Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
今回紹介するのは、ルノー・トゥインゴGT のレビューです。

ルノーから新型トゥインゴが発表されたとき、多くの自動車評論家がこの車のことを酷評した。遅いことも批判されたし、オーバースピードでコーナーを曲がろうとしても、ドリフトができるわけではなく、アンダーステアを呈してしまうという点も批判された。
果たしてどういうことだろうか。そもそも、こんな車に何を期待していたのだろうか。トゥインゴはコーヒー豆も挽けそうにないほど弱々しいエンジンをリアに搭載したシティカーだ。速く走れるはずなどないし、コーナーで横滑りをするわけもない。そもそも、トゥインゴを買うような人は、そんなことなど決して求めていない。
ルノーの小型車に卓越した走行性能がないことを批判するのは、レコードプレイヤーを購入しておいて、それで排水口の詰まりを解消することができないことを批判するようなものだ。
ところが困ったことに、ルノーはエンジンをリアに搭載してしまっている。ポルシェ・911と同じレイアウトにしてしまったせいで、ポルシェ・911のような走りを期待されてしまった。しかし、プジョーの小型車はフェラーリ・カリフォルニアと同じくフロントエンジンだが、両車の共通点は運転席があることくらいだ。
プジョーといえば、私の友人は先日、娘に108を購入したらしい。108は出来の悪い車だ。私はどうしてそんな車を買ったのかと問い詰めた。そんな車を買うなんて、娘のことが嫌いなのかと尋ねた。108は何もかもが安っぽい。その友人いわく、無料の3年保証が付いており、6,000ポンドほど節約できるのが購入の決め手になったそうだ。
職業柄、私はこういった現実を忘れてしまいがちだ。ストウコーナーを190km/hで走って車の操作性を検証するのが私の仕事なのだが、実際のところ、大半の人が求めているのは安全性やランニングコストであり、限界域におけるタイヤやサスペンションの挙動になど誰も興味を持っていない。
そこで、再びトゥインゴの話に戻ることにしよう。私はこの車を好きになれそうにない。そもそも、シティカーの存在意義が理解できない。実質75ペンスくらいで買えるのかもしれないが、長距離移動をするときに別の車を使わなければいけないなら、コストパフォーマンスが良いなどとは決して言えないだろう。
私に反論したい人もいるだろう。エンジンがあるのだから、シティカーだって高速道路を走ることはできるはずだ。乗り心地が悪いことも、騒音が酷いことも、運転中にリラックスできないことも、誰も気にしないはずだ。しかし、そんな反論に説得力などない。そもそも、超小型エンジンを搭載した超小型車に高速道路をまともに走ることなど不可能だ。

加速車線でアクセルを踏み込むとエンジンが全力を出し尽くしてボンネットがへこみはじめるのだが、本線に合流する頃になってもせいぜい89km/hしか出ない。トラックが走行車線を90km/hで走っている状態だと、本線に合流することすら不可能だ。
トラックに押し潰されてしまうので、そのまま本線に合流することはできない。しかし、エンジンは既に全力を出し切っているので、これ以上加速することもできない。かといって、減速することもできない。この車の制動性能だと、ちょうどいい速度に戻るのに時間がかかりすぎる。
それに、坂という障害もある。娘が持っている古いフィエスタには0.00001Lエンジンが載っているのだが、この車の場合、チルターンにあるM40の坂を登るためには、バンベリーよりも数キロ北の地点から加速をつけないといけない。そうやってようやく坂のてっぺんに着く頃には、階段を一気に駆け上がったときのように疲れ切ってしまう。
高速道路を降りたとしても問題は消えてくれない。小さいエンジンを載せた小さい車に乗っていると、前を走っている車両と同じ速度で走らざるをえなくなる。特に前の車両がトラクターのときは厄介だ。あまりに苛立たしいので追い越しを試みるのだが、トラクターすら4時間かけても追い越せない。
よく考えてもらいたい。街中だけで使うために設計された車など馬鹿げている。街中にはUberもタクシーも地下鉄もバスも自転車レーンもある。街中とはそもそも、自家用車など必要のない場所だ。そんな場所で(他の場所でも同じだが)シティカーに乗るのは危険極まりないし、騒々しいことこの上ない。
そこでトゥインゴGTだ。トゥインゴはシティカーなのだが、GTは現実的な力を手に入れている。それでもエンジンは3気筒の0.9Lと小さいのだが、ターボチャージャーが付いているため、最高出力は109PSと悪くない数字だ。言うなればグレート・デーンと同じ声で吠える小型犬だ。気に入った。面白そうじゃないか。
スピードだって十分に出せるはずだ。109PSという数字は決して大きくはないのだが、この値は初代ゴルフGTIとほとんど変わらない。初代ゴルフGTIが高速道路で通用しないなんてことを言う人は存在しない。

