今回は、英国「MOTORING RESEARCH」によるフォード・シエラRSコスワースの試乗レポートを日本語で紹介します。


Sierra_RS_Cosworth

発売から30年が経っても、シエラRSコスワースの魅力は色褪せずにいる。突出したフロントバンパー、巨大なホイールアーチ、旅客機のようなリアスポイラー。そこには、特定世代の男たちを魅了する何かがある。

3ドアのコスワースは5,545台が製造されたのだが、その多くは改造されたり盗難されたり事故によって損傷したりしている。今やコスワースは入手困難なクラシックカーであり、中でも希少な特別仕様車のRS500は今や100,000ポンドの価値がある。

コスワースは貴族階級に訴求する車ではない。コスワースは労働者階級の星だ。そんな星と対面できることがどれほど幸せなことか。

コスワースは(当時の)スーパーカーと同等のパフォーマンスを持つハッチバックを生み出すことで、新たな世界を作り出した。1980年代当時、「高級車」と「大衆車」の境界線は今以上に明確だった。

おそらく最も近しいライバルはE30型のBMW M3だろう。これはレーシングカーを公道用に改造したホモロゲーションマシンだ。しかし、M3はコスワースよりもずっと高価で、性格もかなり違っていた。皮肉なことに、今では両車の中古価格はほとんど同じだ。そしていずれもいまだに強い人気を誇っている。

シエラのボンネットを開けると、”DOHC 16-V TURBO COSWORTH”と書かれた赤いヘッドカバーが目に飛び込んでくる。この2.0Lエンジンにはギャレット製のT3ターボチャージャーが付き、最高出力は標準のRSが207PS、RS500が227PSとなる。ちなみに、レーシングモデルは600馬力までブーストアップされている。

今回乗った標準のRSは英国フォードが保管している個体だ。ターボラグははっきりとあり、100km/hまでは6.5秒で加速する。最高速度は240km/hだ。

ちなみに、コスワースはロードカーに初めてダウンフォースという概念を取り入れたと言われている。分かっているとは思うが、巨大なリアスポイラーは駐車場で注目を集めるためのものではない。

207PSというスペックは当時としては驚異的だったのだが、現代においてそれに近いスペックを持つフォード車はフィエスタST200だ。一方で、シエラの直系の子孫に相当するフォーカスRSは最高出力355PSを誇る。

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それでも、アクセルを踏み込むと速く感じる。4気筒エンジンはけたたましい音を立て、リアタイヤはダゲナムの道でトラクションを失いかける。トランスミッションはあまり滑らかではないし、ステアリングもあまり利口ではないのだが、フィードバックには富んでいる。

空いた山道や車のいない駐車場で横滑りさせるのはとても楽しい。電子制御の運転補助装置など一切付いていないのだが、意外と怖さは感じなかった。E30 M3のような鋭い正確さは期待できないのだが、決して鈍い車ではない。

シエラ コスワースに搭載されるYBエンジンは手を入れていない状態であれば非常に信頼の置けるエンジンだ。問題が起こるのはエンジンを強化しようと手を加えた場合だ。後に登場したシエラ サファイアやエスコート コスワースにも同じエンジンが搭載されているため、パーツは比較的手に入りやすい。ただし、スポイラーやインテリアパーツなど、内外装部品はかなり入手が困難だ。

燃料費も保険料も馬鹿にならないのだが、コスワースにはそれだけの価値がある。不必要に金を銀行に預けておくよりはよっぽど良い。なにより、コスワースを買えば人生がより楽しくなる。

“庶民”のパフォーマンスカーを大切に保管して、特別な日にしか乗らないというのは矛盾している。けれど、今やシエラRSコスワースに日常的に乗るのはかなり難しい。価値は日に日に高騰している。

クラシックカーにとって錆は天敵なので、冬の間は大切に保管しておいて、夏の間に楽しむのが良いと思う。もっとも、大半のコスワースは年中ガレージの中で眠っているだろう。コスワースは盗難のターゲットにもなりやすい。

この記事を書いている時点で売りに出されている最も安いシエラ コスワースは45,000ポンドだ。新車時の価格(15,950ポンド)の3倍近い値段になっている。通常のRSよりも走りの評価は低いにもかかわらず、RS500はさらに高価だ。

残念なことに、4ドアのシエラ サファイア コスワースの価格も同じように高騰傾向にある。20,000ポンド未満のサファイア コスワースを見つけるのは至難の業だ。

購入にあたって注意すべき点もある。何より注意すべきは、手が加えられているかどうかだ。ターボブーストに手が加えられてしまっていると、かなり運転しにくくなってしまうし、車の価値自体も大きく損なわれてしまう。

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また、修復歴の多い個体を購入するのも避けるべきだし、登録型番もちゃんと確認する必要がある。特にシエラの外装パーツは事故跡を隠しやすいので、ちゃんと下から覗いてホイールアーチの裏側やサスペンションまでチェックする必要がある。

RS500を購入する場合は、本物であるかを確認する必要がある。RS500の偽物は数多く確認されている。また、購入前にはちゃんと専門家の手で点検してもらったほうがいい。コスワースのような貴重な車の場合、それくらいの投資をするのは当然のことだろう。

シエラ コスワースはかつて流行り、そして廃れていった車だ。今乗っても魅力は失われていないのだが、かといって格別な走りを見せてくれるわけではない。緩さもあるし、とんでもなく速いわけでもない。

けれど、そんなことを気にする人はいないだろう。その恰好良さはいまだ色褪せていない。ホットハッチに憧れて育った世代なら、今でもコスワースへの情熱を抱き続けているはずだ。

投資目的で購入するのであれば、3ドアのコスワースを選択するのが最善だろう。ただもし投資目的で買ったとしても、ときには外を走らせてほしい。そうすれば、英雄のごとき歓迎を受けるはずだ。

1992年にはシエラの後継車としてエスコート コスワースが登場した。見た目こそ標準のエスコートに似ているものの、シャシはシエラ サファイア コスワース 4x4がベースとなっている。YBエンジンの最高出力は227PSで、特徴的なリアスポイラーも継承されている(ただし、オプションとなっている)。

1990年代にジェレミー・クラークソンがエスコート コスワースを購入したのは有名な話だ。最後に彼の言葉を引用することにしよう。
夜も更け、一刻も早く家に帰ることしか頭になかった。けれど車は怒ったような表情で佇み、暴れたくてうずうずしているようだった。


Ford Sierra RS Cosworth: Retro Road Test