Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのリチャード・ハモンドが英「Top Gear」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2013年に書かれたロータス・エスプリ エセックスのレビューです。


Esprit

ロータス・エスプリ エセックス。はて、エセックスとはなんだろうか。輝かしきイギリス製スーパーカー、エスプリに初のターボモデルが登場し、それを祝う特別仕様車が登場した。どんな経緯で名前が決まったかは知らないが、そうして生まれた特別仕様車の名前は、「ターボライザー」でも「ターボ・デス・レイ・スペシャル」でも「キング・ドン」でも「マイティ・エクスカリバー」でもなく、「エセックス」に決まった。

名前にF1らしさを取り入れるため、F1のスポンサーであるエセックス・ペトロリアムの名前が使われている。個人的には、ロータス・エスプリ ペトロリアムという名前でも良かったような気もするのだが…。

エセックスという名前が付けられた理由は他にもある。インテリアを見ればそれがよく分かる。エスプリ エセックスにはオレンジ色のレザーがふんだんに使われている。テレビに出ているエセックス出身者たちの顔と同じ色だ。しかも、シートはまるで寿命間近のエセックス人の顔の皮膚のようだ。運転席に座るのは、1日に煙草を60本吸う皺だらけのエセックス人の顔に座るようなものだ。ただ、インテリアを見回せば良いところもある。

オレンジ色のレザーを無視してオーディオに目を向けてみよう。カセットプレイヤーが天井に配置されている。まるでジャンボジェットの操縦席のようだ。今ならばともかく、何もかもが悲惨だった1980年代当時からすれば、とてつもなく魅力的だったはずだ。他のどんな車よりも魅力的で大胆だった。なにより、これはイギリス車だ。

Hammond

エセックスはエスプリの第三世代モデルであるS3がベースとなっている。この特別仕様車のインテリアはエクステリア同様ジウジアーロが手掛けている。しかし、変わったのはインテリアばかりではない。エスプリの初代モデル、S1は1976年に登場した。ボンドが海の中でエスプリを運転し、ヘリコプターにミサイルを撃ち込んだ姿には憧れた。しかしそれは大昔の話で、時代は移り変わっている。

エセックスにはドライサンプエンジンが搭載され、シャシやリアサスペンションの設計は改められ、ジウジアーロがデザインした空力パーツのおかげで、エクステリアはさらに巨大に、大胆に、そして獰猛になっている。ただ、この4気筒 2.2Lエンジンを始動してもその音は至って平凡だ。

あらゆるすべてに古さを感じてしまう。ギアの繋がりも理想的とは到底言い難い。インテリアは軋んで悲鳴をあげるし、スイッチ類はどう見ても安物車と変わらないし、オレンジ色のシートは身体をまともにホールドしてくれない。

rear

けれど、十分に速いので楽しんで運転できる。ただ、驚くほど速いわけではない。最高出力は213PSとそれほど優れた値ではないのだが、車重は1,220kgと軽いため、0-100km/h加速は約6秒でこなす。最高速度は250km/hだ。

いずれにしろ、エスプリは特別な車だ。リトラクタブルヘッドライトとあらゆるすべてを備えた本物のスーパーカーだ。色彩感覚が異常だろうと、見た目は最高だ。ロータスらしく軽量なので、エンジンの力を最大限に活かすことができる。

それに、エスプリには歴史と血統がある。28年間という長い間、生産が続けられてきた。エスプリよりも優秀な車はたくさんある。エスプリよりも洗練された車、革命的な車はたくさんある。けれど、エスプリは歴史に名を残した車だ。エスプリを所有するということは、伝説を所有することにほかならない。


Hammond drives the icons: Lotus Esprit