今回は、フィリピン「AUTOINDUSTRIYA」によるいすゞ・クロスウインドの試乗レポートを日本語で紹介します。


Crosswind

下手にいじるくらいなら、変えないほうがいい

そんな格言をまさに体現している車がいすゞ・クロスウインドだ。2001年から販売が続けられているクロスウインドはフィリピンにおける超ロングセラーモデルだ。堅牢性が高く、構造も比較的単純なクロスウインドは、その整備性の高さや信頼性の高さが魅力だ。

しかし、現代的なミニバンやSUVの登場により、クロスウインドは苦境に立たされている。果たしてクロスウインドには、設計の新しい洗練されたライバル車に太刀打ちできるだけの実力があるのだろうか。それを確かめてみることにしよう。

クロスウインドの基本的なデザインは2001年から変わっていない。それが悪いことだとは思わないのだが、10年以上前のデザインなので古さは隠しきれない。けれど、高い車高やオールテレーンタイヤ(ミシュランLTX)、マット塗装のアルミホイール、新しくなったフロントグリルおよびバンパーは堅牢な雰囲気を漂わせている。

ヘッドランプの形状も変更されている。従来はプロジェクターヘッドランプとマルチリフレクターヘッドランプの両方が使われる4灯式だったのだが、最新型モデルはマルチリフレクターヘッドランプのみの2灯式となっている。

車内へと乗り込むと、そこは2000年代の世界だ。シートはレザーでもなければファブリックですらなく、耐久性の高いビニール素材が使われている。インパネは登場時からほとんど変わっておらず、センターコンソール、エアコン吹出口、4スポークステアリングも当時のままだ。見慣れたインテリアは安心感もあるのだが、もう少し近代的になってほしいとも思う。

運転席に座ると、非常に高い位置に座っている気分になる。最近のSUVの着座位置は乗用車的なので、クロスウインドの運転感覚に慣れるためには時間がかかるかもしれない。とはいえ、見晴らしは良いので、これはむしろ良い点だと思う。ただ、シートの高さ調節やステアリングのチルト調節ができないのは残念だ。

interior

21世紀に販売されている車であるにもかかわらず、クロスウインドの安全装備は貧弱だ。フロントデュアルSRSエアバッグもABSも付いていないし、後部座席のシートベルトは2点式だ。タッチパネルなんて贅沢なものは付いておらず、あるのはケンウッドの1DINオーディオシステム(AM/FMラジオ、USB/AUX対応)だけだ。6スピーカーが装備されており、音質は普通だ。

エンジンフードを開けると、そこには2.5Lの4JA-1L型ターボディーゼルエンジンが搭載されている。エンジンスペックは登場時から変わっておらず、最高出力は85PS、最大トルクは18.9kgf·mだ。トランスミッションはオーバードライブ機能付きの4速ATで(5速MTも設定される)、駆動方式は後輪駆動となる。

エンジンはOHVの8バルブと時代遅れな感は否めず、特に中回転域では物足りなさを覚える。それでも、信頼性に関しては筋金入りのこのエンジンをもってすれば、行けない場所などほとんどないだろう。低回転域での力強さも魅力だ。ただし、特にAT車の場合、追い越しは慎重に行う必要がある。

燃費性能には驚かされた。高速道路と一般道の両方を走行したときの平均燃費は9.7km/Lだった。コモンレールシステムが使われていない設計の古いターボディーゼルエンジンであることを考慮すれば、クロスウインドの燃費性能はそれなりに優秀だと言える。

リーフスプリング式リアサスペンションに使われる板バネの枚数を減らした「フレックス・ライド」という構造が新たに採用されたことで、足回りはよりしなやかになり、時代を感じさせない乗り心地を実現している。ただし、コーナリング性能に期待してはいけない。スピードを出せば暴れてしまう。設計の古さや車高を考えれば当然のことだ。

ハンドリング性能は高くないのだが、取り回しはしやすい。ラック・アンド・ピニオン式ステアリングを採用する現代の車と比較すると、ボールナット式ステアリングを採用するクロスウインドはUターンや狭い道での右左折がしやすい。

rear

クロスウインドに一番足りないものはNVH性能だ。信号待ちなどで停車しているときには、ディーゼルエンジンの振動が車内にもはっきりと伝わってくる。それに、高速で走行すると4JA-1Lのエンジン音はかなりやかましくなる。

堅牢なボディオンフレーム構造を守り続け、実績ある4JA-1L型エンジンを搭載するクロスウインドは、決して最先端の車ではないし、そもそもいすゞ自体、時代の先端を行こうとはしていないだろう。クロスウインドはメンテナンスや修理のしやすい堅牢な車を求めている人たちに向けられた車だ。

クロスウインドの価格は106万フィリピンペソと、はっきり言って割高だ。同じくらいの価格でずっと設計の新しいSUVやミニバンを購入することができる。同じいすゞのMU-Xとも価格帯が被っている。それに、もう少しお金を払えば、クロスウインドよりもずっとパワフルで乗り心地も良く、安全装備も充実している大型SUVを購入することができてしまう。

いすゞがこれからもクロスウインドを売り続けたいのであれば、時代に即した改良をしていく必要が出てくるだろう。例えば、ディーゼルエンジンの設計を刷新したり、乗り心地を改善したり、安全装備を充実させたりする必要はあるはずだ。


2016 Isuzu Crosswind XUV AT