今回は、米国「DIGITAL TRENDS」によるレクサス・LCの試乗レポートを日本語で紹介します。


LC500

レクサスブランドは1989年にトヨタの高級車部門として設立されたのだが、レクサスのモデルの多くは個性に欠けており、トヨタブランドで販売される量産車のバッジ違い程度の車も多かった。残念ながら、「別ブランド」を有する自動車メーカーの多くがこのような状態にある。けれど、わざわざハワイにメディアを招待して試乗会を開催したレクサスいわく、「新しいレクサスの時代」が到来したらしい。しかし、そんなことをするまでもなく、LC500という車は非常に魅力的な車だ。完璧とまでは言えないものの、これまでレクサスにまとわりついてきた偏見を払拭するには十分な出来だ。

レクサスは2012年のデトロイト・オートショーにLF-LCコンセプトを出品した。当時、このコンセプトカーに市販の予定はまったくなかった。しかし、LF-LCはデザイン賞を受賞し、いつ発売されるのかという質問が殺到した。LC500はオリジナルのコンセプトカーのデザインを忠実に再現している。これはデザインチームと技術者が密に連携したことの証左だ。例えば、ランフラットタイヤを採用することで、スペアタイヤを搭載せずに済んでいる。そのおかげで、より大胆なリアデザインを実現することができている。

おそらく、LC500のデザインは好きな人は息を呑むほど見蕩れるだろうし、嫌いな人は吐き気を催すほどの拒否反応を示すだろう。しかしそれは良いことだ。芸術とは人の心を動かすものだ。何も感じないということは、そこに芸術性がないということだ。レクサスのデザイナーは「人の感情を動かす」という仕事をしっかりとこなしている。その感情がネガティブなものかポジティブなものかは見る人によるだろう。

フロントフェイスは獰猛なニシキヘビのようだ。LEDヘッドランプの形状はまるで牙だし、メッシュグリルは非常に複雑で精巧だ。写真で見ると怒ったような感じに見えるだろうが、生で見ると印象はずっと柔らかだ。彫りが深く、特徴的なキャラクターラインを描いているため、写真と現実にギャップが生まれるのだろう。全体的には流麗というより前屈みな印象なのだが、ロー・アンド・ワイドなため、普通のスーパーの駐車場に停めると非常に存在感がある。ただ、コハラの丘陵地帯で見ると、まるで巨大な金属板のようだ。

LC500に搭載される5.0L V8エンジンはGS FやRC Fと共通だ。最高出力478PS、最大トルク55.0kgf·mを発揮し、0-100km/h加速は4.4秒でこなす。ハイブリッドモデルのLC500hには3.5L V6エンジンが搭載され、新設計のマルチステージハイブリッドシステムが採用される。システム出力は359PSで、0-100km/h加速は4.7秒となる。

LC500h rear

他社はこぞって気筒数を減らしたり過給器を採用したりしているのだが、V8自然吸気エンジンの聴覚的魅力は他には真似できない。LC500の音は耳を絶頂へと導く。ハイブリッドモデルに搭載されるV6エンジンも力に関しては十分にあるし、当然燃費も良く、静粛性も高い。しかし、LC500hでアクセルを全開にしてその音を楽しもうとは思えない。一方でV8は静やかな世界に見事な轟音を響かせる。シフトダウンをすればバックファイアー音が鳴り響き、周りからも注目されるだろう。

アクティブエグゾーストが全車に標準装備され、エアインテークとファイアーウォールを繋ぐ共振チューブも備わる。ドライブモードセレクトシステムをエコ、ノーマル、コンフォート、スポーツと変えていくことで、排気音量を変えることもできる。私自身は「SPORT S+」ばかり選択していたのだが、エンジンを切るたびにドライブモードがノーマルに戻ってしまうのは残念だった。