加速感覚は独特で、力が唐突に出てくる感じがある。けれど、そこら辺のファミリーセダンに負けないだけの加速をしてくれるし、まるでホットウィールの世界にやって来たかのような気分を味わうことができる。
ただし、操作性はあまり良くない。ステアフィールなどまったく存在せず、推測で操作しなければならないし、そもそもエンジンがリアにあることがまったく実感できない。スポーティーとは到底言えない。けれど、それでも問題はない。あくまでこの車は、もともと街中で使う車として設計され、後からそれ以外の世界でも走れるだけの力が付加された車だ。
見た目だって見事だ。可愛らしさもある一方で、ターボチャージャー用に追加されたリアのエアスクープやデュアルエグゾーストも魅力的だ。試乗車にはオプションのストライプまで付いており、ミニカーで遊ぶ9歳児に戻ったような気分になった。思わず笑みがこぼれた。
しかも、この車の最大の魅力はもっと別のところにある。ある夜、助手席に大人1人、後部座席に中高生を3人乗せて外出した。狭いという不満こそ言われたものの、ちゃんと乗せることはできた。それに、アクセルを踏み込めば、そんな不満の声も聞こえなくなる。
唯一の問題は、そうやってアクセルを踏み込んだ場合、エンジンが熱を発し、荷室に置いたものが熱くなってしまう点だ。この車でスーパーに食材を買いに出掛けたら、家に帰る頃には熱々のオムレツが出来上がっていることだろう。
それから、最小回転半径にも言及しよう。この車は、まるで車の中心を軸にして回転するかのように旋回することができる。これに比べたらブラックキャブすら取り回しがしづらいと感じてしまうだろう。
要約すると、お洒落で実用的で見た目も良く、動力性能も高く、運転していて幸せになれる車だ。しかも価格は14,000ポンドだ。けれど、自動車専門誌のライターから高い評価を得ることはないだろう。なぜなら、自動車評論家たちは911のような操作性を求めているからだ。けれど、私はこの車をかなり気に入った。なぜなら、911と比較しようなどとは思わないからだ。
The Clarkson Review: Renault Twingo GT
今回紹介するのは、ルノー・トゥインゴGT のレビューです。

ルノーから新型トゥインゴが発表されたとき、多くの自動車評論家がこの車のことを酷評した。遅いことも批判されたし、オーバースピードでコーナーを曲がろうとしても、ドリフトができるわけではなく、アンダーステアを呈してしまうという点も批判された。
果たしてどういうことだろうか。そもそも、こんな車に何を期待していたのだろうか。トゥインゴはコーヒー豆も挽けそうにないほど弱々しいエンジンをリアに搭載したシティカーだ。速く走れるはずなどないし、コーナーで横滑りをするわけもない。そもそも、トゥインゴを買うような人は、そんなことなど決して求めていない。
ルノーの小型車に卓越した走行性能がないことを批判するのは、レコードプレイヤーを購入しておいて、それで排水口の詰まりを解消することができないことを批判するようなものだ。
ところが困ったことに、ルノーはエンジンをリアに搭載してしまっている。ポルシェ・911と同じレイアウトにしてしまったせいで、ポルシェ・911のような走りを期待されてしまった。しかし、プジョーの小型車はフェラーリ・カリフォルニアと同じくフロントエンジンだが、両車の共通点は運転席があることくらいだ。
プジョーといえば、私の友人は先日、娘に108を購入したらしい。108は出来の悪い車だ。私はどうしてそんな車を買ったのかと問い詰めた。そんな車を買うなんて、娘のことが嫌いなのかと尋ねた。108は何もかもが安っぽい。その友人いわく、無料の3年保証が付いており、6,000ポンドほど節約できるのが購入の決め手になったそうだ。
職業柄、私はこういった現実を忘れてしまいがちだ。ストウコーナーを190km/hで走って車の操作性を検証するのが私の仕事なのだが、実際のところ、大半の人が求めているのは安全性やランニングコストであり、限界域におけるタイヤやサスペンションの挙動になど誰も興味を持っていない。
そこで、再びトゥインゴの話に戻ることにしよう。私はこの車を好きになれそうにない。そもそも、シティカーの存在意義が理解できない。実質75ペンスくらいで買えるのかもしれないが、長距離移動をするときに別の車を使わなければいけないなら、コストパフォーマンスが良いなどとは決して言えないだろう。
私に反論したい人もいるだろう。エンジンがあるのだから、シティカーだって高速道路を走ることはできるはずだ。乗り心地が悪いことも、騒音が酷いことも、運転中にリラックスできないことも、誰も気にしないはずだ。しかし、そんな反論に説得力などない。そもそも、超小型エンジンを搭載した超小型車に高速道路をまともに走ることなど不可能だ。

