今回は、英国「The Sunday Times」によるヴォクスホール・アストラGTE 16Vとフォード・エスコート XR3iの比較試乗レポートを日本語で紹介します。


Vauxhall-Astra-vs-Ford-Escort

25年前、フォード・エスコートXR3iとヴォクスホール・アストラGTEはチンピラや走り屋の代名詞だったのだが、その「悪さ」は今でも健在なのだろうか。今回は、そんな2台を、元MI5(イギリス保安局)長官のジョナサン・エヴァンスと元ロンドン警視庁テロ対策司令部部長のピーター・クラークの2人でテストした。


ヴォクスホール・アストラGTE 16V

Astra GTE

今回はヴォクスホール・アストラとフォード・エスコートの対決となる。これはルートン対ダゲナムと同義だ。ヴォクスホールの故郷とも言えるルートンは世界中の人に愛されている地域だ。私がMI5のテロ対策部門にいた1990年代頃には、よく中東の諜報関係者からルートンについて訊かれた。

イギリス・フォードのホームであるダゲナムについて訊かれたことは一度もない。ひょっとしたら、イギリス観光庁は海外向けのプロモーションでダゲナムに関するネガティブキャンペーンを展開しているのかもしれない。

ともかく、まずは我々のうちどちらがどちらの車を運転するかを決めることにしよう。コイントスをして、私がアストラGTE 16Vを運転することになった。アストラGTEは当時最速のホットハッチだった。

ボディサイズはそれほど大きくなく、今の車だとコルサとほとんど同じ大きさだ。しかし、最高出力150PSを発揮するDOHCの2Lエンジンが生み出すパフォーマンスは絶大で、0-100km/h加速をおよそ7秒でこなし、最高速度は210km/hを超える。しかも、これだけのパフォーマンスをちゃんと扱いきれている。トランスミッションも使いやすいし、ハンドリングもしっかりしているし、音すらも心地良い。

それと比べると、フォードは少し乱暴な感じがするし、パフォーマンスもアストラほど余裕があるわけではない。

エクステリアデザインもエスコートと比べて非常に洗練されている。白いホイールは万人受けはしないかもしれないが、デュアルエグゾースト、ヘッドランプウォッシャー、エンブレム類など、細かい部分にフォード以上の高級感が見て取れる。

シートは調節幅も広くて快適だ。室内に届く騒音もそれなりに抑えられているし、それでいて車の状態を知るために必要な音はちゃんと耳まで届く。内装の質感はフォードより高い。フォードは部品が簡単に外れてしまう(ドアミラーの調節をしようとしてそれを痛感した)。GTEにはデジタルディスプレイも装備されている。ただし、フォードのシンプルなダッシュボードのほうが使いやすいように感じた。

2台を運転して感じる最大の違いはパワーステアリングの有無だ。アストラにはパワーステアリングが付いており、フォードは低速だとステアリングと格闘しなければいけない。ただし、ある程度の速度が出てしまえば操作はしやすい。アストラのアシストも過剰ではなく、フィールもちゃんとあるし、駐車のときは非常に楽だ。

アストラ唯一の問題点は乗り心地の悪さだ。ホットハッチなので意外なわけではないのだが、フォードは乗り心地とハンドリングのバランスをうまくとっているので、ヴォクスホールよりは乗り心地が良い。それでも、アストラのほうが速いし、フォードよりも現代的な走りを見せてくれる。一方のフォードはシンプルさや実直さが魅力だ。

2台の聖地がエセックスなのは間違いないだろう。なので、今回はダゲナムを出発してA13を通り、サロックへと聖地巡礼の旅へ出掛けることにした。レイクサイドショッピングセンターに到着して気付いたのだが、この商業施設とアストラGTEの誕生年は同じ1990年だった。これは偶然か、はたまた誰かが仕掛けた必然なのだろうか。いずれにしても明らかなことがある。アストラGTEはレイクサイドよりも良い年のとり方をしている。

―ジョナサン・エヴァンス


フォード・エスコート XR3i

Escort XR3i

フォード・エスコートには常に微妙な感情を抱いてきた。悪い思い出があるのが影響しているのかもしれない。1970年代にエスコートを2回借りたことがある。1回目はM6でファンベルトが壊れてしまった。その翌年、湖水地方の狭い道で車線をはみ出して走ってきた対向車と正面衝突をして、車だけでなく私の財布も深い傷を負ってしまった。

その後、私は1987年にロンドンはイーストエンドで刑事となった。今やホクストンといえば個性的なバーや画廊が溢れるおしゃれな街なのだが、当時は違っていた。当時はもっと乱雑で貧しい街だった。

ある晩、ホクストンで1人の男が赤いエスコートXR3iに轢かれて重症を負った。我々はその車とドライバーを探した。結局、そのドライバーは刑務所行きとなり、車は警察が預かることになった。ところが、その車は燃えてしまった。復讐として放火されたのか、それとも自然に燃えたのか。真相は分からないが、その事件もエスコートに対する悪印象と関係している。

今回、久々にエスコートを運転した。昔を懐かしむ良い機会だ。エスコートXR3iもアストラGTEも状態は非常に良かった。エスコートもアストラもフォルクスワーゲン・ゴルフのライバル車なのだが、皮肉なことに私が乗ったエスコートはゴルフと同じくドイツ製だった。

はっきり言って、この2台を比較するのは公平ではない。アストラのほうが年式が新しいし、調子も良かった。それに、アストラのほうが速いし、見た目も良いし、運転も楽しい。最高出力106PSのエスコートが敵うはずなどない。それでも、エスコートはかつて高い人気を誇っていた。特に窃盗団には大人気だった。その理由はよく分からない。車で店を襲撃したり、スーパーの駐車場でドリフトをしたりするのに適した車でもなかった。

ひょっとしたら、盗人は女の子を乗せてクラクトンまでドライブできるような車を求めていたのかもしれないし、シェピー島に旅行に行くための車が欲しかったのかもしれない。XR3iは普通のモデルよりも少し派手でスポーティーさもあった。それこそがこの車の魅力だったのかもしれない。

価格も比較的安く、1986年当時の新車価格は6,278ポンドだった。他人の車を盗む人には関係ないかもしれないが、自分のお金で車を買い、自分のお金で保険料を払う人にとってはこれも重要な要素だ。しかし、XR3iの最大の魅力は万人向けだったという点だろう。XR3iはスタイリッシュで快適性も高く、運転しても楽しいファミリーセダンだ。XR3iに悪い印象を抱いている人がいたとしても、それはドライバーの責任であり、決して車の責任ではない。

―ピーター・クラーク


Battle of yesterday's speed machines: Vauxhall Astra GTE 16V v Ford Escort XR3i