの搭載はしないと公言している。つまり、怪我をするほど速く走ることもできなくなるし、命の危険などまったくなくなるはずだ。
イギリスで販売されるS90にはガソリンエンジンが設定されていない。設定されるのはディーゼルのみだ。当然これは間違っている。今の政府はディーゼル車乗りを大量殺人鬼と認定しており、ちょっと買い物に出掛けるだけでも1分間に500ポンドの罰金を支払わなければならない。
そもそも、このディーゼルエンジンはそれほど優秀ではない。アイドリング中にはカナルボートのごとくガラガラと音を響かせるし、自民党よりもパワーに欠けている。
ボルボはディーゼルしか設定しないという方針をすぐにでも改めるべきだろう。実際、今後はガソリンハイブリッドモデルの登場も予定されている。これは検討に値するモデルだ。今のスピードに厳しい時代には最適だ。
ハンドリングなど知ったことではない。そんなものは何の意味もない。ステアフィールなど不必要だ。ステアリングを回せばちゃんと車の進行方向も変わる。それだけで十分だ。前輪駆動であることのデメリットなど、制限速度内では分かるはずもない。
少なくとも、乗り心地は非常に良い。快適性はかなり高い。ボディサイズは大きい。大きすぎるくらいだ。けれど、その大きさが室内空間にもちゃんと反映されているので問題ない。インテリアの材質選びも巧く、室内は明るくて開放感がある。
BMWやメルセデスに乗ると、男性用洗面用具入れの中にいる気分になる。レザーとストライプに溢れ、コンドームを入れるための隠しポケットも付いている。一方、S90の車内に座ると、大地に腰を落ち着けている気分になる。今販売されている量販車の中ではおそらく最高のインテリアだ。
インテリアの魅力のひとつが、すべての操作をダッシュボードにあるiPad風のスクリーンで行える点だ。普通ならこういうものは使いにくいのだが、わずか2日で慣れ、ちゃんと運転中にも問題なく操作できるようになった。

運転中に操作をしても問題はない。S90にはレーダーナントカや衛星ナントカが大量に装備されており、車線を逸脱したり前方を走る車に衝突したりすることを防いでくれる。そのすべての装備が壊れたとしても、ドライバーがリアシートに移動してお昼寝をしたとしても、なお問題は起こらない。ディーゼルエンジンの性能が低いおかげで、橋の欄干に激突する瞬間にはせいぜい3km/hしか出ていないはずだ。その程度の衝撃なら、ちょっとは目が覚めるかもしれないが、完全に目が覚めることはなく、ちょっと不機嫌になって二度寝してしまうだろう。
それに、ボルボを運転していると、BMWやメルセデスを運転しているときより大人になった気がする。自分自身を、自分の老いを、自分の醜さをちゃんと受け入れて生きていける人のための車だ。
S90にしろ、V90にしろ、歯のホワイトニングや腹壁形成術や豊胸手術を受けるような人は決して乗ることのない車だろう。
けれど、現時点でS90を買う人はいないだろう。ディーゼルエンジンなど穢れているし、悪魔の燃料には多額の税金がかかる。なので、S90のリセールバリューは買って2日目くらいでゼロになるだろう。
しかし、ボルボ・スポンサーズ・スカイアトランティックがハイブリッドモデルやガソリンモデルを追加するのを待つ価値はある。S90は見た目も良くて快適で魅力的な車だ。心臓移植を待機するのも手だろう。
The Clarkson Review: 2017 Volvo S90
今回紹介するのは、ボルボ・S90のレビューです。

私が書いた自動車に関する記事を読んでも、ジェレミー・コービンの信者たちは110km/h以上出すことのできる車を購入する意味をまったく理解できずに、むしろ嫌悪感すら抱くだろう。
サッチャー夫人が鉱山労働者を駆逐できたのはスピードがあったからだ。ストライキ参加者はスピードを金持ちの道楽であると考え、それに反抗するためあえてシトロエン・2CVに乗った。そのため、警察は時間に余裕をもってストライキの対策を行うことができた。
当時、ドライバーは自分の好きな速度で車を走らせることができた。当時はオービスなど存在しなかったし、警察はアーサー・スカーギルを逮捕するのに忙しくて交通取り締まりなどしている暇がなかった。
しかし、今や時代は変わった。今でも警察にはたくさんの仕事がある。未成年の犯罪も増加しているし、問題は山積みだ。けれど、今では機械の力で国中が監視されている。
ロンドンにある私のマンションから車でルートン空港まで行こうとしたら(正直に言うと、そんなことはしないのだが)、1cmごとに平均車速を測定されてしまう。
可能ならば、わざとスピード違反をして「スピード税」を払うこともやぶさかではない。非常に賢明なアイディアだと思う。けれど、どういうわけか政府は速度超過を犯罪であると考えており、違反をするたびに免許証に点数が追加されていき、あるいは懲役刑になることすらありうる。
これはなにもイギリスに限った話ではない。どこの国もそうだ。スイスでは車が没収されたうえで刑務所行きになってしまう。フランスでは若い母親たちが道沿いに立って車の通行を妨げている。世界中で馬鹿げたスピード戦争が巻き起こった結果、110km/h以上出すことのできる車を購入する意味を今問われたとしても、それを答えられる自信がなくなってしまった。
これに関連して、BMWやメルセデスやジャガーなどが作っている大型車の話をしよう。どの車も基本的にバランスは完璧で、最高の天気の中、最高のワインディングロードを200km/hで走り抜けることができる。
しかし、この歓びを得る代償として、数千ポンドの罰金を払い、半年間を牢獄の中で過ごさなければいけない。
これが今回の主題、S90の話に繋がっていく。スカイアトランティックのスポンサーでお馴染みのボルボが作っている車だ。