レクサスの新設計プラットフォーム、GA-L (Global Architecture-Luxury) を採用するLC500はソリッドながら硬すぎることはなかった。このプラットフォームは次期型LSをはじめ、今後登場するレクサスのFR車すべてに採用されていく予定だ。前後重量配分はLC500が54:46、LC500hは52:48で、いずれも操作性は高い。コーナーにオーバースピードで進入してしまったとしても、優秀なブレーキがちゃんとカバーしてくれる。車重は1,941kg(ハイブリッドモデルは2,012kg)とそれなりに重いため、大径のブレーキが用いられている。その体重を支えるのは20インチもしくは21インチのホイール+タイヤだ。

LC500には高級車としては初の10速ATが採用される。変速はマニュアルモードでもはっきりと滑らかだ。ただし、狭いハワイ島では10速すべてを使い切ることはできなかった。それでも、ハイブリッドモデルに乗っているとV8と比較して物足りなさを感じた。

LC500hにはCVTと4速ATの2種類の変速機が搭載されており、擬似的に10速AT風な変速感を演出している。マニュアルモードでもオートモードでも二種類の変速機が協調して10段階の変速を行う。LC500hの加速特性は街中での走行に適している。EPA燃費はシティ燃費11km/L、ハイウェイ燃費15km/L、複合燃費13km/L程度になるらしい。

インテリアの仕上がりはレクサスらしく高品質なのだが、エクステリアに見合うほどの個性や魅力はない。近年では「ビスポーク」という表現がよく使われるが、LC500にこそ、この言葉が似合っている。3スポークの本革ステアリングはパドルシフトの位置まで含めて完璧な配置だ。あらゆる配置がエルゴノミクス的に完璧だし、触れる場所はどこも質感が高い。ツートンインテリアは特に魅力的だし、高級感もあるのだが、最高のインテリアとまでは言い難い。それに、居心地は良いのだが、やはりどこか物足りなさがある。

rear

シートは快適ながら、贅の限りを尽くしたという感じではない。オプションのアルカンターラスポーツシートもサポート性は高いのだが、特に大柄な人は少し窮屈に感じるかもしれない。運転席は10ウェイパワーシートであってほしかったのだが、ランバーサポートの調整は2ウェイしかないし、サイサポートの調整はできない。オプション抜きで最安価格が92,000ドル(ハイブリッドは96,510ドル)もするのだから、もう少し装備が充実していてもいいはずだ。

インテリアデザインはクリーンなのだが、センターコンソールにあるグレーのボタンは直射日光に照らされると表示が読めなくなってしまう。ハワイは日光には事欠かないので、しばしばボタンを押し間違えてしまった。ただ、10.3インチのディスプレイは見やすく、音楽、地図、その他諸々を簡単に確認することができる。新設計のリモートタッチインターフェースは読みづらいボタンの下に配置されており、スクリーン上のカーソルが選択可能な場所に行くと微振動が起きて直感的に操作できるようになっている。ぎこちないところもあるし、慣れるのに時間もかかるのだが、それほど大きな問題にはならないだろう。結局、人間が一番直感的に操作できるのは物理ボタンなのだろうが、困ったことにどのボタンを押せばいいのかは分からない。

最大の問題点は狭いリアシートだろう。これがあるおかげでアメリカでの保険料は安くなるのだが、あくまでもそれだけだ。フロントシートを窮屈に感じるくらいの体格の人の場合、リアシートに座ると閉所恐怖症になってしまうかもしれない。

2017年5月に発売される予定のLC500は、メルセデス・ベンツ SLクラスやBMW 6シリーズ グランクーペ、ポルシェ・911 GTSといったドイツ車と競合することになるだろう。LC500には足りない部分もあるのだが、少なくとも、これまでの「退屈なレクサス」という殻を打ち破るだけの実力は持っている。LC500hもスポーティーなハイブリッドカーとして悪い車ではないのだが、やはりV8エンジンを載せるLC500の魅力には敵わない。販売の80%はV8が占めると予想されている。楽しい車を求めている人がレクサスを選択肢に入れる時代が来るのかもしれない。


2018 Lexus LC 500 & LC 500h first drive