加速車線でアクセルを踏み込むとエンジンが全力を出し尽くしてボンネットがへこみはじめるのだが、本線に合流する頃になってもせいぜい89km/hしか出ない。トラックが走行車線を90km/hで走っている状態だと、本線に合流することすら不可能だ。
トラックに押し潰されてしまうので、そのまま本線に合流することはできない。しかし、エンジンは既に全力を出し切っているので、これ以上加速することもできない。かといって、減速することもできない。この車の制動性能だと、ちょうどいい速度に戻るのに時間がかかりすぎる。
それに、坂という障害もある。娘が持っている古いフィエスタには0.00001Lエンジンが載っているのだが、この車の場合、チルターンにあるM40の坂を登るためには、バンベリーよりも数キロ北の地点から加速をつけないといけない。そうやってようやく坂のてっぺんに着く頃には、階段を一気に駆け上がったときのように疲れ切ってしまう。
高速道路を降りたとしても問題は消えてくれない。小さいエンジンを載せた小さい車に乗っていると、前を走っている車両と同じ速度で走らざるをえなくなる。特に前の車両がトラクターのときは厄介だ。あまりに苛立たしいので追い越しを試みるのだが、トラクターすら4時間かけても追い越せない。
よく考えてもらいたい。街中だけで使うために設計された車など馬鹿げている。街中にはUberもタクシーも地下鉄もバスも自転車レーンもある。街中とはそもそも、自家用車など必要のない場所だ。そんな場所で(他の場所でも同じだが)シティカーに乗るのは危険極まりないし、騒々しいことこの上ない。
そこでトゥインゴGTだ。トゥインゴはシティカーなのだが、GTは現実的な力を手に入れている。それでもエンジンは3気筒の0.9Lと小さいのだが、ターボチャージャーが付いているため、最高出力は109PSと悪くない数字だ。言うなればグレート・デーンと同じ声で吠える小型犬だ。気に入った。面白そうじゃないか。
スピードだって十分に出せるはずだ。109PSという数字は決して大きくはないのだが、この値は初代ゴルフGTIとほとんど変わらない。初代ゴルフGTIが高速道路で通用しないなんてことを言う人は存在しない。

加速感覚は独特で、力が唐突に出てくる感じがある。けれど、そこら辺のファミリーセダンに負けないだけの加速をしてくれるし、まるでホットウィールの世界にやって来たかのような気分を味わうことができる。
ただし、操作性はあまり良くない。ステアフィールなどまったく存在せず、推測で操作しなければならないし、そもそもエンジンがリアにあることがまったく実感できない。スポーティーとは到底言えない。けれど、それでも問題はない。あくまでこの車は、もともと街中で使う車として設計され、後からそれ以外の世界でも走れるだけの力が付加された車だ。
見た目だって見事だ。可愛らしさもある一方で、ターボチャージャー用に追加されたリアのエアスクープやデュアルエグゾーストも魅力的だ。試乗車にはオプションのストライプまで付いており、ミニカーで遊ぶ9歳児に戻ったような気分になった。思わず笑みがこぼれた。
しかも、この車の最大の魅力はもっと別のところにある。ある夜、助手席に大人1人、後部座席に中高生を3人乗せて外出した。狭いという不満こそ言われたものの、ちゃんと乗せることはできた。それに、アクセルを踏み込めば、そんな不満の声も聞こえなくなる。
唯一の問題は、そうやってアクセルを踏み込んだ場合、エンジンが熱を発し、荷室に置いたものが熱くなってしまう点だ。この車でスーパーに食材を買いに出掛けたら、家に帰る頃には熱々のオムレツが出来上がっていることだろう。
それから、最小回転半径にも言及しよう。この車は、まるで車の中心を軸にして回転するかのように旋回することができる。これに比べたらブラックキャブすら取り回しがしづらいと感じてしまうだろう。
要約すると、お洒落で実用的で見た目も良く、動力性能も高く、運転していて幸せになれる車だ。しかも価格は14,000ポンドだ。けれど、自動車専門誌のライターから高い評価を得ることはないだろう。なぜなら、自動車評論家たちは911のような操作性を求めているからだ。けれど、私はこの車をかなり気に入った。なぜなら、911と比較しようなどとは思わないからだ。
The Clarkson Review: Renault Twingo GT
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