Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、ボルボ・V90 D5 PowerPulse AWDのレビューです。


V90

テレビで共演しているジェームズ・メイによると、ボルボを購入するのは歯医者に行くようなものだそうだ。いずれはやらなければならないことらしい。なので、ボルボのことなどむやみに考えないほうがいいそうだ。

ジェームズ・メイは過去に生きている。当時ならばジェームズの話も正しかった。当時、帽子をかぶる人たちは、行動に異常性が見え隠れするようになった人たちは、こぞってボルボを購入していた。ボルボが左に方向指示器を出したとしても、少なくとも左には行かないということしか分からない。

しかし、時代は大きく変貌した。ボルボは馬鹿げた、それでいて面白いステーションワゴンを作り、イギリスツーリングカー選手権に出場した。それからXC90という圧倒的に賢明なファミリーカーを生み出した。そしてちょっとした財政難があり、巨大中国企業の北部部門となった。

混乱期を経て、ボルボというブランドは壊滅してしまった。昔はボルボなら事故を起こしても安全だという理由から、運転が下手な人ばかりがボルボを購入していたのだが、そんな時代は終わった。モータースポーツの時代も終わった。骨董商に愛されたステーションワゴンすら消えてしまった。つまり、ボルボを買う理由がまったくなくなってしまった。

ところがあるとき、ボルボはSky Atlanticで放送されるドラマのスポンサーになった。やや暗めな内容なのだが、次の番組よりもずっと面白かった。そこには明らかなメッセージがあった。平穏と静寂を好む人にボルボを売り込もうとしていた。刑事ドラマにSWATの制服ではなくセーターを求める人に訴求した。このイメージが完成してから、ボルボはその消費者像に合う車を作りはじめた。

妙な戦略ではあるのだが、ともかく、そうやって生み出された車がイギリスに上陸した。その車こそがV90だ。見た目はなんと、なかなか良いじゃないか。むしろかなり良い。

それから車内に乗り込むと、そのまま契約書にサインをしてしまいそうになる。ロールス・ロイス ファントムには敵わないものの、ほかにこの車ほどインテリアの優れた車はない。木とアルミとレザーの組み合わせは崇高だ。しかも、見掛け倒しなわけではなく、機能性もかなり高い。

あらゆる操作をどう見ても上下逆にしたiPadにしか見えないものを使って行う。そのため、ダッシュボードにはボタンやダイヤルがほとんどなく、製造コストも抑えられるだろうし、なにより非常に落ち着いた印象になっている。

interior

私の妹は以前、車のインテリアはどれも男性用洗面用具入れのようだと言っていたのだが、それも一理ある。車のインテリアはどれも基本的に黒くて暗く、赤いストライプのアクセントが入っている。しかし、ボルボはまったく違う。明るくて開放感があるので、非常に居心地が良い。

しかし、車内にずっと座っているわけにもいかないのでエンジンをかけると、すべてが崩壊する。将来的にはガソリンハイブリッドも追加されるらしいのだが、現時点では2Lディーゼルか別の2Lディーゼルしか選択できない。

試乗車に搭載されていた2Lディーゼルエンジンは2種類のうちで馬力のあるほうだった。このエンジンにはターボチャージャーが2基搭載されており、パワーが必要なときにはエンジンに圧縮空気を送り込むこともできる。先進的そうなシステムだし、実際、ターボラグを削減することができる。ただし、車自体が非常に大きいことや、エンジンが2Lのディーゼルであるという事実は変わらない。

2Lという排気量はゴルフや小型リーフブロワーには十分だろう。ただ、V90では明らかに足りない。エンジンが冷えているときにはガラガラと音が鳴るし、高速道路を普通に走っているときでさえ、全力を尽くしている感がずっとある。しかも、8速ATは認知症を患っていてときどきおかしくなり、自分が何者なのかさえ忘れてしまうことがある。運転していてまったく楽しさや歓びが感じられない。

これが必ずしも悪いわけではない。エンジン音のやかましさを気にしない人もいるだろう。ATが自分のことをニンジンだと勘違いしたまま5分が経過しようと、気にも留めない人はいるはずだ。そういった人たちはこの車の燃費性能や環境性能の高さに満足するはずだ。

それに、大量に装備された安全装備の数々にも満足するはずだ。V90には現代の最新技術が可能な限り投入されており、相当事故を起こしにくい車になっている。

快適性の高さも気に入るはずだ。乗り味の柔らかい車ではないのだが、ボディの動きが非常に落ち着いている。それから、試乗した2Lエンジン搭載車には標準装備となる4WDシステムも気に入るだろう。

rear

ただ、盗難警報装置にはがっかりするかもしれない。私の職場のすぐ裏手には熟練の整備士がいるボルボのディーラーがある。そんな彼らが1日に20回も警報を鳴らした。明らかに設計ミスだ。それか、熟練の整備士という看板がまったくのデタラメなのかもしれない。

それに、大きな荷物を荷室に入れようとしたときにもがっかりするだろう。美しいデザインには代償がある。V90の荷室容量はシュコダ・スペルブにすら劣る。つまり、アウディ、メルセデス、BMWのライバル車にも劣っている。

「ライバル車」と表現したものの、V90のほうがよっぽど高価だ。試乗車にはオプションも少ししか付いていなかったのだが、価格は56,480ポンドだった。2Lディーゼルの車であることも考慮すれば異常としか言いようがない。

それに、ディーゼル車なので、いずれは街の中心部を走行することが禁止されるだろう。もしくは、駐車料金を他の車よりも多く取られるようになるかもしれない。

パリやマドリード、アテネなどでは既に厳しいディーゼル規制が実施ないしは計画されている。当然、騙されやすい狂人が運営するイギリス政府もすぐにその流れに乗るだろう。そうすれば、数年前、ホッキョクグマを救えると言われてディーゼル車を購入した人たちから大金を巻き上げることができるだろう。

いずれ、自称「環境科学者」の言葉などあてにならないということがはっきりするだろうが、それまではディーゼル博士の汚れた発明品を使った車など購入するべきではないだろう。なので、私がV90を買うこともない。

ガソリンハイブリッドが登場すれば話は変わるかもしれないが、2Lディーゼルが56,000ポンドであることを考えると、ハイブリッドモデルはきっとステルス爆撃機よりも高くなるだろう。なので、いずれにしても私がV90を買うことはないだろう。


The Clarkson Review: 2017 Volvo V90 estate