確か、今のボルボの正式社名は「ボルボ・スポンサーズ・スカイアトランティック」だったはずだが、そんなボルボは2020年までにボルボ車が関係する事故を根絶すると公言している。
なるほど。がんや脳マラリアや髄膜炎にかかっていたとしても、ボルボの車内にいる限りは永久に生きることができるということだろうか。
万が一ボルボを運転中に事故が起きてしまったとしても心配はいらない。将来的に、ボルボは4気筒を超える気筒数のエンジンの搭載はしないと公言している。つまり、怪我をするほど速く走ることもできなくなるし、命の危険などまったくなくなるはずだ。
イギリスで販売されるS90にはガソリンエンジンが設定されていない。設定されるのはディーゼルのみだ。当然これは間違っている。今の政府はディーゼル車乗りを大量殺人鬼と認定しており、ちょっと買い物に出掛けるだけでも1分間に500ポンドの罰金を支払わなければならない。
そもそも、このディーゼルエンジンはそれほど優秀ではない。アイドリング中にはカナルボートのごとくガラガラと音を響かせるし、自民党よりもパワーに欠けている。
ボルボはディーゼルしか設定しないという方針をすぐにでも改めるべきだろう。実際、今後はガソリンハイブリッドモデルの登場も予定されている。これは検討に値するモデルだ。今のスピードに厳しい時代には最適だ。
ハンドリングなど知ったことではない。そんなものは何の意味もない。ステアフィールなど不必要だ。ステアリングを回せばちゃんと車の進行方向も変わる。それだけで十分だ。前輪駆動であることのデメリットなど、制限速度内では分かるはずもない。
少なくとも、乗り心地は非常に良い。快適性はかなり高い。ボディサイズは大きい。大きすぎるくらいだ。けれど、その大きさが室内空間にもちゃんと反映されているので問題ない。インテリアの材質選びも巧く、室内は明るくて開放感がある。
BMWやメルセデスに乗ると、男性用洗面用具入れの中にいる気分になる。レザーとストライプに溢れ、コンドームを入れるための隠しポケットも付いている。一方、S90の車内に座ると、大地に腰を落ち着けている気分になる。今販売されている量販車の中ではおそらく最高のインテリアだ。
インテリアの魅力のひとつが、すべての操作をダッシュボードにあるiPad風のスクリーンで行える点だ。普通ならこういうものは使いにくいのだが、わずか2日で慣れ、ちゃんと運転中にも問題なく操作できるようになった。

運転中に操作をしても問題はない。S90にはレーダーナントカや衛星ナントカが大量に装備されており、車線を逸脱したり前方を走る車に衝突したりすることを防いでくれる。そのすべての装備が壊れたとしても、ドライバーがリアシートに移動してお昼寝をしたとしても、なお問題は起こらない。ディーゼルエンジンの性能が低いおかげで、橋の欄干に激突する瞬間にはせいぜい3km/hしか出ていないはずだ。その程度の衝撃なら、ちょっとは目が覚めるかもしれないが、完全に目が覚めることはなく、ちょっと不機嫌になって二度寝してしまうだろう。
それに、ボルボを運転していると、BMWやメルセデスを運転しているときより大人になった気がする。自分自身を、自分の老いを、自分の醜さをちゃんと受け入れて生きていける人のための車だ。
S90にしろ、V90にしろ、歯のホワイトニングや腹壁形成術や豊胸手術を受けるような人は決して乗ることのない車だろう。
けれど、現時点でS90を買う人はいないだろう。ディーゼルエンジンなど穢れているし、悪魔の燃料には多額の税金がかかる。なので、S90のリセールバリューは買って2日目くらいでゼロになるだろう。
しかし、ボルボ・スポンサーズ・スカイアトランティックがハイブリッドモデルやガソリンモデルを追加するのを待つ価値はある。S90は見た目も良くて快適で魅力的な車だ。心臓移植を待機するのも手だろう。
The Clarkson Review: 2017 Volvo S90